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シンパシー・フォー・ザ・ターマイツ 〜白蟻とその周辺


床ブカブカはシロアリと無関係なことがあるよ、という記事を以前書いた。

だがそうでない場合もある。残念なことに。

こちらがそのような相談を受けたとき、水回りに近いところでは、扉周りの下側、つまり基礎や土台に近いところを見ていく。大概、戸枠の床に近い方に縦の筋が入っていて、そこを押すとパリッと音がして、トンネルが姿を現す。綺麗に薄皮一枚残してよくやるよなあ、と感心している場合ではないので、厳かにご利用者さんに告知を行い、駆除業者さんに繋いだりする。


シロアリは生態系の中では、木を物理的にバラバラにする仕事を担う。倒木などを解体する一次業者である。クワガタムシの幼虫などと同じ役割であるが、とにかく機動力と物量に長けているため、出来高があがる。彼らがいなければ、森林の新陳代謝も容易には行われないであろう。

なので、彼らにとってみれば、切った木を変な動物が組み合わせて作ったものも、彼らの仕事場かつご飯には違いない。

でも、彼らにも好みはある。


例えば、外に放置している木材はあっという間にシロアリに食われるが、よく見ると重なった木の境目を丹念に攻めていく。あえてトンネルをわざわざ掘りたくないし、ましてや硬いところは苦手なのだ。

なので、比較的硬い木の、内側の芯材と呼ばれる硬いところは、大概食べ残す(ヤマトシロアリ)。ただし、彼らの一部は水を運ぶ能力があるため(イエシロアリ)、お手頃な食べ物がほとんどなくなれば、仕方なく乾いている材を柔らかく調理して食べ始めるので油断はできない。こちらは発生割合にすると1割くらいとのことだが。

なので防虫剤を塗布したり、吸い込ませた木を土台に使う、のだが。

これは歴史的に見ると、色々と頭を抱えたくなることがあり、その当時は良かれと思って使われた、クロルピリホスという薬剤は今やシックハウス規制物質だし、もっと面倒なのはCCA処理が施された木材である。

この格好良い略称の材料は、1990年代までは外部デッキや土台材として、緑っぽい薬剤加工材として普通にホームセンター等でも販売されていたが、ゆめゆめ騙されてはならぬ。

日本語にすると、これはクロム化ヒ酸銅(chromated copper arsenate)処理である。
なにこれ強そう。ただし人間にも。

CCA系木材保存剤は発癌性のある六価クロム、ヒ素を含むため、これを使用したあとの大量の建築廃木材が重篤な環境汚染を引き起こすことが懸念されている[1][2]。

国土交通省は建設リサイクル法基本方針で、CCAを含むおそれのある建築廃木材は分別した上で、適切に埋立て又は焼却することと指導している[3]。

しかし、不十分な設備で安易に焼却処理を行うと昇華し易いヒ素化合物が排煙として飛散し、周辺地域土壌を汚染することが懸念されている。また、密閉の不十分な処理場に埋立てると周辺の土壌、水源を汚染する心配もある。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%A0%E9%8A%85%E3%83%92%E7%B4%A0%E7%B3%BB%E6%9C%A8%E6%9D%90%E4%BF%9D%E5%AD%98%E5%89%A4

おおう。

知らない方が良かった、レベルの話であった。

なんでも、アメリカで開発されたこの技術、木材にこの強く結合するので、流出の心配はないという触れ込みだったのだが、現実は甘くない。日本の高温多湿を舐めていたということである。

やはり、新しい技術はえてして落とし穴があり、その責任者はバックレるものである。人の世の歴史は繰り返しているのだ。


それを踏まえた上で、我々は彼ら、白蟻一家に対して、化学兵器オンリーで戦うのではなく、これは食べやすくないですよ、美味しくないですよ、という環境を作ることを考えたい。

パッと思いつくのは、地面に接触させない、濡らさない、材料の硬いところを使う。くらいだろうか。いまひとつ消極的ではあるが。

もっと積極的な戦略を取るなら、昔の沖縄方式がある。

南国のシロアリは、周辺の植物の成長に対応したのか、倒木の粉砕能力が高く、乾いた材料ですら食らう異能の持ち主までいるそうである。
(今は沖縄以外にも、アメリカカンザイシロアリという奴がいるらしい)

以前仕事でお世話になった沖縄の建設会社の方いわく、乾いているはずの鉄筋コンクリート造の2階の床がシロアリで全滅したこともあるそうだ。そんな強敵に対して、かつての木造の沖縄民家はどう対抗していたのか。

それは敷地内に丸太を半分くらい埋めて放置、である。

適当に湿った丸太に女王が住み着き、コロニーが定着した頃にそれを焼き払い、それを毎年の行事にしていたとのこと。

今は廃棄するときに野焼きはできないし、そもそもそんな広い庭もなかなかないのでその習慣は廃れ、台風に対するアドバンテージと相まって、いまや沖縄はコンクリート系住宅の天国である。だが、そういう作戦でずっと暮らしてきたのだから、かつては人間もなかなかに強かだったよな、と思う。

というわけで、10年ほど前に、こちらの事務所兼用住宅の、端に4㎡程度の木造倉庫をつくった際、実験してみた。
材料は床と壁が足場板(厚さ38mm)、それに90角の柱、90×40×2の鋏梁と、45角の垂木、これ垂木以外はすべて桧の芯材。床下は浮かせて通風確保、そこに防腐塗料等は何も塗らないで経過観察である。

数年前、仕事が忙しく、その周辺に残材を積み上げていたら、シロアリがやってきた。まことに仕事熱心である。
はからずも沖縄式トラップを実行した形になったので、こちらは野焼きもできないことから、ゴキジェットを丁寧に噴霧したところあっさり天に召された。シロアリは、ハチの親戚のアリより、Gに近い一族なのだ。

その後、立てかけてあった残材を撤去した跡地である、こちらの倉庫のヒノキ材の表面が綺麗に食べられていることを発見した(トップ画)。でも硬いところは残しているので、これはこれで良い仕上げに見えなくもない。浮造り(うずくり)仕上げという表面加工を白蟻にやってもらったようなものだ。まことに風流なものである。


だが、母屋の方だとそんな悠長なことは言っていられない。彼らには彼らにふさわしい場所で働いてもらいたい。

がんとシロアリは早期発見に限るのだ。

さてこれからの季節、シロアリ(ヤマトシロアリ)のハネムーンの時期なので、羽アリには十分注意したい。なんせ、シロアリの羽アリは白くない。黒か茶色なのだ
見分け方はプロのそれを引用しよう。

アース製薬 害虫なるほど知恵袋
シロアリの見分け方を画像付きで解説!自分でもできる予防と駆除。

アリの胴体にはくびれがありますが、シロアリは寸胴。最も見分けやすいと思われるのは翅(羽)で、いずれも4枚ですが、アリは後翅のほうが小さく、シロアリは前後の翅がほぼ同じ大きさ。シロアリの翅はとてもとれやすいので、もしもシロアリが棲みついている場合は、家の周辺に大量の翅が散乱している可能性が高いです。

https://www.earth.jp/gaichu/wisdom/shiroari/article_001.html#:~:text=%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%81%AE%E8%83%B4%E4%BD%93%E3%81%AB%E3%81%AF,%E5%8F%AF%E8%83%BD%E6%80%A7%E3%81%8C%E9%AB%98%E3%81%84%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82


ということでこの新緑の季節、雨上がりの晴れた日に、窓周りや室内にこの羽アリが湧いたらまずシロアリの可能性を疑い、長い特徴的な羽根がポロポロ落ちるようなら、専門業者にご相談を。

一年見逃すと、この有能なスタッフに、あなたの家の床下や柱をごっそりと美味しく頂かれてしまうので。

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