もう今いるアーティストじゃ無理
先日から投稿してきた人形劇について、
新たに第5シリーズを以下、記載したいと思います。
本作は、
オープニング
↓
メインキャラ4人のコーナー
↓
エンディング
という形で、1つの回を構成していく前提で考えています。
今回は、メインキャラ4人のコーナーの2つ目、
「もんちゃんの『夢見なハイキック!』」をお送りします。
~もんちゃんの「夢見なハイキック!」~
「オワコン」と言われて久しく、衰退著しい日本の音楽業界。
"今年流行った曲"の名前を、1曲挙げることすら難しい昨今。
youtubeで何百万、何千万と再生されるのは、
かつて、10年や20年以上前に大人気だった曲ばかり。
世界の音楽市場は、中東やアフリカなどでも順調に成長を続けている中、
日本はここ数年、未だに伸び悩んでいる状況にある。
そんな日本の音楽業界を何とかする為に、
「ポップ界の神様」として全世界に知られる、
"MJ"こと、モンヒメ・ジャクソンが緊急来日。
こんにちは、はじめましてなどの挨拶も無く、
いきなり「日本の音楽業界は、マイッテル・ジャクソン」と、
渾身のダジャレを言い出す、世界の"キング・オブ・ポップ"。
そんな日本音楽業界の再生を目的に、彼がぶち上げた驚愕の企画。
その名も、「We Are The J-POP ~全員合格オーディション~」。
自分で作った曲で世に出たい人を、皆メジャーデビューさせようという、
これまでの常識から180度真逆な、前代未聞の提案をぶち上げた。
彼が言うには「もう今いるアーティストじゃ無理」とのこと。
音楽経験がそんなに無いけど、音楽には興味がある。
こんな曲を作って表現したいけど、今の自分じゃ難しい。
むしろ、上記のような想いを持った人達の方が、
日本の音楽業界を立て直せる可能性が高いと、彼は踏んでいた。
「実績がある人がこの業界を変える訳じゃない。
これから実績を作る人が、この業界を変えてくれるんだ」と強調。
彼の提案する「We Are The J-POP ~全員合格オーディション~」。
その概要は、以下に示す通り。
・対象者:自分で曲を作って表現したい人。
・参加費:20万円 ※ただし、企画終了後には全額返金。
→ 参加費を月給1ヶ月分など、ある程度高く設定しておくことで、
訳の分からない参加者が大量発生するのを防ぐ目的。
・期間:半年~1年程度
・内容:参加者本人が作詞作曲をし、自らステージで歌い、
レコーディングまでできるよう、各音楽のプロ達を
全国中から集結させて、手厚くサポート。
最終的にCD等を発売し、売れたら関係者と皆で山分け。
売れなくて赤字なら、世界の"MJ"が持ち出しで負担。
いずれにしても参加費だけは、最後に必ず参加者へ返金。
・副産物:この活動の一部始終をカメラに収めておき、
ドキュメンタリー作品としてTV番組や映画などに使用し、
そこでの収益なども併せて見込むことができる。
詰めかけた日本の記者達に対し、華麗なムーンウォークを見せながら、
MJは高らかに宣言した。
「日本の音楽界を復活させるのは…
あなたが踏み出す、大きなイッポォォーゥ!!」
老若男女を問わず、多くの参加者が集められたが、
半年~1年の間、彼ら1人1人に音楽業界のプロ達がそれぞれ携わり、
各人のアイデアが曲になり、ライブが実現するよう手厚くサポートされた。
MJと彼ら1人1人との面談の様子も、
今後のドキュメンタリー制作の為、全てカメラが回された。
MJ「君の、これまでの音楽経験を聞かせてくれるかい?」
男「大学生なんですが、ギター部に1ヶ月いただけです」
MJ「たったそれだけ!?」
男「あとは、趣味で頭の中で作詞作曲を何年かしてきました」
MJ「素晴らしい。是非、君の頭にあるアイデアを聞かせて欲しい」
ズブの素人に対しても、MJは至って真剣に向き合っていた。
参加者それぞれ、大きな可能性を持ちながらも、
音楽を舞台上で披露するには、様々なスキルが大幅に不足している。
彼らを指導するボイストレーナーや、ギタリストなど楽器演奏のプロ、
アレンジャーや音楽プロデューサー他、現役のアーティストなど、
国内の音楽業界中からあらゆる人材が集められ、サポートに尽力。
玉石混交どころか、河原の砂から砂金を拾うような作業となったが、
「ズブの素人と向き合う」仕事があまりにも新鮮だったのか、
各分野のプロ達の指導やサポートも思いの外、熱が入ったものとなった。
よく分からない落書きのような歌詞と、鼻歌のメロディー達が、
あれよあれよとものの数ヶ月で、鮮烈な名曲へと変身を遂げていった。
中でも、ギター部を1ヶ月で辞めようとしている、
冴えない男子大学生の躍進には、目を見張るものがあった。
当初、彼の口から飛び出したイメージはどれも、
珍妙で摩訶不思議なものばかりだった。
「勝間和代が昔、twitterのロゴが"ヒウィッヒヒー"に見えるって言ってて、
その"ヒウィッヒヒー"で曲を作りたいんですよね」
「アコーディオンを使って、ロシア民謡風にできないかなって」
「当時、"〇〇なう"とか言ってる人、多かったじゃないですか。
僕はむしろ、元から"~なう"で終わる言葉を歌詞に入れたいんです」
「曲の冒頭で、"あ"が13小節位続いたら、面白くないですか。
"北の国から"のさだまさし超えますよね」
「途中、シタールの音色を入れて、インドっぽくしたいんです」
「最後、"うなじなう"ってうなじ見せて終わるのどうですか。回文ですし」
世界のキング・オブ・ポップ、MJの頭の中が「?」で一杯になる面談。
その一部始終がカメラに収められた場面は、
後日公開されたドキュメンタリー映画の上映でも一笑いが起きた。
しかし、それらアイデアのどれもが面白いと感じた彼は、
レコーディング現場に、アコーディオン奏者やシタール奏者を招き、
男の思い描く世界を最大限実現させるよう、各スタッフに働きかけた。
驚愕の企画開始から半年。
形になった参加者達の曲が順次、配信等でリリースされ、
さすがにプロから多くの手をかけられただけあって、
軒並みまずまずのヒットとなったが、
中でもギター部歴1ヶ月の男子大学生がリリースした、
「重責を担う」というロシア民謡風の曲は、
ドキュメンタリー映画のED曲にも使用され、特に大きな注目を集めた。
世界のMJの目に留まった彼は、当オーディションに応募してきた、
冴えないダンスユニットへの楽曲提供も、後に担当することになった。
国内のありとあらゆる社会的弱者が集まった彼らは、
MJの一存により「Jack-Show FILE」(弱小ファイル)と命名され、
あるゲーム作品の主題歌・挿入歌を任され、話題を集めた。
ギター部の練習部屋では、誰の耳にも入ることが無かった、
嫌われ者の綴る珍妙な言葉が、日本中の人々の耳へと届いた。
♪ あんなにコメント貰えて 羨ましいな
たくさん観に来てもらえて 賑やかそうだな
けれどもそんなお友達社会に 負けまいと生きるぜ
負けまヒウィッヒー 負けまヒウィッヒー
負けまヒウィッヒヒー ♪
ライブ鑑賞から帰る途中に立ち寄ったレストランで、
注文した夕食を待つ4人。
ドリンクバーの飲み物を取りに行った他の3人をよそに、
おかしな歌を歌いながら、グースカ眠っているもんじゃ姫。
兄貴「ウチの歌姫は、今宵もご機嫌だな」
姉さん「さっき聞いたの、こんな歌じゃなかっただろ」
博士「さすがは、世界の"MJ”でございますな」
いずれ、良い音楽を聴ける場所は、
街の片隅にあるライブハウスだけになるのかもしれない。
停滞が続く日本の音楽業界に、果たして光は差すのか。
いつか来る新たな黄金期に、燦然と輝く豊かな名曲達が、
幸せそうな眠り姫の頭の中だけに、今もまだ鳴り響いている。
~もんちゃんの「夢見なハイキック!」 終わり~
その100円玉が、誰かの生きがいになります!