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同じクラスの可愛い子のように

先日から投稿してきた人形劇について、
新たに第5シリーズを以下、記載したいと思います。


本作は、

オープニング
   ↓
メインキャラ4人のコーナー
   ↓
エンディング

という形で、1つの回を構成していく前提で考えています。




今回は、メインキャラ4人のコーナーの4つ目、
「ブルーハワイ兄貴の『ソフト俺デマンド』」をお送りします。



<人形劇 登場人物>


・もんじゃ姫

 →本作の主人公。
  頭の上にもんじゃ焼きが乗った、ぼんやりしてて空想好きな女の子。


・さばみそ博士

 →頭の上にさばの味噌煮が乗った、
  語りたがりで、ついウィットに富んだことを言おうとする男の子。


・ハバネロ姉さん

 →メインキャラで唯一の突っ込み役。唐辛子の髪飾りを着けていて、
  ピリッとした性格で、行動的な姉御肌。


・ブルーハワイ兄貴

 →頭の上にブルーハワイのかき氷が乗った、
  きれいなお姉さんが大好きな、能天気で自由な大柄の兄ちゃん。


※このコーナーのみ、兄貴以外の登場人物の、
 性別が反転したパラレルワールドの夢、という設定でお送りします。





~ブルーハワイ兄貴の「ソフト俺デマンド」~



「お疲れマンモス~」


地下の撮影スタジオに降りてきたブルーハワイ"監督"。


もん太くん、サバ美ちゃん、ハバ男くんの、


3人の撮影スタッフが「お疲れ様でーす」と答える。





監督「音楽って、"音を楽しむ"って書くじゃん?」


ハバ「今度は、何の話ですか」


毎度のこと、いきなり何かを話し出そうとする監督。





監督「実際さ、歌とか歌わされたり、楽器の練習させられたりとか、


   よく分かんないコンサートとか人に連れて行かれてもさ。


   少しも、"音を楽しむ"感じが分からんのよ」


サバ「その気持ち、とってもよく分かりますわ。


   押し付けられて楽しめって言われても、どこが楽しいのよって」


ハバ「まぁ、言われてみれば、確かにそうっスね」


もん「お腹を、ポンポコポンッって叩くのは音楽ですか?」


監督「もんタヌキくん、今日も安定のすっとこタヌキだな」


もん「ば…、バカにしないで下さいっ!」


撮影現場でのいじられ役も、すっかり板に着いたもん太くんである。






スタッフ達が撮影の為に向かった先は、


子供からお年寄りまで、幅広い年代の方が利用する楽器屋。


あらゆる客層が、思い思いに楽器を楽しく眺める中、


一人浮かない顔をして店内を彷徨っている男の姿が…





何か買いに来た訳でもないのに、またふらりとやってきてしまった。


そう思いながら、難しい顔で楽器屋を歩く男。





昔から音楽のことが、同じクラスの可愛い子のように、


常に何となく気になっていたのだが、


今や何の変哲もない中年会社員となった彼。


触れようと近付いては、その度にいつも痛い目に遭わされてきた。





無駄に歳を取ってしまい、若い人が音楽で活躍する様を見る度、


つい妬みや嫉みのような感情が湧き上がってくる。





「最近の音楽は、何が良いのかさっぱり分からん」





店に流れる流行りの曲を聴きながら、ぶつくさと文句を言う男。


ギターの並ぶ区画では、若い男性が試し弾きで自慢の腕前を披露。


自分に陶酔しきったような表情で弾き続けている様子を見ながら、


「ナルシストか、小僧が」と、心の中で吐き捨てた。





少し歩くと、ギターの前で若い男女が何かを話している。


どうやら2人とも初心者のようだが、


何でも一緒に音楽をやろう、といったことを企てているようだ。





コイツらみたいな素人が男女でバンドを組んだ所で、


大して練習もせずにベタベタ馴れ合った挙句、


下らん色恋沙汰やら何やらあった末、「方向性の違い」で解散だろう。





ロクなミュージシャンも出てこない。


つまらんアイドルグループだらけの音楽業界。


我が国のJ-POPは、もう20年以上息をしていない。


まったく、今の若いヤツらは話にならん。あぁ、90年代に戻りたい。





ウェットな感情を駆け巡らせつつ、悶々としながら店内を歩くと、


様々な鍵盤楽器が並ぶ区画まで来た男。


キーボード、アコーディオン、カナデミオン、グロッケン、マリンバ、…





「ん?」


アコーディオンとグロッケンの間にある楽器は、


男のこれまでの人生経験では見たことが無い類だった。


近くにいた店員を呼び付け、「これ何の楽器ですか」と聞く男に、


「はい、こちらは『カナデミオン』ですね」と、平然と答える店員。





摩訶不思議なケースに隠された、「カナデミオン」なる未知の楽器。


店員が「中身をご覧になりますか?」と勧めてくるので、


よく分からずに「あ、お願いします」と答える男。





何と言うことも無く店員が、そのケースのチャックを開けると、


そこに現れたのは、実に見目麗しく艷やかな女体だった。


「ヒェェーッ」とベタな悲鳴を上げてひっくり返る男。


こんな衝撃を受けたのは、エスパー伊東以来だった。





「この楽器は、"美しい音を奏でる”という意味で


『カナデミオン』という名前が付いているんですよ」と、


平然と楽器名の説明をし始める店員を、


「いや、ちょ、ちょっと、さすがにしまった方が…」と制する男。






しかし、店員は表情を変えることも無く答えた。


「大丈夫ですよ、皆さん誰も見てませんから」





男が慌てて周囲を見渡すと、誰もこちらを見ていない。


各々が自分の見たい楽器を夢中で眺めている。


皆が皆、それぞれに音楽を楽しんでおり、


他人様が何をしているかなど、興味もないのだろう。





「是非、美しい音を奏でてみませんか」





店員の言葉を受け、再度カナデミオンを見ると、


その美しい姿に、男は改めて息を飲んだ。





とあるライブ会場のステージ。


30代を過ぎ、人生初めてのライブに臨む男。


高まる心臓の鼓動を感じながらステージに上がり、


ケースからカナデミオンを取り出すと、客席からどよめきが上がる。





こんな楽器を公の場で弾いたら、逮捕されるんじゃなかろうか。





そんなスリルを感じながらも、男がおもむろに触れると、


カナデミオンは何とも美しい音色を奏でる。


全身どこを弾いても素晴らしい音楽が生み出され、


男の演奏に、観衆は酔いしれるように聴き入っていた。





弾いている自分自身にも、いつしか陶酔した様子の男。


こんな自分でも、音楽で人々を魅了している。


本来、音楽には上手い下手も、玄人素人も無く、


皆それぞれで、自分にしかできない音楽を表現すれば良いのだ。





「ここを弾いたら、どんな音を奏でるんだろう」





演奏中に気分が高揚してきた男が、新たな音色を追求しようとした所で、


水を差すように、監督扮する嫌味な客がステージに乱入してきた。





監督「君ぃ、楽器の演奏を全然分かってないねぇ」


男「ちょ、ちょっと何ですか、あなたは」


構わず楽器の前まで近付いてくる監督。


男「プロはねぇ、ここを弾くんだよ…」





カナデミオンのあらぬ所に手を伸ばそうとした監督の腕に、


警察官の格好をしたハバ男くんが、すぐさまスタンガンを炸裂。


ハバ「動くな、この不審者めっ」


監督「あぁぁぁぇぇぇぁぇぇぇっっんんっ」


ライブ会場中に、監督の芸術的な悲鳴が響き渡った。





早朝。





いつもながら、寝室の床の上で目を覚ます兄貴。


打ち所が悪かったのか、腕がジンジンと痺れている。





またどうでも良い夢を見て、ベッドから転がり落ちてしまった。





兄貴「…1小節で良いから、弾かして欲しかったな」





愚かな後悔を残しつつ、汗ばむ体でシャワールームへと向かった。





~ブルーハワイ兄貴の「ソフト俺デマンド」 終わり~

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