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"独身貴族"のモデルケース

先日から投稿してきた人形劇について、
新たに第4シリーズを以下、記載したいと思います。


本作は、

オープニング
   ↓
メインキャラ4人のコーナー
   ↓
エンディング

という形で、1つの回を構成していく前提で考えています。


今回は、エンディングをお送りしたいと思います。




<人形劇 登場人物>


・もんじゃ姫

 →本作の主人公。
  頭の上にもんじゃ焼きが乗った、ぼんやりしてて空想好きな女の子。


・さばみそ博士

 →頭の上にさばの味噌煮が乗った、
  語りたがりで、ついウィットに富んだことを言おうとする男の子。


・ハバネロ姉さん

 →メインキャラで唯一の突っ込み役。唐辛子の髪飾りを着けていて、
  ピリッとした性格で、行動的な姉御肌。


・ブルーハワイ兄貴

 →頭の上にブルーハワイのかき氷が乗った、
  きれいなお姉さんが大好きな、能天気で自由な大柄の兄ちゃん。



~エンディング~



都内某所の一室。





"回転寿司"と称されるお見合いパーティが終わり、


見事カップリングに成功した3組の男女が、


幸せそうな表情で会場を後にしていく。


何とも言えない表情でただ佇んでいる、残された人々。





係員「本日はご参加ありがとうございました。


   まずは女性の方からご退席下さい」


係員に促され、女性参加者達が部屋を出ていくと、


取り残された男達のむさ苦しさがまた余計に悲しい。


係員「はい、それでは男性の方もご退席をお願い致します。


   なお、会場の外での女性参加者へのお声掛けはご遠慮下さい」





今日もダメだった。


"ONE TEAM"の1番だったのに。誰もスクラムを組んでくれなかった。


婚活も丸5年成果が出ないと、1回1回の落胆がさすがに大きい。


今日も今日とて、肩を落として会場を後にしようとした男。





すると、横から知らない男性が声をかけてきた。


「いやぁ、婚活って本当難しいですね」


婚活パーティー後に、男性から声をかけられたことなど初めてだった。


「はぁ、そうですね」と辛うじて言葉を返すと、


「もしご予定無かったら、せっかくなんで軽く飲みでも行きませんか」


と、まさかの初対面で飲みのお誘い。


こんな自分に婚活パーティー後の予定などあるはずもないが、


おそらくこの人もパーティー参加者の方なのだろう。


5年も婚活が上手く行っていない自分にとっては、


こうした男性同士での横の繋がりも必要なのかもしれない。





そんなことを考えていると、また横から男性が話に入ってきた。


「おやおや、ちょっと一杯とは良いですな。私もよろしければ…」


頭にさばの味噌煮を乗せた、見るからに温和な男性も参加の表明。


サシで人と飲むよりは、3人の方が気が楽に思えた男は、


「分かりました。ちょっと一杯行きましょうか」と快諾。





スマホで3人が、丁度良い店が無いかと探していると、


「あ、飲み行くんなら、近くに良い店ありますよ。


 何なら、自分もご一緒して良いっスか」と、


頭にかき氷を乗せた、いかにもお調子乗りな男も追加で参戦。





その男の知っている良い店に向かおうとした所で、


さばのみそ煮を乗せた男性が何を思ったのか、


「もし、皆さんのご迷惑でなければ、


 私の叔父をこの夕食会に呼んでもよろしいですかな」


という謎の提案をしてきたが、誰も反対せず、参加となった。





会場を出て、飲み屋に向かおうと少し歩いたら、


道で佇んでいた2人の女性が話しかけてきた。


頭にもんじゃ焼きを乗せている可愛い女の子と、


唐辛子の髪飾りをした、ちょっとキツそうなお姉さんだった。


「もしお見合いパーティーの帰りだったら、


 …私達も一緒に、飲みに行って良いですか?」


パーティー後に男性が女性に声をかけるのは禁じられているが、


なぜかその逆は、何らお咎めなど無い。


もんじゃ焼きの女の子が、ちょっと恥ずかしそうにモジモジしながら、


婚活の戦いに敗れた我々の反省会に付き合ってくれるなんて、


今夜はひょっとしたら雹でも降るんじゃないかと、男は思った。





当初は、男2人のやけ酒会だったはずが、


ものの数分で雪だるま式に人数が急増し、


気付いた時には男女7名による「宴」と化していた。


そして、かき氷男の言っていた良い店というのは、


着いてみれば何のことは無い、どこにでもある「磯丸水産」だった。





「ここの"かに味噌ポテト"が、どんなつまみよりも絶品なんスよぉ」


彼がそう自信満々に話すと、店員が運んできた立派な甲羅が


七輪の上に置かれ、その中に入ったカニ味噌が、


グツグツと良い音を立てながら焼かれていった。


各々が注文した飲み物が運ばれ、なぜかさばみそ男の叔父が、


立派な白髭を蓄えながら「若者達に幸あれ!」と言って、皆で乾杯。


間もなく運ばれてきたポテトを、かき氷男に言われるがまま、


甲羅の中のカニ味噌に着けて各自が食べ始めると、


「旨い」「濃厚」「これヤバい」「最高」などの声が上がった。






良いつまみと酒で、ほんのり幸せ気分を共有しつつあった一同。


ここらでそろそろ、今宵の宴の趣旨説明が始まる。


博士「今日はこんな飲み会をご一緒頂き、誠に感謝致します」


男「いえいえ、とんでもない。こちらこそありがとうございます」


むしろこの飲み会のお陰で、悶々としていた気持ちが晴れて、


カニ味噌ポテトの味にも、いたく満足していた男。





博士「実は、お兄さんに声をかけたそちらの男性、サクラなのです」


男「えっ!?」


帰り際、最初に声をかけてきた男性が、実は既婚者で、


小さいお子さんもいる幸せな父親であることを聞かされ、唖然とする男。





父親「騙すようなことをしてしまい、大変申し訳ありません。


   私もかつて、婚活で苦労した経験があるので、


   なかなかマッチングできないという方に、何か力になれればと、


   今日は思い切ってお声掛けをさせて頂きました」


男「あぁ、そうなんですか」


この5年間、こんな自分に手を差し伸べてくれた人など皆無だった。


もはやサクラでも、桃でも、梅でも、声をかけてくれただけで有難い。





叔父「この幸せパパのお子さんは本当に元気一杯で、


   お店でメニューの注文もできる、実に立派な息子さんじゃった」


父親「その節は、大変な無礼をお許し下さい…」


博士「いえいえ、お気になさらず」


姉さん「お父さんは、今の奥様とはどこで出会われたんですか?」


一見、性格のキツそうなお姉さんだと思っていた唐辛子の女性だが、


男が一番聞きたいと思っていた質問を、サラッと聞いてくれた。






父親「私も以前は、こういうお見合いパーティーに参加してたんですけど、


   参加費が高いのと、当日まで誰が来るのか分からないということで、


   途中からは参加するのを辞めました」


男「確かにこのパーティー、参加費本当高いですよねぇ」


父親「こういうお見合いパーティーは、月に何回位行かれてますか?」





不意に聞かれた質問に対し、男は答えに詰まった。


最低でも"20代限定"の土曜の回は毎週参加しており、その上で、


平日のお仕事終わりや、日曜日の回にも顔を出すことがある。


男「月平均だと大体、…6~7回位ですかね」


やや少なめに言ったつもりだったが、「えぇーっ」と驚かれ、


思わずジョッキを落としそうになった男。


本当はもっと多い回数参加しているのだが、気付けば早5年。


「今までカップリングしたことは、どれ位ありますか?」という、


この後、最も想定される質問に対しては、答えの用意が無い。





もん「すいませーん、注文良いですかー?」


頭にもんじゃ焼きが乗った女子は、デザートを6品も頼んでいる。


見た目は可愛い一方で、結構マイペースな食いしん坊女子なのか。




父親「私が嫁と出会ったのは、ネットの婚活アプリなんですが、


   おそらくこのパーティー2回分位の月額費用なので、


   そちらの方がもしかしたら良いのかもしれません」


男「結構安いんですね。


  でも、入会金とか成約料とかあるんじゃないですか」


父親「仰る通り成約料はかかりますが、入会金については、


   紹介されたと言って、私の名前を出して頂ければ、


   おそらく無料になったかと思います」


男「良いんですか、お名前拝借して」


父親「えぇ、もちろん」






一瞬、この業者の回し者なんじゃないかとも思った男だったが、


現に婚活費用が掛かり過ぎていることは、紛れも無い事実。


それに、当てずっぽうにお見合いパーティーに参加するよりは、


条件を絞って女性を検索できる婚活アプリの方が、


無駄撃ちも抑えられて、成功の近道かもしれない。






男「ありがとうございます、こんな私にアドバイスを下さって」


父親「いえいえ。素敵な出会いがあることをお祈りしております」


兄貴「しかし、婚活をやる人も、まぁ本当によくやるよな」


枝豆をつまみ、ビールをグイっといってから、


かき氷頭の男が余計な口を挟んでくる。






兄貴「こういうパーティーに、月6~7回も参加費用払って、


   仮にマッチングしたら、その女性とのデート代も払って、


   そんで上手く行ったら今度、婚約指輪やら結婚指輪やら買って、


   マイホーム買って、子ども出来て、親戚付き合いも増えてさ。


   …何つーか本当、よくやるよなぁって感じよね」


叔父「その通りじゃ。ワシもようやるもんじゃと思って聞いとった」


博士「こちらのお年寄りは是非、


   "独身貴族"のモデルケースの1つだと思って頂ければ」


叔父「やや、さばみそめ。ワシを面倒なクソジジィだと思っとるだろう」


博士「クソジジィなど、とんでもありません。


   貴重な歴史標本として、大変参考にさせて頂いております」


叔父「ワシゃ、シーラカンスか!」


ご機嫌な親戚漫才を見せられて、これはこれでまた幸せそうにも感じた男。





店員が「こちらのスイーツ6品をご注文の方」とやってくると、


当の注文者であるもんじゃ焼き女子は、幸せそうな顔で眠っていた。


口をムニャムニャさせながら「100歳になっても一緒だからね…」


「金婚式もしようね…」などと、謎の寝言を呟いているご様子。






突如、テーブルに並んだ6皿のスイーツを見て、


姉さんが間髪入れず「皆で山分けしましょう」と言うと、


若者達も長老も、大いに湧き立った。




たくさんの小皿に、色とりどりのスイーツが切り分けられ、


男のほろ苦い一日も、食いしん坊女子の気まぐれ居眠りによって、


最後は、ほんのり甘く締め括られたのであった。




~エンディング 終わり~

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