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もう当たり前になっている道路のカーブカットが教えるもの 弱者からのメッセージは社会を変えてくれる。

もし歩道を歩く機会があったら、注意して見てください。歩道と車道がつながる部分には切り込みが入っていて、なだらかなカーブが作られているはずです。

米国で注目


 いまではどこでも見られるこの工夫。最初に注目を浴びたのは米国でした。しかも、社会への抗議活動の形を取っていました。

 1970年の初頭のこと、カルフォルニア州の大学に通っていた車いすの学生たちが、移動しやすいようにと、歩道と車道の間にコンクリートを流し込んで、勝手にスロープをつけたのです。

 この行為は賛否を巻き起こしました。しかし車いすの利用者だけではなく、キャスターのついた旅行鞄を引いている人や、スケートボードを楽しむ人、町中でランニングをする人にも役立つことが分かってきました。

 そして道路だけでなく、公共の建物や公園など全米でスロープが作られるようになり、やがて世界にも広がっていったそうです。

 始まりはスロープでしたが、道路脇の歩道に切れ込み(カーブカット)が入るようにもなりました。

 いま、当たり前になっている光景は、実はこんな経緯があったのです。

カーブカット効果


 「カーブカット効果」と呼ばれ、学術論文にも取り上げられたこの運動が教えてくれるのは、「マイノリティのための施策は、最終的にはマジョリティの人たちにも役に立つ」という単純なようで深い真理です。

 論文はこの雑誌で日本語に訳されています。

 日本でも、障害を持つ人たちも使いやすい工夫が公共交通機関に広がっています。

 例えばバスはかつて、三段のステップ上って乗るのが一般的でした。いまでも一部ではこういうバスが走っています。

 しかし車いすの人も使えるようにと、乗り口も降り口も道路面に接した低床のノンステップバスが普及し、いまでは当たり前になっています。

日本の鉄道を変えたある事故


 電車の駅に設けられている点字ブロックやホームドアといった安全装置は、1973年に山手線の駅で起こったある事故がきっかけになっています。

 全盲の男性がホームに落ちて死亡、当時の国鉄が訴えられました。その後、「視覚障害を有する乗客の安全対策に努力する」との和解が成立したのです。ホームドアの普及には、こんな背景があったことをご存じでしたか?

 これも実際に設置してみると、視覚障害の人だけでなく、多くの人に安心感を与えています。あの事故がなければ、ホームドアは出現していなかったかもしれません。 

昨年東京の武蔵野市で、住民投票制度の導入が論議されました。

 この住民投票制度は、外国籍の住民が市長や市議会議員、国会議員の選挙へ投票できるものではありません。

 ところが「外国人へ参政権を与えることになる、市政が乗っ取られる」といった極端な意見が広がり、市議会で否決されました。

 日本が十分話せない、日本の社会をよく理解できない外国籍の人は、新たな時代の「弱者」と言えるでしょう。

外国人の不安はわれわれを助けてくれる


 「カーブカットの教え」に従えば、その人たちが感じる生活のしづらさや、改善して欲しい行政サービスは、将来、日本に住む多数の人たちにも助けになるはずです。

 狭隘なナショナリズムが、むしろ自分たちの社会を衰退させています。

 外国籍の人が多住する川崎には「外国人市民代表者会議」と呼ばれる組織があります。外国人が行政への要望を出し、それが市政に反映される仕組みです。

https://www.city.kawasaki.jp/250/page/0000041052.html

 「分かりやすい日本語で、行政情報を伝えてほしい」という希望を入れて、話し言葉に近い平易な日本語で情報発信をしたところ、年配者や子供にも好評だったそうです。

 ブラジル人が多く住む愛知県豊田市は、市内に済む外国籍の人たちに詳細なアンケート調査を行っています。

 「コロナウイルスによって困っていることは何ですか」という質問に、こんな答えが返ってきました。

収束の見通しが付かないこと(66%)
収入の減少(59%)
失業や保険(31%)
子供の教育(18・4%)
外国人への差別(12・2%)
家を失う恐れ(9・4%)

 これらは、今誰でも持っている不安ですが、外国籍の人たちはさらに強い不安感を抱いていることでしょう。

身近にいる鳩から


 インドには「小さな鳩がもたらす 大きな知らせ」という諺があるそうです。どんなことでも無視してはいけない。たとえそれが小さくても、あなたに価値のあるメッセージかも知れない。見た目で物事の価値を判断してはいけない、という意味です。

 このことわざは、下の本で見つけました。

 弱者からのメッセージに、耳を澄ませたいと思います。

この文章は、東京新聞に私が書いた内容をベースに、加筆しています。

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