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3行の雑記と3行におさまらなかった小話、ときどきLINEの記録を投下しています。島とビ…

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3行の雑記と3行におさまらなかった小話、ときどきLINEの記録を投下しています。島とビールとアートが好きです。へんなものを見つけると嬉しくなります。

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ミッドナイト・ランドリー【ピリカ文庫】

すすぎの音を立てるドラム式の洗濯乾燥機の中で、元気に泳いでいるのは河童だった。 洗濯槽が右に左に回転するたびに生み出される、ねじれた水流の中をほとんど転がるよう…

ヱリ
3週間前
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梅雨晴れのチョロQ

月曜日。自転車を雨晒しにしたせいで、サドルから芝生がぼうぼうに生えている。 カゴに入っていた「刈り〼」のチラシを見て電話をかけてみると、すぐにチョロQが足元に走…

ヱリ
2日前
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エキゾチックブーケ

水曜日。新婦からジャスミンの花束を向けられ「いい匂いなの」と言われたけれど、カレーを食べ始めたところなので花の匂いを嗅ぎたくない。 ねっとりと甘たるくて生温い、…

ヱリ
4日前
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低刺激性フルーツポンチ

金魚鉢に三ツ矢サイダーを注いで日光に当て、炭酸がぷつぷつ抜けていくのを眺めていると「ごめんやで」炭酸の飲めない神田さんが決まり悪そうな顔つきでフルーツミックスの…

ヱリ
5日前
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文学フリマに行った話

行ってきました文学フリマ東京38! わたしの中では春先から楽しみにしてた一大イベントだったので、直前の一週間はタイムラインに文フリ関連の記事があらわれるたびにワク…

ヱリ
11日前
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この世に鯖専用の日本酒があることに感動したはずなのに、この後まぁまぁの量の日本酒を飲んでしまったせいで味がイマイチ思い出せない火曜日。

ヱリ
2週間前
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公園で。隣のベンチで電話している女性の声が心地よかったので耳を傾けると、ヒラヒラしたスカートが踊りやすいとのこと。アベさんはLINEもメールもできるちゃんとした方だから大丈夫とのこと。私があんぱんの袋を取り出したら、女性の膝上でお座りしてたプードルがハッとこちらを見て可愛かった。

ヱリ
2週間前
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以下レシートの転記。

国産鶏もも唐揚用398/日清ごま香油439/割烹白だし329/シャローワンズ328

自分が30分前に買ったものなのに、記憶を辿っても食材を格納した冷蔵庫を確かめてもシャローワンズが何なのか絶望的に分からなくて、とうとうweb検索をしてしまった夕方。

ヱリ
3週間前
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日帰りスパのレストランにて。ホットコーヒーを飲んでたら口寂しくなったのでガトーショコラを追加注文し、食べ終わったら本格的にお腹が空いてきたので台湾まぜそばを頼み、まぜそば食べ始めたら飲まずにいられなくて「ビールください」とか言ってしまい、完全にベンジャミンバトンな食事だった。

ヱリ
4週間前
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邂逅ビワレイク

年忌を重ねるたびに薄れてゆく夫が、今年はとうとう、人のかたちをした淡い影に成り果てていた。玄関と部屋を隔てる硝子戸の前に立ち尽くす、骨格の華奢な人影は夫であるよ…

ヱリ
1か月前
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初めて聞いたすまスパはあやしもさんゲスト回だったなぁ、と思い返しながら2年ぶりに拝聴。たのしい!当時すまスパはnoteの公式チャンネルで、ピリカさんとMarmaladeさんはnoteの運営の方で、noterさん=公式の企画を担当してるnoteの中の人、と思いながら聞いてました。笑

ヱリ
1か月前
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平熱のティータイム

「春の夢なので、三十六度がちょうど良いでしょうね」 茶師に言われて頷いたけれど、お茶のことは何も知らない。 霞がかった空色を広げる晴れた午後に、店にいる客はわた…

ヱリ
1か月前
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金のアレ、銀のアレ

木曜日。おいしいところを最後に食べようと思い、今川焼きの周りをぐるりと一周かじり切ったところで電話が鳴る。 「あなたが食べているのは甘夏マスカルポーネですか? …

ヱリ
1か月前
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今日でnote1歳になりました。
いつも読んでくださる皆様、遊んでくださる皆様、ありがとうございます。
おかげさまでnoteがすごく楽しいです。

ヱリ
1か月前
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チャイムの鳴るまで【piano】

00:00 | 00:00

まんまるがうつくしいから。やわらかくて儚いから。後戻りのできない形だから。揃いも揃って晴れの日に膨らみ満ちてしまって、もう飛んでゆくより他ないから。 近所の霊園…

ヱリ
1か月前
25

長男の卒業文集を半分読んだところで、あまりに文章にあてられて冊子を閉じてしまった。多様さ、無防備さ、激しさ、うつくしさ。色々言葉を巡らせてみたけど、15歳の人々の文章の何に自分が圧倒されているのか一向に言語化できない。子どもたち愛しい、みたいな感動とは違うかんじ。また明日読む。

ヱリ
1か月前
30
ミッドナイト・ランドリー【ピリカ文庫】

ミッドナイト・ランドリー【ピリカ文庫】

すすぎの音を立てるドラム式の洗濯乾燥機の中で、元気に泳いでいるのは河童だった。

洗濯槽が右に左に回転するたびに生み出される、ねじれた水流の中をほとんど転がるようにして、河童は短い手足で気持ちよさそうに水を掻いている。ウィルキンソン炭酸のずんぐりとした1Lペットボトルほどの大きさしかないので、河童はまだ子どもなのだろう。マンションの一階部分に完備されたコインランドリーの、二台並べ置かれたうちの右側

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梅雨晴れのチョロQ

梅雨晴れのチョロQ

月曜日。自転車を雨晒しにしたせいで、サドルから芝生がぼうぼうに生えている。

カゴに入っていた「刈り〼」のチラシを見て電話をかけてみると、すぐにチョロQが足元に走り寄ってきて「ゴルフ刈りでいいですか」と訊いてきた。

小さな芝刈り機をサドルにのせてやりながら「ピクニック感のある長さがいいです」と注文する。サドルの上をゆっくり走り始めたチョロQが、育ちすぎて穂をつけた逞しい芝生をショリショリと刈って

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エキゾチックブーケ

エキゾチックブーケ

水曜日。新婦からジャスミンの花束を向けられ「いい匂いなの」と言われたけれど、カレーを食べ始めたところなので花の匂いを嗅ぎたくない。

ねっとりと甘たるくて生温い、熟れた死骸みたいなジャスミンの臭気が入り込まないよう息を止めて「おかまいなく」にっこりと告げると「遠慮しないで」同じように微笑んだ新婦に小鼻を摘まれ、するりと上方向にスライドされ顔面から外された。

花束の中央に据え置かれた自分の鼻を眺め

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低刺激性フルーツポンチ

低刺激性フルーツポンチ

金魚鉢に三ツ矢サイダーを注いで日光に当て、炭酸がぷつぷつ抜けていくのを眺めていると「ごめんやで」炭酸の飲めない神田さんが決まり悪そうな顔つきでフルーツミックスの缶を開けている。

「どうにも泡が苦しいねん。息出来んようになんねん。いまは紫外線強いから、一時間くらいで気ぃ抜けるんちゃうかな。そしたら安全やねん。ほっとすんねん。ごめんやけど待ったげてや」

黄桃やパイナップルをつつきながら眉を八の字に

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文学フリマに行った話

文学フリマに行った話

行ってきました文学フリマ東京38!

わたしの中では春先から楽しみにしてた一大イベントだったので、直前の一週間はタイムラインに文フリ関連の記事があらわれるたびにワクワクが高まり、前日の夜は高まりすぎで情緒不安定になりました。
(※客として行くだけです)

そんな文フリ。

出品されているおびただしい量の本にも興奮してしまうんですが、いちばんの興奮ポイントはやっぱり、

「会場で芋洗いになってる誰も

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この世に鯖専用の日本酒があることに感動したはずなのに、この後まぁまぁの量の日本酒を飲んでしまったせいで味がイマイチ思い出せない火曜日。

公園で。隣のベンチで電話している女性の声が心地よかったので耳を傾けると、ヒラヒラしたスカートが踊りやすいとのこと。アベさんはLINEもメールもできるちゃんとした方だから大丈夫とのこと。私があんぱんの袋を取り出したら、女性の膝上でお座りしてたプードルがハッとこちらを見て可愛かった。

以下レシートの転記。

国産鶏もも唐揚用398/日清ごま香油439/割烹白だし329/シャローワンズ328

自分が30分前に買ったものなのに、記憶を辿っても食材を格納した冷蔵庫を確かめてもシャローワンズが何なのか絶望的に分からなくて、とうとうweb検索をしてしまった夕方。

日帰りスパのレストランにて。ホットコーヒーを飲んでたら口寂しくなったのでガトーショコラを追加注文し、食べ終わったら本格的にお腹が空いてきたので台湾まぜそばを頼み、まぜそば食べ始めたら飲まずにいられなくて「ビールください」とか言ってしまい、完全にベンジャミンバトンな食事だった。

邂逅ビワレイク

邂逅ビワレイク

年忌を重ねるたびに薄れてゆく夫が、今年はとうとう、人のかたちをした淡い影に成り果てていた。玄関と部屋を隔てる硝子戸の前に立ち尽くす、骨格の華奢な人影は夫であるようにも見えるし、夫でないようにも見える。炬燵で寝そべっていた体をもたげると、透けたり濃くしたりを繰り返していた影が、軽く握った右手を頬にあてた。親指でメガネを上げる、見覚えのある仕草に思いがけず胸が締めつけられて

「わたし琵琶湖いく約束し

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初めて聞いたすまスパはあやしもさんゲスト回だったなぁ、と思い返しながら2年ぶりに拝聴。たのしい!当時すまスパはnoteの公式チャンネルで、ピリカさんとMarmaladeさんはnoteの運営の方で、noterさん=公式の企画を担当してるnoteの中の人、と思いながら聞いてました。笑

平熱のティータイム

平熱のティータイム

「春の夢なので、三十六度がちょうど良いでしょうね」

茶師に言われて頷いたけれど、お茶のことは何も知らない。
霞がかった空色を広げる晴れた午後に、店にいる客はわたしだけだった。L字型をしたモルタルのカウンターには炉が備えられ、据え置かれた鉄釜からほのかに湯気が上がっている。そこへ音もなく柄杓が沈められると、汲み上げられた湯は白い陶器にそそがれた。みっつ並べられた湯さましの、いま湯の張られた右側の器

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金のアレ、銀のアレ

金のアレ、銀のアレ

木曜日。おいしいところを最後に食べようと思い、今川焼きの周りをぐるりと一周かじり切ったところで電話が鳴る。

「あなたが食べているのは甘夏マスカルポーネですか? それとも抹茶ティラミスですか?」

コールセンターの喧騒をまといながら柔かに訊かれ、「食べているのは小倉ですが、その今川焼きも食べたいです」正直に答えて購入の手続きをする。

今日でnote1歳になりました。
いつも読んでくださる皆様、遊んでくださる皆様、ありがとうございます。
おかげさまでnoteがすごく楽しいです。

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まんまるがうつくしいから。やわらかくて儚いから。後戻りのできない形だから。揃いも揃って晴れの日に膨らみ満ちてしまって、もう飛んでゆくより他ないから。
近所の霊園のたんぽぽがいっせいに綿毛になっているのを見ながら、毎年この風景に胸がしめつけられる理由を考えていたら、すごく似たものを最近見たような気がしてきた。よい旅になりますように、と、いつもなら思わないような感想をたんぽぽに抱いて西友に行く。

長男の卒業文集を半分読んだところで、あまりに文章にあてられて冊子を閉じてしまった。多様さ、無防備さ、激しさ、うつくしさ。色々言葉を巡らせてみたけど、15歳の人々の文章の何に自分が圧倒されているのか一向に言語化できない。子どもたち愛しい、みたいな感動とは違うかんじ。また明日読む。