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無条件に買ってもらえるもの

2024年3月23日に、佐藤友美さん主催「さとゆみゼミ」を卒業。卒業後も、文章力・表現力をメキメキと上げ続けるため、仲間と共に、note投稿1,000日チャレンジをスタート。

Challenge #50

自分が育ってきた環境は、少なくとも育児に影響を与えていると思う。

子どものころのわが家は、そこそこ裕福だったと思う。しかし、父の浪費癖により、母はお金のやりくりに苦労していた。父は、「借金があるからこそ、働こうという気持ちになるのだ」と、訳のわからない理屈を言い、高額な商品をローンで買ってしまうタイプの人だった。ボーナス月には、いくつものボーナス払いが重なるので、かえって家計が苦しかったそうだ。

そんな事情で、欲しい物を買ってもらえないことが多い子ども時代だった。小学校に持っていく裁縫セットは、おばあちゃんからの借り物。クラスメイトは、キャラクター物のかわいいお裁縫BOXを使っていたのに。

ただし、無条件に買ってもらえるものが、ひとつだけあった。

いつだって、本だけは買ってもらえた。小説、文芸書、ライトノベル、コミック…。物語読みたさに、自力で字を覚えたような子どもだったから、ご飯を食べるように本を読んだ。

母になって、わたしも同じように、息子たちに本を買い与えるようになった。ダイヤモンドが2,000円で手に入るなら、ほとんどの人は迷わず買うだろう。本を読んで得られるものは、ダイヤモンド以上の価値があると知っている。これまで本から得た知識や価値観は、わたしの心と頭にしみついていて、誰も奪えない。だから、息子たちに「本、買って」と言われたら、「いいよ」と秒速で答える。


ある日のこと。職場で、Nくんという同僚と話していた。わたしが「最近、『広辞苑』を買ったんだーー」と話すと、Nくんは、「辞書、いいっすよね。俺なんて、学生のとき5冊くらい漢字辞典もってました」と言う。

え、ちょっと待って。漢字辞典って、1冊あれば十分じゃない?

話を聞いてみると、「漢字の字画が多いほど、ロマンを感じる」という癖があることがわかった。たとえば、最大60画の漢字を掲載しているAという辞典を持っているとする。本屋で、最大80画の漢字を掲載しているBという辞典と出会うと、そちらの方が「格上」であると判断し、買ってもらっていたのだとか。「字画が84もある漢字なんて、ロマンしかないじゃないっすか!」と目を輝かせる。

84画「だいと」「おとど」の読み

そのロマンとやらを詳しく聴きたいところだが、何よりも、Nくんのご両親に興味が湧いた。

わたしだって、息子たちに本は買ってあげますけれども……漢字辞典って、めっちゃ高いしさ。どれも一緒じゃないかなぁ?と思っちゃう。

もし息子が、「こっちのほうが、字画が多い漢字載ってるから買って」「84画の漢字が載ってるよ!ロマンしかないから買って」と言ってきたら?わたしに、それを受け止める度量の大きさ、あるだろうか。いや、「今の辞典を大事に使いなさい!もったいない!」と、一蹴するに違いない。

Nくんは、頭の回転が早くてユーモアのセンスもある「愛されキャラ」だ。そんな彼を育てたご両親って、どんな方なんだろう。何冊も漢字辞典を欲しがる息子を、どんなふうに受け止めたんだろう。

母にしてもらったことを、私の子どもにもしてあげる。それも良いけど、「ふつう」の枠を超えていく子どもを、面白がれる私でもいたいよなぁ、とも思ったりするのでした。

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