国際結婚と東北大震災

 ずいぶん昔に書いた原稿をパソコンから発掘。
少し加筆して再掲します。

 15年ほどまえ、国際結婚のNPO国際結婚協会の理事になったことがある。自分自身、国際結婚の経験者だからだ。一般からの相談のメールに対応していた。

 法律の専門家ではないので、こういう方法や相談窓口がある、こうすれば問題が解決できるかもしれないという案内だった。NPOには専門の司法書士がいたが、相談の件数が多すぎて、対応できなかったからだ。

 ほとんどは、日本人女性と外国人男性の組み合わせで、離婚に応じて貰えないと言う内容がほとんどだった。これは不思議だった。

その時、知ったのがここに紹介する韓国人女性だった。

宮城県の沿岸部に住む韓国生まれの女性は、日本人の夫を突然の津波で失った。葬儀を終えて呆然としている時、夫の両親が近寄ってきて、思いあまったように彼女にこう言い放った。

「息子の遺産を外国人のあなたに渡したくない。銀行の通帳と印鑑を渡してほしい」。女性は驚いて、宮城県の国際交流協会に相談に行った。協会の取りなしで、両親は、外国籍であれ、妻に相続権があることを理解したというが、この女性は「こんなに軽く考えられていたのか」とショックを隠せない様子だった。

 宮城県だけでも外国人登録者は16000人を超える。中国、韓国、フィリピン国籍者が多く、このうち約4割は国際結婚で日本に来た女性だとみられている。日本に帰化した人を含めればさらに数は増えるだろう。

 もともと東北地方では、ヨメ不足解消のため、仲介業者が入って結婚する男性が多かった。このため、結婚当初は、お互い言葉が通じない夫婦もいる。

 外でお金を稼いでくる夫の存在が、かろうじて結婚を維持していたが、津波は一家の重しを奪い、矛盾が一気に吹き出した。

 「国際結婚の液状化ですね」と話すのは同協会の大村昌枝企画事業課長だ。震災と津波の被害にあった外国人妻をケアする社会的なシステム作りを訴えているが、「まだ、外国人のことに関心を持ってもらえる状況ではない」と残念そうに話す。

 こういった突然の悲劇に見舞われなくても、実は国際結婚で相続の問題に直面する人は少なくない。もともと年齢差があるケースが多く、男性が先に亡くなることが多いためだ。
 ただ、子育てと違って、みんなの前で口にしにくいので実体ははっきりしない。

 国際結婚にまつわるさまざまな相談業務を行っているNPO法人の国際結婚協会にも、こういった相続問題に関する相談が目に付くようになった。

 たとえば横浜に住む60代の男性は、13年前に40代の中国人女性と再婚した。ねだられるままに1千万円で、上海のマンション70平方メートルを購入した。それが折からの不動産ブームで大当たり。価値が倍になったが、その直後妻が病死してしまう。

 部屋には亡くなった妻の連れ子が住んでいたが、日本からの電話を受けず、立ち退く気配もなく、むしろ「中国では(結婚の)届け出がでていない」として、部屋は自分のものだと主張しはじめた。中国では、結婚届をまず中国で提出しないと、婚姻が認められない。

 まず日本で婚姻届を出すと、結婚が認められず中国人配偶者は独身のままとなる。

 困った男性は、中国で日本語のできる弁護士を見つけ、日本での婚姻証明も取って、連れ子の女性と財産分与について本格的に争う考えだ。

 国際結婚の財産や相続は、住んでいる国や相手の国籍によってさまざま。アメリカでは、財産に関する遺言を残すのが一般的で、さらに財産分与に当たって簡単な裁判が必要になることがある。

 中国では、相続にはじめから結婚相手の両親にも権利が与えられている

 東南アジアでは女性の地位が低いため、夫が死んでも妻に相続の権利がない場合もある。

 国際結婚協会の副理事長を務め、相談業務にも当たっている行政書士、社会保険労務士の岡村正人さんは、1、相続では日本の常識が通用しないと心得る。2、婚に当たっては、相続に関する法律も調べておく。3、もめてきたら素人では対応不能。経験ある弁護士を探して、粘り強くやりとりをーとアドバイスしている。

 ただ、国際結婚について調べて見ると、多くの外国では結婚が、日本のような大事ではなく、通過点の1つのように軽く考えられている印象を受けた。家を用意し、車を買い、教育におかねをかけることができなければ、結婚すべきではないというプレッシャーはあまりない。

 出会って、シンプルに結婚し、うまく行かなければ分かれる。日本や韓国、中国も少子化が進んでいるが、重く、真面目な結婚観が影響しているのではないかという気もする。

 以上の話は文中に出てくる岡村さんから聞いたものだ。その後、ここに出てくる人たちがどうなったのか聞きたかったが、現在は事務所を畳み、音信不通となっている。
 国際結婚をめぐる何らかのトラブルに巻き込まれ、廃業したという噂も聞こえてくる。

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