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結婚式業界に何年もいると

先日から投稿してきた人形劇について、
新たに第4シリーズを以下、記載したいと思います。


本作は、

オープニング
   ↓
メインキャラ4人のコーナー
   ↓
エンディング

という形で、1つの回を構成していく前提で考えています。


今回は、メインキャラ4人のコーナーの4つ目、
「ブルーハワイ兄貴の『ソフト俺デマンド』」をお送りします。



<人形劇 登場人物>


・もんじゃ姫

 →本作の主人公。
  頭の上にもんじゃ焼きが乗った、ぼんやりしてて空想好きな女の子。


・さばみそ博士

 →頭の上にさばの味噌煮が乗った、
  語りたがりで、ついウィットに富んだことを言おうとする男の子。


・ハバネロ姉さん

 →メインキャラで唯一の突っ込み役。唐辛子の髪飾りを着けていて、
  ピリッとした性格で、行動的な姉御肌。


・ブルーハワイ兄貴

 →頭の上にブルーハワイのかき氷が乗った、
  きれいなお姉さんが大好きな、能天気で自由な大柄の兄ちゃん。


※このコーナーのみ、兄貴以外の登場人物の、
 性別が反転したパラレルワールドの夢、という設定でお送りします。





~ブルーハワイ兄貴の「ソフト俺デマンド」~



「チョリーッス」


地下の撮影スタジオに降りてきたブルーハワイ"監督"。


もん太くん、サバ美ちゃん、ハバ男くんの、


3人の撮影スタッフが「お疲れ様でーす」と答える。






監督「結婚式ってスベッてると思う?」


ハバ「また、いきなり何の話ですか」


いつもながら、導入も無く会話を始めようとする悪癖を見せる監督。


監督「こないだ読んだ女子会のマンガで、そういう台詞があったもんでよ」


サバ「余興で身内だけが大盛り上がりしてて、


   それ以外の人が白けてたって話は、時々聞いたりするわね」


もん「なかなか、結婚式の場でウケを狙うのも難しそうですが…」


ハバ「ていうか監督、女子会のマンガなんて読むんですね」


聞いたことも無い監督の趣味に、若干引いた様子のハバ男くん。





監督「まぁ、こう言っちゃアレだけど、いくら周囲が白けていようが、


   当の新郎新婦さえ幸せであれば、最悪まだ良いんだがな」


もん「さすがに、主役の2人が白けてるってことはあり得ないんじゃ…?」


監督「モンチッチくんは、何喋っても童〇臭いな」


もん「し、…失敬なっ!!」


ハバ「実際、準備段階から嫁と親族だけ盛り上がってて、


   旦那がドッ白けみたいなこともあるらしいっすね」


サバ「準備の工数や、親族間の調整もさることながら、


   そもそもの費用負担が、バカにならないですもの」


もん「えっ、でも式の費用って、ご祝儀で回収できるんじゃ…?」


監督「おう、コン〇ーム被るか、クソ坊主?」


頭からゴム風船を被せられ、


手足をバタバタさせているもん太くんをよそに、


ハバ男くんとサバ美ちゃんは、次の撮影準備を始めていた。






撮影スタッフ達が向かったのは、有名ターミナル駅から


徒歩15分程度の距離に立つビルの、とある結婚式業者のフロア。






ズラリと並んだ、色とりどりのドレスを眺めながら、


「いやーん、もうどれも着てみたーい」と心躍らせる嫁に、


「御新婦様には、こちらのお色もお似合いですし、こちらのお色も…」と、


女性係員が流れるような営業トークを繰り出している。


その後、ウキウキな様子で試着に向かって行く嫁を見送り、


待合室に1人残された男。





先日の結婚式業者との打合せで見せられた費用見積書は、


初めての打合せの時に見せられた金額から、


もう既に倍以上にまで膨れ上がっていた。


婚約指輪と結婚指輪にかかった費用も、


その為に給料の何ヶ月分を生贄に捧げたか考えたくも無い。




両親に指定された式場を断ることもできず、


嫁や親族の要望にも応えなくてはならなかった。


打合せのテーブルには代わる代わる、花や写真、料理、催し物その他、


ありとあらゆる業者が次々とニコニコしながら現れては、


見積書内訳の行がみるみる追加されていった。






仕事の疲れもある中、貴重な土日をこの打合せに潰され、


結婚式のことで頭がすっかりお祭りモードの嫁をよそに、


男は式費用振込後、向こう1年間の資金繰りのことで頭が一杯だった。


優柔不断な嫁は、3着までと言われたドレスの候補を選びきれず、


結果悩みに悩んで、5着のドレスを試着室へと係員に運ばせ、


小躍りしながら試着室のあるフロアへと移動していった。


待ち時間は、短めに見積もっても「2時間」と言われた。


必死の作り笑顔で「どうぞ、ごゆっくり」と送り出したは良いが、


待合席の窓に映る景色を眺めるのも、5分やそこらで飽きてしまった。






誰もいない待合席で、足を投げ出して座っていた男の前に、


美人の女性係員がゆっくりと近付いてきた。


係員「ご新婦様のお衣装が決まりましたら、


   ご新郎様とのツーショットでお写真撮影となります」


男「あぁ、そうなんですね」


係員「ご新郎様のお衣装は、先程お選び頂いたものでよろしいですか」


男「はい、あれで結構です」


2時間以上も待たされる旦那の衣装は、先程ものの10分で決定となった。






係員「ご新郎様、少しお顔色がよろしくないようですが」


男「はぁ、ちょっと最近、色々疲れが溜まってるかもしれません」


毎週、あなた方に付き合わされて疲労困憊です、という言葉が


喉元まで出そうになったが、さすがにそれは自重した。






係員「弊社では今、結婚式準備にお疲れのご新郎様限定で、


   "疲労回復・秘密のアロママッサージ"というサービスを、


   無料でさせて頂くキャンペーンを実施しているのですが、


   もしよろしければ、ご新郎様いかがでしょうか」


男「アロママッサージですか…?」


30年余りの無味乾燥な人生の中で、


一度も登場したことが無い言葉を聞かされた男。





係員「この後のご新婦様とのツーショット写真の撮影も、


   マッサージを受けられた後ですと、血行も良くなりまして、


   非常にお顔色も良い状態で、素敵なお写真が撮れるかと存じます」


男「なるほど…」


思えば最近、疲れとストレス、心配事が多過ぎるせいか、


体の節々が冷えて固まっているような感じがしていた男。


この後、まだ2時間も窓の景色を眺めているだけと比べたら、


少しは気分も身体もほぐれて良いのかもしれない。





別のフロアに移動し、シャワーを浴びてからタオルを巻いて、


マッサージを受ける施術室に向かうと、


女性係員が衣装を変えて、施術台の脇に立っていた。


係員「マッサージ室の温度を、先程のフロアよりやや上げておりますので、


   もし暑過ぎるようでしたら仰って下さい」


男「あぁ、とりあえず大丈夫です」


さっきまで真面目そうに話していた女性が、


こんな衣装に着替えてマッサージしてくれるのかと、


内心、ちょっとドギマギしてしまっている男。





知識が無い為、よくは分からないが何かアロマのような香りが立ち込め、


係員の滑らかな手によって、少しひんやりした感触で


ヌルヌルとしたオイルが全身を覆っていくのを感じた男。


どこぞの国の曲なのか分からないが、


若干エスニックなヒーリングミュージックが流れている。


結婚式同様、マッサージにもこうした雰囲気重視な所が多分に見られる。





係員「お疲れが大分、溜まっていらっしゃいますか」


男「はい、そうですね…色々と」


気付いた時には、体に巻いていたはずのタオルも無くなっていた。


係員「結婚式業界に何年もいると正直、ご新郎側の男性方が、


   こうした式の準備を諸々進められて行かれる段階で、


   どんなことを内心、感じておられるのかが


   分かってしまう時があるんです」


男「あぁ、そうなんですか」


一体、何の話が始まったのだろうか。





係員「マッサージを受けられながらで結構ですので、


   今ご自身で感じておられることを5つ、頭の中に並べて頂けますか」


男「5つ…ですか」


係員「並んだ所で仰って下さい。


   私の方で、1つでも多く正解できるよう頑張りたいと思います」


男「はぁ」


施術中に、顧客とこうしたトークもする流れになっているのだろうか。


そうは思いながらも、しょうがないので


5つ思っていることを頭に並べた男。





男「じゃ5つ、当てて頂いて良いですよ」


係員「かしこまりました」


すると急に部屋の明かりが暗くなり、


真っ暗な天井に、蛍光色の文字がうっすら浮かび上がった。





①資金繰りが厳しい


②新婦と親族の為だけにやる式なんて勘弁して欲しい


③優しく包むように癒して欲しい


④以下同文


⑤以下同文





映された文字を見て、言葉を失う男。


係員「いかがでしょうか」


男「…全部当たりです。


  5つと言われて、3つしか思い付かなかった所まで、お見事です…」


思っていることを5つ挙げろと言われて、5つも挙がらないという、


己の考える力の衰えぶりに、我ながら愕然とする男。





係員「この④と⑤の『以下同文』というのは、


   『③の以下同文』ということでよろしかったですか」


男「…その通りです」


中年サラリーマンの心情を、ここまでズバリと言い当てられてしまい、


男の中に、何とも言えない恥ずかしさと嬉しさのような感情が入り混じる。





係員「かしこまりました。


   そうしましたらご新郎様のご要望にお応えできるよう、


   "3倍"優しく、包み込むように癒して差し上げますね」


そう言って施術台に乗った係員の素肌が、両足に触れたのを感じ、


真っ暗闇の中で顔が一気に紅潮するのが分かった男。


男「あっ、あの…」





すると突然、施術室の扉がバーンと空いて、


急に入ってきた自然光の眩しさに、「うっ」と目を覆う男。





監督「すいません!


   今、アロママッサージの無料キャンペーン中ということで…


   自分は③以外全部『以下同文』で、


   5倍優しく包んで癒して欲しいっス!!」


施術室に乱入してきた、バスタオル一枚のブルーハワイ監督。


せっかくこれから良い所だったのにと、内心ムッとした男。





すると、他のスタッフのような出で立ちのハバ男くんが、


熱々のサウナストーンが乗った台を持って入室してきた。





ハバ「それではお客様。


   5倍と言わず、5万倍熱く激しく、


   アロマの風で優しく包むように、癒して差し上げましょう」


サウナストーンにアロマ水をかけ、タオルで力一杯扇ぐハバ男くん。


ハバ「食らえっ、癒しの"爆裂ロウリュウ"!」


監督「ぬぉわぁぁぁっっっ!!」


凄まじいアロマの熱波で、タオルもろとも室外に吹き飛ばされていく監督。





早朝。





滝のような汗をかいて、ベッドから転がり落ちた兄貴。


辺りを見回すと、いつもと変わらない自室。


窓の外から、聞き慣れた鳥の声が入ってくる。





兄貴「夢か…」


またしても下らない夢で、滝の汗をかいてしまった兄貴。






兄貴「5つって言われてんだから、




   3つしか書かずに、『以下同文』は無ぇだろ…」





夢に出てきた男の、あまりに貧困な想像力に苦言を呈すと、


ほとんど残っていないペットボトルの水を飲み干し、


いつものようにシャワールームへと向かって行った。





~ブルーハワイ兄貴の「ソフト俺デマンド」 終わり~

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