朝鮮戦争と日本

以前書いた文章を再掲します。


「朝鮮戦争の終戦宣言を成し遂げるとき、非核化の不可逆的進展とともに完全な平和が始まる。できると信じる」
 9月に行われた国連総会での演説で、韓国の文在寅大統領は、こう呼びかけた。それ以降、来年5月の任期切れをにらみながら、関係国の説得に当たっている。

 朝鮮戦争(1950~53年)は、北朝鮮の韓国侵攻によって始まり、朝鮮半島全土をローラーをかけるように双方が占領と後退を繰り返した。
 正確な数字は分からないものの民間人を含む数百万人が犠牲になったとされる。また1000万人もの人たちが、南北に分断されて暮らす「離散家族」となった。

 約70年前のことだが、実は法的には戦争状態は続いている。53年に国連軍と中国、北朝鮮の間で休戦協定が結ばれているだけだ。いつ戦争が再開されるか分からない状況が続いている。
 文大統領は、この戦争についてとりあえず政治的に「終戦」を宣言して、その後正式に終戦に必要な手続きを進め、北朝鮮の非核化も進めたいと考えている。

 しかし、今のところ反応は今ひとつだ。中国は前向きな姿勢だが、米国は態度をはっきりさせていない。むしろ、北朝鮮が核兵器を増強させ、ミサイルの能力を飛躍的に高めている中で終戦宣言を出したら、北東アジアの軍事バランスが崩れると考えている。日本政府も、ほぼ同じスタンスだ。

 最大の問題は、じつは北朝鮮だ。「(北朝鮮に対する)敵対視政策の撤回が先だ」と主張するなど、乗り気ではない。宣言を出す前に、北朝鮮の脅威となっている在韓米軍の縮小など、具体的な信頼醸成措置を求めている。
 今のままでは、終戦宣言実現は難しそうだ。しかし私は少なくとも日本は、朝鮮戦争の終結に責任を持っている。終戦に向けた努力を惜しむべきではないと考える。

 その最大の理由は、太平洋戦争での敗戦によって疲弊した日本経済が、朝鮮戦争で息を吹き返した経緯があるからだ。

 終戦の年に発足した現在のソニー(当時は東京通信研究所)は、通信関係の特需のおかげで、会社の発展の基礎を築いた。
 トヨタは、会社内での争議が激化し経営危機に直面していたが、軍用トラックの注文が激増し、その後の飛躍のきっかけとなった。

 敗戦後の日本を「非武装、中立」の国にしようと考えていた米国は、中朝が連合して戦った朝鮮戦争に強い危機感を覚えた。
 日本を再軍備に導き、現在の自衛隊の前身である「警察予備隊」の発足に協力。そして日米の同盟関係を強化していく。

 朝鮮戦争当時には、日本にある米軍基地から爆撃機が出撃し、朝鮮半島で傷付いた米兵は、日本に戻って治療や休養を取った。事実上の後方基地の役割を果たした。
 朝鮮戦争休戦の後も、日本国内には七カ所の国連軍後方基地が残り、戦争再開に備えている。
 南北朝鮮が分断され、緊張が続く方が、現在の日米軍事同盟を維持、強化する名分になる。

 しかし、「現状維持」に甘んじ、「戦争状態」を今後も続けさせていていいのか。終戦宣言の持つ意味を考え、北東アジアに平和を実現していく努力をリードする気概を持つべきではないか。

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