老人性うつと認知症を乗り越えた森村氏の、実践的老いの教科書 「老いる意味 うつ、勇気、夢」 中公新書ラクレ 森村誠一


人生は100年時代になっているから、それにあったライフスタイルを築く必要がある。

だから、60代からの生活の心得を書いた本は、それこそ無数にある。ただ、ほとんどは、元気ではたらき、学べというものだ。

森村氏のこの本は、もう少しつらい現実から書き始めている。現在88歳の森村氏が、老人性うつと認知症を併発し、3年間「出口」を探してもがいたことだ。

私は60代だが、老人性うつという言葉を初めて聞いた。

調べて見ると、引っ越しなどの住環境の変化、仕事を退職した、家族と別居となった、などの「環境的要因」と、病気の悪化や不安、配偶者との死別、老化に伴う体力や身体の衰え、などの「心理的要因」の2つが主な原因となり発症することが多いらしい。

忙しく作家活動をしていた森村氏には当てはまらない気がするのだが、いずれにせよ症状は突然現れたという。

ある日いつものように朝、自宅のベランダに立った。

今日も充実した時間を過ごせるだろうと思っていた早朝、爽やかな空気を吸いながら身体を動かそうとしたとき、違和感を覚えた。
前日までとはまったく違ったように、朝がどんよりと濁っていたのである。雲が多いとか、そうしたことではなかった。

文章が思ったように書けなくなり、単語が出てこなくなったという。医師のアドバイスに従って、いろいろな事に挑戦した。

喫茶店やレストランに行く、電車や車に乗って、美しい場所.珍しい場所に行く、自宅に人を招くなどだが、効果は現れなかった。

うつと認知症との2重の闘いが始まった。なかなか思い出せない言葉があったときには、言業をノートに書き出した。新聞のチラシの裏などにも、思い出す言葉があるたび書きだしていった。

壮絶な自分との戦いだった。ほとんどの人は、ここまでできないだろう。作家を続けたいという執念が、森村氏を駆り立てたのだろう。そして少しずつ言葉を思い出したという。

この本のエッセンスは、このような努力を続け、3年かけてこの困難を乗り切ったことだ。

それ以外にも、睡眠、水やミルクの飲み方、排泄などだれでも取り組めるちょっとした健康法も紹介されている。一種の「老いの教科書」として役立ちそうだ。

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