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〈インタビュー〉そういうひとがいても、いいじゃない|小西昌也さん

 「人のために」と思ってやってきたわけではないと、障害者相談・生活支援センターやすらぎ小西昌也こにししょうやさんは言う。運命的な出会いなどの「美しいストーリーがあるわけでもない」と言葉をつづける。人と関わるのが苦手でありながら、常に人と接するような福祉の仕事を継続してきた小西さんは、なぜ、いまもここを選びとっているのだろう。

魅力を探す旅にいざなわれて

やりたいことがわからない。福祉に足を踏み入れたとき、小西さんには明確な理由があったわけではない。

小西:大学進学で福祉系の学部に進んだのに深い考えがあったわけではありません。やりたいこともさほどなく。かといって福祉に特に嫌なイメージもなく、抵抗もありませんでした。大学はひたすらバイト漬け。当時の趣味がバイクでお金が必要で。ダメな学生ですね、こんな人間にインタビューしたのは間違い(笑)

小西さんは卒業後、大阪の病院で2年間、医療ソーシャルワーカーとして働いた。その後、紹介された滋賀の病院に移り、以来滋賀で障害福祉に携わってきている。

小西:働いてみて、いまは福祉の仕事のなかに楽しさを見つけることができています。

しかし、小西さんはその魅力は語れないという。その背景には、「魅力を発信する」という態度そのものを問い直す考え方がある。

小西:たとえば、「福祉にはこういう魅力がありますよ」「こういう風なことが楽しいですよ」って、結局のところ、いままでやってきた人の価値観の押し付けとも言えると思うんです。人と接するのにマニュアルがないように、福祉の世界の支援者も、百人いたら百通りのアプローチの仕方・関わり方があって、感じる魅力も百人百様だと思うんです。魅力って、決まってあるものではなく、自分自身が見つけていけるものじゃなかなと。だから「こういう楽しさがありますよ」ではなく、「その楽しさは、あなたがここで働いたら見つけることができますよ」と、福祉に興味をもってくれている人には言いたいです。

魅力は「ある」ものではなく「見つける」もの。だからこそ、魅力は語れない。

小西:単純に、わたしが福祉の魅力を探す旅の途上だというのもあるのですけど(笑) 魅力ややりがいって、何年経ったら見つかるものなんでしょうね。先日実習生に「仕事のやりがいはなんですか?」と訊かれたんですけど、あんまりまだ見つかってないなって、正直。
いまはまず、生活のため、生きるためにやっています。仕事をしててよかったなと思うこともあるけれど、やりがいは「退職するときに見つかればいいかな」くらい長いスパンで考えています。

そういうひとがいても、いいじゃない

福祉の魅力を探す旅。その旅をもっと気楽により多くの人とともにしたいと小西さんは語る。

小西:なんだか福祉の入り口が狭くなってしまっているなと思うんです。正直わたしも、ある程度気持ちが固まってないと福祉の世界には入ったらアカンのかな?と、当初は考えていました。でもそうじゃなくてもいいと思います。

福祉の世界は、人と人との関わりなしには成り立たない。保育士ときくと「子どもが好きなんですか?」とついたずねてしまうように、福祉の仕事は人と関わるのが好きな人がやっているというイメージを漠然ともっている人も多い。しかし、そうである必要もないと小西さんは言う。

小西:僕、人と関わるのがあまり得意じゃないんです。もともと人間嫌いで、人見知り。人と話すのも苦手。相手が嫌な思いをしないだろうか、つまらなくはないだろうかって気を遣うから。対人援助の仕事をしていて人が嫌い??ってビックリされるかもしれませんが。

苦手ときくと、毎日続けるのはしんどそうにも思える。ところが小西さんの場合はそういうわけでもないらしい。

小西:嫌々というわけではないんです。ただ仕事モードではあります。プライベートでは相手が喋ってくれないと喋れません。関心がないわけではないけど、苦手。それでもって人と関わる仕事をしてる。変な奴ですね(笑) でもだからこそ、苦手でも意外とできるんだよ、人と接するのが苦手でも意外とできるんだよっていうことは言っておきたいな。そういうひとがいてもいいじゃないって。

まるごとに向き合う

小西さんはいま、精神障害をもった方々に日々向き合い続けているが、旅の方角を定めたのは働きはじめてからのことだ。

小西:大学時代は児童福祉が専門で、障害福祉とはあまり縁がありませんでした。重たい話で恐縮ですが、人の精神に興味を持ち始めたのは、友達や病院時代に患者さんがみずから命を絶とうとするのを目の当たりにしたのがきっかけです。「なんでこういうことになるんだろう?」と、人の気持ちがどうしてそうなるのか、ものすごく考えました。「もっと手前でできたことはなかったんだろうか?」そんな風に思っていました。

精神障害分野で働きはじめて、小西さんは世界の広がりを感じているという。

小西:働く側も気づくことがたくさんあります。「こういう価値観もこの世にはあるんだ!」「私が嫌いだと思ってたものは、この人にはむしろ好きの部類に入るんだ!」
この仕事をしていると、世界が広がるのを感じます。たとえば、ふつう死にたいって言ったらすぐにめるけど、まずでも、嫌なことから逃げようとする気持ちは受け止めないといけないな、とか。幻聴や幻覚は他人からすると病気だけど、その人にとっては確かに起こっている事実だよな、とか。親と折り合いが悪い方が自立早いのをみると、みんながみんな親と仲良くしなくてもいいかもな、とか。

「自分と違う」を楽しみ、枠組みを外し、自身の価値観を更新していくことが、福祉の醍醐味だいごみの一つなのかもしれない。

小西:精神障害の方の背景を聞くのがわたしは好きです。それは楽しいだけでなく、問題の根っこに向き合うことでもあると思います。目の前の事柄にアプローチすることで一時的には問題解決できます。例えば「部屋が汚いから掃除をして」と言われて、掃除をすれば目の前の状況は良くなります。でも、それではしばらくすれば部屋は元通り。表面的でその場しのぎの対応にならないために必要なのは、「どうしてこの人は掃除が苦手なんだろう?」といった背景をさぐる姿勢です。必ずしも理由が見つかるわけではないけれど、また違ったかかわり方ができたりします。

表面的な問題にとどまらず、相手のまるごとに関心をよせ、問題の根源を探っていく。結果、ピタリと原因を言い当てたり、解決策を考案できなくても、そういうかかわり方をすることで関係性そのものが変化することは大きな意味をもつ。

小西:時間はかかるけれど、その人が生きてきた歴史・生い立ちを知る、その人そのものを見る。機械的にではなく、人として接し、その人に焦点を置いてかかわることは、どんなかかわり合いにおいても大切ですが、精神障害の方は特に、まるごと向き合うことが重要だと思います。

出会うかわからない誰かのために

人が暮らすところに福祉はある。しかし、場所や地域によっても福祉は多様だ。

小西:福祉の仕事は地域性が大事だなと思います。制度はどこに行っても同じですが、やっている人・関わっている人による違いは大きいです。職種だけでなく、どこで働くかも大切だと思います。わたしは大津の人たちが好きで、だから大津に何か残せたらなあという思いはもっています。

高橋みず希さんが以前のインタビューで、「福祉は息が長い」と仰っていたように、福祉の仕事は、人生を通した付き合いにもなり得る。

小西:長い人生、何かで遠くへ引っ越ししたりしなければ、これからずっと、いま関わっている人の三歩くらい後ろで人生を見ていくんだろうなあと思っています。だからその人たちに、一人じゃないと思ってもらえたらいいなと。一人の人間ができることなんてちっぽけです。ほんの少しでも一人の支えになれたなら、この仕事はやっててよかったと思えるんでしょうけどね。でも人生かけてそれも見つけていくものなんだろうなと考えています。

小西さんは、人生を「自分の仕事が社会にとって何か意味があるのかを見つける40年という旅」と表現する。

小西:精神障害分野は他の障害の分野に比べて、制度上遅れていて、支援者の数も少ない状態です。だからこそ、生涯かけて何かを残していけたらなあと思います。これから出会うかどうかもわからない誰かのために。粗相そそうを繰り返して、残るは悪評ばかりかもしれませんが(笑)

小西 晶也(こにし しょうや)
障害者相談・生活支援センターやすらぎ。相談支援専門員。趣味はカメラ。

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ダイバーシティ&インクルージョンの時代の鍵の一つ「ともに生きる」を障害福祉を切り口に考え、これからの社会をよく生きていくヒントを探索するメディア〈ヨコヨコ〉。「ヨコへヨコへと、ヨコヨコと」を合言葉に、ゆったりと丁寧に文章を編んでいきたいと思います。
ヨコへヨコへと、ヨコヨコと。次回もどうぞおたのしみに。

執筆・編集:大澤 健
企画:大津市障害者自立支援協議会

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