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恋なんかより運命だった【連載①】


私の命を繋ぎ、人生を変えてくれた親友との出会いと一緒に生きてきた日々、そして大人になった二人の、それからのお話しです。

ほんとうはひとつの記事にする予定だったのですが、あまりにも長編になりそうだったのでマガジンを作って連載化することにしました。

お時間のあるときにぜひ覗いてみてください。

この連載のマガジン▼



小学5年生、図書館での出会い


彼女と出会ったのは小学生の高学年。はじめて声をかけたのは、学校の近くにあった小学生や中学生向けの図書館の中だった。

同じクラスになったことはなかったし学校で話したこともなかったので、はじめの頃の印象は「放課後、図書館の隅っこでいつも何かを描いている同級生が居るな」くらいのものだった。

けれどなぜかいつも気になって、気づけば図書館に行くたびに隅っこをチラリとみて、居るか居ないかを確認していた。

居ることを確認するとなぜか嬉しくて、それでも声をかけることまではせずに、私は私で読みかけの本を読み、本棚を挟んで背中合わせに過ごしていた。

けれどある日、彼女が座っている近くの本棚から本を取ろうとして盗み見るように目線を彼女の手元にやると、言葉を失うくらい素敵な絵が私の目に飛び込んできた。

心が震えくらい、ほんとうに素敵な絵だった、今でも鮮明に覚えている。

気づくと私は手に本を持ったまま「絵、すっごく上手!!!!」と彼女に話しかけていた。続きが気になって仕方なかった本の存在が薄れてしまうほどに、私の興味関心は彼女と、彼女の描く絵に注がれていた。

あまりにも突然近づいて話しかけるものだかたら、彼女はビクッとして「えっ、あ」「ありがとう…」と言っていた。

驚かせてしまったことで私は我に返り、「ごめんね」と一言吐いてそれでも興奮は抑えられず「私、(自己紹介)!いつもここにいるよね」と続けて彼女に話しかけた。

今の私よりも陽気な性格だったからか、当時の彼女の目には私は「自分とは異色すぎて少し怖い」と映ったらしい。少し怖がられていることも知らずに私は、彼女の向かい側に座り、来る日も来る日も話しかけ続けた。絡み続けた、という言い方が正しいかもしれない。

気づいたら背中合わせではなく、わたしたちは向かい合って放課後を過ごしていた。ほんとうに気づいたら、という感じだった。

それから彼女とは学校内でも少しだけ話すようになっていたけれど、クラスが離れていたし普段一緒に過ごす友達も違っていたから、放課後一緒にいる時間よりは距離感があるままだった。

ある日突然彼女が「(私)ちゃんは、友達がいっぱいいるし、男子とも普通に話せててすごいよね」と言った。

私が「友達は、いっぱいいないよ」と返すと、彼女は少し驚いた様子で、それでも「そうなんだ」と詮索せずに絵を描く手を動かした。彼女のそういうところが、ほんとうに好きだった。

小学生の頃の私は、周りに合わせることに必死で、それが賢く偉いことなのだと思っていた。とにかく当たり障りなく、と考えれば考えるほど、誰をどう信じていいかどんどん分からなくなっていた。

学校の、グループでいなければおかしいと思われてしまう威圧感、人違う意見を言えば迫害されてしまうような空気感、心の中ではだいっきらいと思いつつ張り付いたように笑って同調して過ごした。そうすれば誰も困らせないし自分も困らないのだとも思った。

幸い幼馴染たちが同じ学校だったおかげで、その窮屈さは少し和らいでいた。それでも幼馴染も年がら年中みんな一緒にいるわけではないし、それぞれに友達関係があって、その関係を大切にしていたから、幼馴染たちと離れれば、もうそこはため息ばかりでる世界だった。

だから、図書館でひとりになれる放課後は心地よかった。本を読んでいる時間やひとりで勉強している時間はほんとうに楽だった。

そこに彼女との時間ができたことでより明確に放課後が待ち遠しくなった。

彼女といる時間は、ひとりでいるのと同じように安らかだった。

とはいえ今より人と話すことも全然億劫ではなかったし、体も今よりずっと丈夫だったから室内にいることも好きだったけれど、外で遊ぶことも好きで、結構活発だった。

けれど、この年齢ですでに人間関係に嫌気がさしていた。どこにいてもぐったりとずっと疲れていた。

「私、(彼女)といる時間が一番楽しいよ」と言うと、彼女は「私、ずっと絵描いてるだけだよ」と言い、私は「私もずっと本読んでるだけ」と返した。

「たしかに」と頷き、手に持ったペンをくるくるさせる彼女の仕草を見ていると穏やかな気持ちでいれた。彼女のまわりはいつも絵を描く道具の匂いがしたし、絵を描く音はとても心地よくて眠たくなった。

当時、私たちは一緒にいたけれど、こんなふうに各自自由なことをしているだけで特別互いのことを深く知ろうとはしなかったし、いつでも会話が弾むみたいな雰囲気は別になかった。

けれどたまに、音楽や本の話しやアニメや漫画、趣味などの好きなことの話しをするときは、お互い人格が変わったように熱くなった。

そういうところの思考や好みがほんとうにぴったりハマるくらい同じだとはじめて知ったときは、「話せた人はじめて!好きなことこんなに隠さないで全部話せたのはじめて!」と彼女を抱きしめてしまうくらい興奮した。

彼女も興奮していた様子で「知ってると思わなかった!話せる人いると思わなかった!」と言っていた。ちょっと泣きそうだったし、鳥肌もたった。

たとえば、幼い頃に好きだった絵本だとしたら、その絵本の中の好きなシーンとその理由とか、そういうところまで全部同じだった。惹かれてきたもの、惹かれるものが驚くほどそっくりだった。

CDや本を持ってきては熱く話して貸し借りしたり、イヤホンを片耳ずつつけて音楽を聴いたりした。

小学生の頃に出会い、私たちはまだ全然人生を生きていないのに、それでも同じ世界の見方をしてきた人なんだと、確かにそう感じた。

*****

私は当時学校では結構な人数で会話していることが多く、それも賑やかな人たちばかりだったから、彼女から学校で私に積極的に話しかけることはしなかった。

けれど私は時々その輪を抜けて、彼女がいるクラスに飛び込んでいった。

彼女は大体机に座って絵を描いているから休み時間もあちこち探し回る必要はなくて、クラスのドアを開けば私は一直線に彼女のもとへ飛んでいけた。「あの絵、どのくらい進んだの」と絵の進捗を確かめにいくと「もう少しで完成」と笑ってくれて、いつもひとつの絵の完成を待つ時間が楽しみだった。

「あげる」と絵を渡されたときは毎回部屋に飾って眺めていた。彼女が私の部屋にはじめてきたときに、でへへとそれを見せたとき、彼女は「ちょっと!飾らないでよお」と、ちょっとむすっとしながら赤面していた。

今でも彼女が小学生の頃に描いた絵は私の手元に大切にとってある。彼女にみせると「ひゃ〜〜やめて!下手くそすぎる!恥し!」と言うけれど私にとっては全部宝物。

そうして私たちは放課後という時間をほぼ毎日一緒に過ごし、あっと言う間に小学校の卒業式を迎えた。

*****

「中学校は同じクラスになれるかなあ」「同じクラスだったら学校でふたりでいるようになったりするのかな?」と言い合ったけれど、入学式で発表されたクラスはバラバラだった。

私たちは変わらず、小学生のときと同じように中学生になっても一緒に過ごすのは主に放課後だった。



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