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65歳下のお義兄さん

先日から投稿してきた人形劇について、
新たに第4シリーズを以下、記載したいと思います。


本作は、

オープニング
   ↓
メインキャラ4人のコーナー
   ↓
エンディング

という形で、1つの回を構成していく前提で考えています。


今回は、メインキャラ4人のコーナーの2つ目、
「もんちゃんの『夢見なハイキック!』」をお送りします。




<人形劇 登場人物>


・もんじゃ姫

 →本作の主人公。
  頭の上にもんじゃ焼きが乗った、ぼんやりしてて空想好きな女の子。


・さばみそ博士

 →頭の上にさばの味噌煮が乗った、
  語りたがりで、ついウィットに富んだことを言おうとする男の子。


・ハバネロ姉さん

 →メインキャラで唯一の突っ込み役。唐辛子の髪飾りを着けていて、
  ピリッとした性格で、行動的な姉御肌。


・ブルーハワイ兄貴

 →頭の上にブルーハワイのかき氷が乗った、
  きれいなお姉さんが大好きな、能天気で自由な大柄の兄ちゃん。





~もんちゃんの「夢見なハイキック!」~


ワイドショーが、年齢差50歳の芸能人電撃結婚を報じていた。


その様子を、ぼんやりと見ていたもんじゃ姫。



率直な感想として思ったのは、


「羨ましいな」ということだった。



元々、おじいちゃんっ子だったこともあり、若い人のノリよりも、


お年寄り特有の、穏やかで暖かみのある空気感の方が好きだった。


50歳上の旦那も、50歳下の嫁も、マスコミに好き勝手騒ぎ立てられ、


視聴者からは、言われも無いことで散々叩かれたりするのかもしれない。



「その年で、まだ若い女が好きなのか」


「どうせ、旦那の金が目当てなんだろ」




2人がそうした中傷に日々晒されていることも知っているが、


赤の他人である視聴者に、彼らの何が分かるというのだろうか。



いまや結婚など、同年代の男女だけがするものではない。



もし自分が誰と結婚したとしても、


寛容に認められる社会だったとしたら…






私の旦那は77歳。


"ラッキーセブン"の7月7日に、2人で市役所に婚姻届を提出した。




穏やかで何でも知っている、博士のような素敵な人。


自分の息子・娘より年下でもおかしくないような、


私の両親に対しても真摯に頭を下げ、挨拶をしてくれた。


最初は、大変訝しげに彼を見ていた両親だったが、


彼の人生経験が為せる業か、口八丁手八丁(?)で見事に説得。


今ではすっかり、親戚縁者からの人気者となった。






旦那の妹の自宅では、よく同世代の友人女性達を呼んで、


みかんを食べながら井戸端会議が行われていたが、


ある日彼女が「今日は、義理の姉を呼んでるのよ」と言って、


私がその場に現れると、友人たちは「えぇーっ!?」と驚愕していた。


友人の1人が、「お孫さんか、従妹の方じゃなくて?」と聞くので、


「一応、義理の姉なんです…」と答えると、


みかんを口に入れたまま「ヒェーッ」と驚くマダム達。


あまりに驚き過ぎて、さっきまでどの芸能人の不倫の話で


盛り上がっていたか、その場の誰も思い出せなくなってしまった程だった。






またあくる日には、父親の実兄宅を訪ねた際、


小学6年生になる息子さんに、


「今日は君の義理の弟を呼んできたよ」と伝え、


どんなガキンチョが来るのかと期待していた彼の前に、


後期高齢者の物知り老人を差し向けたこともあった。


「義理の兄弟」という言葉の意味すら分かっていない様子の彼は、


「この人は、おじいちゃんの弟?」と聞いてきたが、


「君の義理の弟だよ」と伝えると、


頭の中がギリギリと音を立てて混乱しているようだった。






しかし数分後には、自慢の記憶力と理解力の高さを遺憾なく発揮し、


彼のハマっているカードゲームの対戦相手を、しっかりと務めた旦那。


程々にコンボを決めて盛り上げつつ、最後はバシッと斬られるという、


文句の付けようが無い"接待デュエリスト"としての役割を果たした旦那は、


その日に「お義兄さん、お強いですなぁ」と


何回言ったか分からないそうだが、その後も定期的に、


65歳下のお義兄さんの暇潰しに呼び出されることとなった。






2人の結婚生活は、極めて穏やかで幸せなものだった。


一気に激しく燃え上がり、すぐに散ってしまうような恋愛に、


昔からあまり興味が持てなかった私にとっては、


刺激も落胆も少ない、緩やかなこの日々がベストだと思える。


難しいことは理解できず、何を聞いてもすぐ忘れてしまう私と、


何でも理解できて、どんな些細なことでも覚えていられる旦那。


一体、本当はどっちが年寄りなのか分からなくなる時がある。






こないだも買い物からの帰り道、途中で自分がどこを歩いているのか、


さっぱり分からない位、見慣れない道まで来てしまったことがあったが、


ガラケーで彼に電話を掛けたら、すぐに車で迎えに来てくれた。


どうやって私のいる場所が分かったのだろう。彼は本当に凄い。






ある日の午後。


いつも何かとお世話になっている旦那に感謝の気持ちを込めて、


こないだ雑貨屋で買ってきたコーヒーを淹れ、彼の書斎まで運んだ。


老眼鏡がよく似合う旦那が、「ありがとう」と微笑む。






彼が万年筆で細々と何かを書いているノートには、


「エンディングノート」という表題が記されていた。


おそらく、彼の趣味から察するにこれは、


アニメのエンディング曲を書き留めるノートではないだろうか。






そう勝手に勘違いしてノートの中身を見ると、


何やら近隣の斎場名や、お葬式の執り行いについて書かれているようだ。


「ここって、車でちょっと行った先にある所だよね」と聞くと、


「よくご存じですな」と言ってコーヒーを啜る旦那。


思えば先の映画でも、天海祐希さんがお葬式の手配に四苦八苦していた。


予想外の出費が嵩むと、コツコツ貯めた預金も


あっという間に底を尽きてしまう。


おそらく親戚縁者の誰かに、急なもしもがあった時に備え、


こうした準備も抜かりなく考えているのだろう。


毎度のことながら、彼はどれだけ真面目な人なのかと感服しきりだ。






「ねぇ、あなたは何歳まで生きてくれるの?」


何の気なしにそんなことを聞くと、彼は少し寂しそうに笑って言った。


「出来ることなら…


義理のお兄さんのお孫さんに、


お年玉を差し上げる位までは生きたいものですが…」





彼の思わぬ回答に、「ワオ」と言ってしまった私。


まだランドセルを背負っている彼に孫ができるのは、


果たして何十年先のことになるだろうか。


彼が60歳になるまでには、干支が4周回らないといけないが、


お孫さんがポチ袋を手にする時には、


おそらく家の旦那は世界最高齢に違いない。






映画を堪能した後、少し歩いた先にあるお洒落な喫茶店に着いた4人。


飲み物とスイーツを各々が注文したのも束の間。


久々に2時間の映画鑑賞をして疲れてしまったのか、


すっかりおネムのもんじゃ姫。口をモニョモニョさせながら、


「125歳まで生きてね」「絶対、約束だよ」など、


訳の分からない寝言を話し続けている。






姉さん「コイツは寝ながら、一体誰と話してるんだ?」


兄貴「分からんけど、もんじゃが1人で


   3つも頼んだケーキは、皆で山分けしようぜ」


博士「まぁ、さすがに寝起きでケーキ3つは、

   
   いくら姫と言えど、食べられないでしょうし…」


姉さん「ったく、しょうがねぇな。


    じゃ、この"和栗の特製モンブラン"は、


    私が善意で引き受けてやるとするか」






季節のスイーツをより一層堪能する、実に友達想いな3人のお陰で、


眠り姫は、今日も変わらず不思議な夢の中だ。





~もんちゃんの「夢見なハイキック!!」 終わり~

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