紙の詩集ができるまで1(構想~試し刷りまで)
先日出版した拙著『こコロのナカ』をどのように作成したのか、記しておこうと思います。私はかれこれ25年グラフィックデザイナーを本業にしてきたので、ひととおり作業環境も整っており、詩を作ることより印刷物制作の方が専門家です(笑)。どなたかの参考になればと思い、記します(実のところ私の方は、今使っているPCやアプリを維持できなくなってもちゃんとした印刷物を作成できる方法があれば知りたいです)。
▶作業環境(PC、アプリ、フォント)
【PC】
・OS:Windows10(64bit)
・CPU:Intel Core i5
・実装RAM:8GB
私はPCに詳しくないので、いつも業者さんにおまかせです。2021年に最適化してもらったPCを使っています。「動画は扱わない、B2サイズのポスター制作でもすいすい動くスペックで」とお願いしています。
【使用アプリケーション】
・Adobe Illustrator(カバーデザイン作成)
・Adobe Photoshop(カバーデザイン作成)
・CLIP STUDIO PAINT(カバーデザイン作成)
・Adobe InDesign(組版)
・Word(原稿作成)
Adobeのアプリは、このご時世にまだバージョンCS6で粘っています(笑)。今からデザイン業を始める方は、Creative Cloud(CC)で必要に応じたプランを契約することになります。
【使用フォント】
・モリサワの書体をいろいろ
MORISAWA PASSPORTを契約しています。一人で作業が完結するなら、Adobe CCの契約内で使えるAdobe FontsでもOK。印刷業の現場では、他の印刷会社・デザイン会社との共同作業・データ共有が多々あるので、データをやり取りする際にデザインが崩れたり他のフォントに置き換わらないよう、業界内で圧倒的シェア率の老舗フォントメーカー「モリサワ」のフォントをインストールしてあるのが一般的です。
▶詩集の構想(サイズ、紙、装丁、フォント選び、カバーデザイン)
●サイズ
上の写真のように、いろいろな詩集を見比べて検討。通学・通勤の時に読んでいただけるサイズがいいなと思い、文庫版(A6サイズ)に決めました。
●装丁
何種類かの文庫本を見比べて、
・ノンブル(ページ数)の位置
・柱(ノンブルの横に付ける文字)をつけるかどうか
・マージン(余白)
・文字の大きさ、フォント
・1ページに何行にするか(行送り)
などを決めていきました。
岩波文庫『中野重治詩集』は、1978年第一刷のものを重版して復活させたようで、写植時代の風格が感じられてかっこいい! ノンブルに、写植特有の墨だまりが顕著に見られます。
ハルキ文庫(角川春樹事務所)の『町田康詩集』は、ちゃんと柱がありますね。またノンブルは、本文より内側に配置されています。
ちくま文庫『言葉なんかおぼえるんじゃなかった』は、田村隆一の「語り」の部分が明朝体で、詩はゴシック体です。また、他の文庫より天側(上側)のマージンが少なめ。
●フォント
フォントはやはり、自分の詩のイメージにぴったりのものを使いたいので、丁寧に吟味しました。その結果、小塚明朝に決めました。
小塚明朝は横組みの方が似合う明朝体というイメージがありましたが、ライトな感じが私の作品に合っていると思いました。内容が正統派だったら、リュウミン、もしくは秀英明朝を使うところでしたが(笑)。
●カバーデザイン
構想は出来上がっていたので、文庫版を想定したサイズ(背の厚みは保留したまま)で作成を進めました。印刷物の解像度は300dpi~350dpiが標準ですが、もし一回り大きなA5サイズに仕様変更しても対応できるよう、高めの解像度で作成しておきました。
▶印刷会社選び
自分の希望に沿った紙があるか
冊子本体だけでなく、ブックカバー印刷もできるか
サイトが見やすく注文・入稿しやすいか
この3点を重視して、ネット印刷の会社を探しました。ぶっちゃけ、印刷のきれいさはどこもさほど変わらないと思います。私は、安さはもちろん、入稿のしやすさ(説明が丁寧、テンプレートがあるなど)と、何かあった時に連絡が取れそうか、も結構重視します。
あと、紙のラインナップですね。普通の文庫本っぽくしたかったので、下記のような紙がある印刷会社を探しました(各社から紙の見本を取り寄せて厚み・手触り等を確認するとより正確だと思います)。
そこで、今回はプリンパさんにお願いすることにしました。
▶試し刷り(A3用紙3枚)
本文の組版に取りかかる前に、
フォントの太さ(ウエイト)の決定
紙の決定(表紙・本文・ブックカバー)
カバー印刷の発色確認
をしておきたかったので、プリンパさんの試し刷りを利用しました。特にフォントの太さ(ウエイト)は、InDesignでの組版作業の前に決定しておいた方が何かとスムーズですので。
試し刷り①のワンダルアート110kg、試し刷り②のコート90kgで比較すると、まず紙の白さが違いますね(ワンダルアートの方が白い。写真1参照)。また、コート90kgは手で持った跡が凹みやすかったです(写真2参照)。当初は少しでも安く仕上げるために、自分でブックカバーを本体に巻くことも想定していたので、これはまずいなと(結局機械に巻いてもらいましたが)。本文のページ数が少なく、本の厚みがそれほど厚くならないことが予想されたので、カバーで厚みを稼ぎたい気持ちもあり(微々たるものですが笑)、ブックカバーの紙はワンダルアート110Kにすることにしました。
また、試し刷りによってデータの問題点も発見。イラストの肌色が青みががかっていますよね。これはRGBモードの画像を印刷用CMYKモードに変換した時に起こりやすい現象で、本来ならちゃんとデータ上でスポイトを当ててみて、C(シアン)の数値を確認・調整するべきでした。試し刷りで気付いて良かった!
試し刷り③の本文の用紙&厚みは、色合いと手触りの観点から書籍用紙72.5kgに決めていましたが、本文のフォントの太さを、「タイトル:小塚明朝R(レギュラー)、本文:小塚明朝L(ライト)」にしようか、「タイトル:小塚明朝М(ミディアム)、本文:小塚明朝R(レギュラー)」にしようか、迷っていました。でも試し刷りを見て、タイトル=R、本文=Lに決定。
また、扉のデザインの罫の太さ(0.2mm)、ノンブルの大きさもこれでOKであることを確認しました。
同時に、プリンパさんの取り扱っている全用紙サンプル集も取り寄せ、表紙の紙も決めました。クラフト系の紙に白インクで1色印刷したかったので、色味・手触りが気に入ったファーストヴィンテージ オーク135kgにしました。
つづく
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