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猫の顔からヘリウムガスでも出てんのか

先日から投稿してきた人形劇について、
新たに第6シリーズを以下、記載したいと思います。


本作は、

オープニング
   ↓
メインキャラ4人のコーナー
   ↓
エンディング

という形で、1つの回を構成していく前提で考えています。



今回は、メインキャラ4人のコーナーの4つ目、
「ブルーハワイ兄貴の『ソフト俺デマンド』」をお送りします。



<人形劇 登場人物>


・もんじゃ姫

 →本作の主人公。
  頭の上にもんじゃ焼きが乗った、ぼんやりしてて空想好きな女の子。


・さばみそ博士

 →頭の上にさばの味噌煮が乗った、
  語りたがりで、ついウィットに富んだことを言おうとする男の子。


・ハバネロ姉さん

 →メインキャラで唯一の突っ込み役。唐辛子の髪飾りを着けていて、
  ピリッとした性格で、行動的な姉御肌。


・ブルーハワイ兄貴

 →頭の上にブルーハワイのかき氷が乗った、
  きれいなお姉さんが大好きな、能天気で自由な大柄の兄ちゃん。


※このコーナーのみ、兄貴以外の登場人物の、
 性別が反転したパラレルワールドの夢、という設定でお送りします。





~ブルーハワイ兄貴の「ソフト俺デマンド」~



「君達、お疲れサンボー」


地下のスタジオに下りてきたブルーハワイ監督に、


3名のスタッフが「お疲れ様でーす」と返す。





監督「最近、動物可愛がられ過ぎじゃね?」


ハバ「今度は何の話ですか」


スタジオに下りると、即何かを話し出す監督の癖に、


スタッフ達も、いい加減慣れてきたような感がある。





兄貴「猫とか犬とかを前にすると、急に声変わる女とかいるじゃん」


さば「あぁ、分かりますー! 突然"いや~ん、可愛い~っ"とか言う女」


ハバ「まぁ何か、猫を可愛がってる私も可愛い的な感じはありますね」


兄貴「猫の顔からヘリウムガスでも出てんのかって」


もん「でも動物って癒されますよねぇ~。心が洗われるっていうか…」


兄貴「もん太郎は、猫のションベンで顔でも洗っとけ」


もん「あーっ、ひどーい監督っ!!」





撮影前、またもバカにされて憤るもん太くんをよそに、


スタッフ達は今日も撮影現場へと移動準備を始めた。






彼らが向かったのは、とある企業の事務オフィス。


経営企画部門で下っ端として働く男性社員が、


今日も今日とて、上司の役員から小言を聞かされている。





上司「お前は怒られ足りないんだよ。


   もっと色んな所に顔を売って、分からないことを


   怒られながら一つ一つ教わって勉強しろ」


男「はぁ…」


なぜ、怒られる前提で人と関わりに行かねばならないのか。


上司「まず来期の人員計画の件、人事に聞いて資料貰ってこい」


男「あぁ、はい…分かりました」





経営企画部門は、経営層と直接やり取りを求められる点では、


一見、エリート集団のようにも思える部門ではあるが、


その実は、単なる役員の雑用係に過ぎない。


「あの資料貰ってこい」「あれについて聞いてこい」


「何だ、この資料は」「仕事をナメてるのか」


「すぐ会議招集入れろ」「いいから社長の日程押さえろ」


毎日が、こんなことの繰り返しである。





自席に戻る男の気は、とてつもなく重かった。


これから人員計画について聞きに行く人事部の担当は、


美人で仕事は出来るが、性格がキツい、まさに薔薇の棘のような女。


優しくてさほど美人ではない相手の方が、100億倍良かった。





男「あのぉ、すいません、お忙しい中、今よろしいでしょうか…」


女「何?」


こちらが気を遣って声を掛けているのに、「何?」とは何か。





男「あのですね、来期の人員計画について資料を頂ければと…」


女「資料って何? 何のために使う資料?」


男「えぇとですね、今まさに予算策定を進めておりまして、


  それでその、人件費計画を立てるにあたりまして、あの…」


女「具体的に何の資料が、何の目的で、何月何日までに必要?」


男「はっ、あの、じ、人員計画資料をですね、えっと、今週中には…」


もう張り倒されるんじゃないか、自分は。


そんな恐怖に苛まれ、ものの数秒で全身から滝の汗を流す男。





女「人員計画がどうとか言うけど、ウチだって直近で人が辞めて、


  足りない人員数で必死に、全部門の人事まとめてんの。


  アンタみたいな、会社も仕事も何も理解してないような人間が、


  上司に言われたまま"人員計画の資料下さい"って言いに来て、


  他の仕事もやりながら、私それ今週中に出す訳?」


男「あの、えっと、大変心苦しい所ではありますが…」


上司と人事の板挟みに遭う自分に、ただただ心苦しさを感じている男。





自席に戻ると、上司からすぐさま檄が飛ぶ。


上司「席に座ってるヤツは、企画マンじゃないぞ。


   今すぐ製造現場に行って、各製品の生産計画を集めて来い」


男「は、はいっ…」


もはや、もらった資料を自席PCでとりまとめる暇も与えられない。


2m近い巨漢の上司にぶん殴られて泡を吹く前に、


男は慌てて安全帽と筆記用具を持って、工場へと向かった。





慌ただしい午前中を終えた昼休み、社員食堂で蕎麦を啜っていると、


遠くの方のテーブルで、先程の人事の女性が


他の女子社員と弁当を食べているのが見えた。


飼っているスコティッシュフォールドの写真をスマホで見せながら、


キャッキャと楽しそうに話しているようだ。


可愛い猫の話をしている時、どうして女性の声は、


1オクターブも2オクターブも高くなるのだろうか。





ふと隣の席を見ると、工場で働く古参の男性社員が、


何やら、社食のメニューでも、自前の弁当でもなく、


あまり見慣れないようなものを食べようとしていた。


男は思わず「それ、何ですか」と尋ねると、


古参社員はにやりと笑って「"ニャオチュール"だよ」と答えた。


よく見た所、それは猫が食べる用の缶詰のようだ。


「そんなもの食べて、お腹壊すんじゃないですか」と問うと、


古参社員は、問いかけとは全く別方向の話をし始めた。





古参「俺にはよ、夢があるんだよ」


男「はぁ、夢ですか…」


一体、何の話が始まったのか。


古参「俺はいつか、この"ニャオチュール"の力で、


   人事のベッピンお姉様の飼い猫になって、


   会社の誰も知らない、あの女の素顔を暴いてやるのさ」





零細工場で長年働かされ、この爺さんもついにボケてしまったか。


自分も早い所、こんな会社からはオサラバした方が良いかもしれない。


そんなことを思いながら苦笑いをしている男をよそに、


古参社員は、その"ニャオチュール"なる缶詰を開けて見せた。





古参「食ってみるか?」


男「いや、食べませんよ」


冗談じゃない。いくら何でも、そこまで落ちぶれてたまるか。


古参「良いから、一口食ってみろって」


男「勘弁して下さいよ」


古参「ここは騙されたと思って」


男「騙すの下手過ぎでしょ」


2人のやり取りを、周囲の人間がチラチラと見ている。


しかし古参社員は意固地なのか、一歩も譲ろうとしない。


工場の人間は怒らせると厄介だ。急に怒鳴り始めるかもしれない。





男「わ、分かりましたよ。じゃ、一口だけですよ」


古参「物分かりの良いヤツだな」


男は、ニャオチュールの中身を箸で少量摘まんで口に入れた。


「大分、薄味ですね」と言おうとした所で、急に意識が遠のいていった。





目が覚めると、そこは知らない家の玄関のようだ。


男「…どこだ、ここは?」


玄関の床に寝ていたようだが、何だかどうして目が痒い。


随分白い毛が目に入るので、手で擦ろうとして仰天した。


自分の手は、白い毛でビッシリと覆われていたのだ。


男「な、何だこの手は…!?」





あり得ない現状を前にし、驚きに打ち震えていると、


玄関のドアが開き、「ただいまー」と女性の声が聞こえた。


自分の体が随分小さくなってしまったのか、


一般成人女性の体ですら、はるか高く大きく見えた。


しかし、それ以上に帰ってきた人間の顔を見て戦慄した。


その顔は、午前中に自分を詰問してきた人事の女だった。





女「ただいまマロン~! 会いたかったよ、チューしよっか、チュー」


人事の女は突然、顔を近づけてきて、躊躇なくチューをしてきた。


"マロン"とは一体、何の名前なのかを考える暇もなく、


男は人事の女と、玄関で熱い接吻を交わしたのであった。





「柔らかい…」


思えば今朝、女の席まで行った時にもほんのり良い匂いを感じたが、


抱きしめられてキスをされると、改めてこの女は良い匂いだと再確認し、


男は今、自分の体が何かも分からぬまま、恍惚の表情をしていた。





女「今日も疲れたー。マロンに慰めて欲しいから、一杯チューしよっか」


耳がどうかなるかという位、甲高い猫撫で声を発し続ける女。


職場のマドンナの唇は、自宅ではこんなにも安売りされていたのか。


その現実に驚きながら、"マロン"こと男は絶え間ないキスの洗礼を浴びた。


口付けをする程の至近距離で見ても、やはりこの女は美しい。





女「マーロンっ」


耳元で名前を呼ばれるとむず痒い。


男は、もう自分が"マロン"であることは理解した。


すると女は続けて耳元で、甘くこう囁いた。





女「お風呂、入ろっか」





な、な、な、にゃ、にゃんと!?


その一声で、耳まで熱くなってしまった男だったが、


自分の口から「はい」「いいえ」を言う間もなく、


女は自分を抱きかかえて、バスルームへと向かって歩き出した。


この女は言葉も強いが、腕力も凄いなと男が感心していると、


突然、ベランダから「ワン、ワン、ワンっ」と鳴きながら、


監督扮する変質者が、犬耳を付けて部屋に走り込んで来た。


女は「キャーッ」と悲鳴を上げて、男を床に落とした。


「いってぇ…」と、思わず頭を両手で押さえる男。





監督「お姉さん、今日はそんな泥棒猫とじゃなくて、


   トイプードル風の僕と、一緒にお風呂に入るワン!」


犬耳を付けた監督が、付け尻尾を振り振りしながらおねだりすると、


その背後から、閻魔大王のコスチュームをしたハバ男くんが登場。





ハバ「犬っころめ、そんなにお風呂に入れて欲しいなら、


   もっと広くてもっと熱い、地獄の風呂釜に入れてやろうかい!」


監督「わ、…ワンっ!?」


怯えた子犬の首根っこを、ぐわしと掴んだ閻魔大王様。


そのすぐ隣には、真っ赤な色をした風呂釜がぐつぐつと煮えている。





ハバ「100数えるまで、静かに首まで浸かっておれっ!」


監督「わ、わ、ワォォ~ン!」


愚かな野良犬は、煮え立つ大釜へと躊躇なく投げ込まれた。





早朝。


「わおぉぉぉぉんっっ!」と叫んで目が覚めると、


いつもと同様にベッドから落ち、汗ダルマになっていた兄貴。


「また、夢か…」と呟くと、びしょびしょになった顔を手で拭い、


着ていても仕方が無いシャツを脱ぐと、ゆっくり体を起こす。





「ニャオチュール、どこで売ってんだろうな…」





そんなことを呟きつつ、兄貴はシャワールームへと向かった。





~ブルーハワイ兄貴の「ソフト俺デマンド」 終わり~

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