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SOSレシート

 捨てようとしたレシートに、ふと目を留めました。
「DVの被害者もしくは目撃者はこちらに連絡を」

 スーパーのレシートの印字。

 コロナ禍初期の頃、フランスではDVが増えたと聞きました。その頃読んだ記事を思い出したのです。フランスのDV件数は日本よりも多いと聞きます。子どもの虐待も。表沙汰にならないからあまり実感はないけれど。

 私にはフランスは親権制度が整っており、DV対策も進んでいるような印象があります。だけどまだまだ問題は潜んでいるんだなと思ったことを 今回は書いてみます。

フェミサイド(女性殺人)

 その記事を見た時、フランスで夫や元夫、恋人や元恋人に殺害される女性の数の多さにびっくりしました。近年「明らかな女性蔑視を動機とし、女性が女性であるゆえに殺される、ある特殊なメカニズムを持った犯罪(フェミサイド)」として他の殺人事件とは区別して考えられるようになったそうです(以下のリンクから引用)。

 フランス : 2019年にパートナー間で女性が殺害された人数150人。
   日本 : 2018年にパートナー間で女性が殺害された人数85人。
     
    フランスの総人口が6,790万人、日本が12,483万人と日本の約半分であることを考えると非常に多い数だと思います。

歪んだ愛のカタチ

 家庭内暴力が発展してフェミサイドに至るというのはイメージできます。だけど他にもフランス特有の考え方が背景にあることも知りました。「愛する人を他の人に取られるくらいなら、殺してでも自分のものにして 永遠に二人でいよう」というもの。
 愛人を殺して警察に追われ自殺する男をテーマにした曲が人気曲になったりするそう。フェミサイドを美化するような背景があります。
 また歴史的にも男尊女卑の激しかった19世紀に、自宅に愛人を連れ込んだ妻を夫がその場で殺すのは「情状酌量の余地あり」とされていたのだとか。妻の行動を監視するなど「妻は夫の所有物」という意識が強かった。いまだに根底ではこういった意識がフランスでも続いるとありました。制度的には男女平等でも意識には女性蔑視が残っている。

DVは深刻

 レシートに記載しないといけないくらい、DVの状況は深刻なんだなと思いました。上記にも引用しましたが、コロナ禍初期の頃に書かれたその記事です。

 政府はDVが増えた2020年の外出禁止令が出された頃に対策を講じました。相手には気づかれないようにするため、薬局から警察に通報できるというのです。今回のレシートも 連絡先を調べることなく助けを求めるきっかけになれば、ということだと思います。

親権制度

 フランスは共同親権なので、親同士の関係が破綻しても子どもとの親子関係は双方の親と続きます。日本でも議論が高まっていると最近のニュースで見ました。「共同親権になった場合、DVの疑いがある親にはどう対処するんだ?双方の親と合わないといけないなんて心配じゃないか?」という意見もあるそうです。
 フランスではDVの疑いがある親の場合、監視の下 子どもと面会できる制度があったり、DVの常習犯には位置情報が分かるブレスレットを装着する義務(2020年1月施行)があったり配慮はされているようです。
 
 このようにただ共同親権にするだけではなく、いろんなケースに備え、制度が整備されている印象を受けます。

 そうはいっても、レシートのメッセージを見つけたようにDVの状況はまだまだ深刻なんだと実感してしまう。

根底の意識は消えない

 上記の記事にあるように「ジェンダーギャップ指数2020」によればフランスは153カ国中15位(日本は121位)。これは経済、政治、教育、健康の4分野で高水準だということ。なのにDVの問題が深刻なのは家庭内では問題を抱えていることになります。
 DVも児童虐待も、表沙汰にはなりづらい。プライベートに干渉しない文化だからこその見えづらさもあるのかなと思います。

 今回のレシート(見出し画像)には他にも、「同性愛者嫌悪による暴力被害は、沈黙を断ち切って。LGBTシェルターの連絡先は──」とも表記されています。

 パリの住んでいるエリア内でもフェミサイドに関するポスターをよく見かけた時期がありました。「〇〇(名前)○歳で殺害される」といったもの。その時はこんなに件数の多い社会問題だとは思っていなかったけれど、少し調べただけでもこんな現状があるのかと驚きます。

 普段見えないけれど、まだまだ闇の深い問題が潜んでいることに気づきました。制度など社会環境が改善される裏で 女性蔑視や同性愛者嫌悪など変わらない意識がこうして犯罪や暴力となって現れているんだなと思いました。


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