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20世紀の芸術とは?現代アートの意義

「土曜1限」という、一番ストイックな1コマに受講していたのが、「表現文化論」という講義。そこでは美術史を遡りながら、現代アートを考察するもので、大学時代に戻れるなら、もう一度受けたい授業です。

今回はその講義で学んだことをまとめるのですが、「なぜ現代アートは価値があるのか」を疑問に思っている方には、わかりやすい内容になっていると思います。

20世紀もっともインパクトのある作品

デュシャンの『泉』は2004年12月、世界の芸術をリードする500人に最もインパクトのある現代芸術の作品を5点選んでもらうという調査の結果、ピカソの名作『アヴィニョンの娘たち』を抑えて堂々の1位を獲得しました。

マルセル・デュシャン「泉」 テートモダン /2017年撮影

ピカソ「アヴィニョンの娘たち」ニューヨーク近代美術館 /2016年撮影

これを現代アートとして考えるにあたって大切なのは、マット氏が自分の手で『泉』を制作したかどうかは重要ではありません。彼はそれを選んだのです。彼は日用品を選び、それを新しい主題と観点のもと、その有用性が消失するようにし、そのオブジェについての新しい思考を創造したのです。

既に存在している何かを「選ぶ」こと、そしてそれに「名づける」こと、そういった「行為」そのものが芸術を成立させるという考えに基づき、それまで誰も考えなかった手法をとったのです。

ちなみに、サインの「R」は馬鹿者という意味のある「リチャード」の略で、「MUTT」は便器の製作会社「Mott Works」をもじったものなので、これは「馬鹿者のマット」と読み替えることができます。すなわち、既成の概念や手法を踏襲しただけの作品をつくり、それにサインをするような行為は愚かであり、便器のような既製品に「馬鹿者のわたし」とサインをするようなものだ、といったような意味が含まれていると言えます。デュシャンはただ名前を隠したのではなく、そこに挑発的なメッセージを込めたのです。

また、タイトルの「泉」は、便器の見方に異なる視点を与えているだけではなく、有名なドミニク・アングル(1780-1867)の作品《泉》(1856)を引用しているとも言われています。

しかし、同じ「泉」でも全く異なる趣の作品ですから、伝統的な価値観を挑発する仕掛けだったのです。

彼にとって重要なのは、出来上がった作品そのもののオリジナリティではなく、それらを支える思想だったのです。


ね、こういう裏話を聞くとちょっと現代美術を見る目が変わりませんか?

では、例えばどのようにデュシャンが現代のアーティストに影響を与えたのか、マーティン・バースの「スモーク」シリーズとデュシャンの関わりについて考えてみましょう。

デュシャンが与えた影響とは

マーティン・バースは1978年ドイツ生まれ。2002年、多くの著名デザイナーを輩出しているオランダの有名校デザイン・アカデミー・アイントホーフェンを卒業。当時、卒業制作として発表されたのが、バロック調の家具を真っ黒に焦がした家具のシリーズ「スモーク」。

この作品はバースがデザインして作った椅子ではなく、ただの既成の椅子を燃やしただけの作品です。この椅子を見てデュシャンの「泉」が、すぐに私の頭に浮かびました。デュシャンは私が語るまでもありませんが、デュシャン以降の芸術に大きな影響を与えました。それは作品が誰から見ても美しい絵画や完璧な彫刻ではなく、見る人にただ疑問をぶつけるだけの作品であっても良いというものです。
デュシャンはただの日用品を選び、サインをして出展しました。彼は「トイレ」という機能を無くし、「芸術とは何か?」という問いを投げかけました。一方、バースの椅子も、ただの家具を「家具」という機能を否定するように燃やし、家具の「美しさ」に疑問を投げかけているように感じます。燃やすことによって椅子本来の美しいデザインが失われましたが、私たちにもとの姿を想像させようとします。その椅子の想像される先は、見る者それぞれの姿であって、同じ姿ではありません。真っ黒になった作品は新たな魅力があり、その魅力とは、普通にただモノを見るという行為や美の概念を私たちに考えさせる力だと思います。
 
このようにデュシャンは芸術というものに疑問を投げかけ、芸術に新たな可能性を与えた、という点で現代の美術の始まりにいる重要な人物なのでしょう。

20世紀の芸術とは?

20世紀の芸術の最大の特徴は、大雑把にいえば「芸術教育を受けていないものでも芸術家になれる、なることができる」ということ。
しかし、もちろん誰もがなれるわけではなく、「問題意識を持って我々の五感を使って‘適切に’訴える力がある人」がなれるのである。このような優れた芸術家は、芸術に明るくない我々も共有できる、共通して感じていることを、芸術で表現し、伝わった人に新たな感覚をあたえるのです。

現代の芸術家が表現しようとしていることは、大きく二つあります。

一つ目は「自分とは何者か」という自己認識。
二つ目は「社会をどう認識するか」ということ。

だから現代アートを学ぶことは、今この社会を学ぶことにつながります。

(ちなみに、上記の二つを文章で表すのが哲学者であって、芸術で表現するのが芸術家なのでしょう。)

さて、これを読み終わったあなたは、今からアート作品に触れてみたくなってウズウズしているのではないでしょうか?

次回は、世界のアート巡り、ニューヨーク編。



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