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二本の脚に矢印を重ねて  〜支持基底面と重心位置のはなし ①


介護福祉士養成校の授業で、この話だけはキチンとしなければ、といつも考えている内容が、これ。


ここさえ覚えてもらえれば、どのような手すりがどこに必要か自分で考えられるので、自分の授業の内容は8割はわかったも同じ、とまで豪語している。
国家試験対策を考えると、本当はそんなことはないのだが、実務ではそれだけの重みのある話だし、それほど重要な概念であると伝えたいのだ。

転倒防止のために手すりつけましょ、と言っているあなた、なぜそれが転倒防止につながるのか、ちゃんと利用者さんに説明できるだろうか?



自分はよく

「手すりを使うことは、脚が一本増えるのと同じ」

と説明している。
それを、シリーズもので書いてみる。




地球の重力圏の全てのものは、地球の引力に引かれていることは、富野由悠季のアニメにやられた世代の皆様に限らずご存じのことと思う。
魂を引かれているかは人によります。

引力を打ち消すために、その向きとは反対の力を貰わないと、我々は引力に引かれ続ける。
そのままなら無駄死にである(しつこい)。



では、そのとき我々は誰に助けを求めているのか。



いや、自力でなんとかしているのだ。

そこで、我々は自らの足の裏を使い、地表面からその引力の反対向きの、反力をもらうのである。ちなみに建物の床も、そこと接続して擬似的な地表になる。

その、我々が反力をもらう面を接地面と呼ぶ。


他方、われわれは質量を持つ物体であるから、その中心も割り出せる。これはおおよそ、高さ方向で身長の55%(女性の方が低めらしい)くらいになる。また前後左右の位置は姿勢によって変わる。
その重心からまっすぐ垂線を引き、地表と交わった点のことを便宜上、重心位置と呼ぶことにする。

これ、わかる人にはわかりやすい例がひとつある。



一昔前の家庭用ゲーム機に、ニンテンドーのWiiというのがあった。当時からあの会社は、ゲーム機をフィットネスに活かすことに熱心で、あの時に満を持して市場に投入したのがこれである。

2007年12月発売か、もう16年以上前とは。

これ、ソフトと一緒に、白いまな板バランスWiiボードという、体重計のようなものがついてくる。
それで、毎回使うときに体重測定されるのだが、そのたびに、あの弁当箱状の機械ごときに、残念なBMIやら、身体のバランスを告知されたりした方もいらっしゃるのではないか。

「あなたは右重心です」とか、そういうのである。ではどうしろと、という気持ちで一杯になる。

でもあのとき、モニター画面に、あなたの重心位置がしっかり表示されていたはずである。なのでアレをやったことのある人なら、重心位置は直感的に理解できるはず。

ちなみにこの手のやつ、残念なことに自分は3日も続かない勢である。リングフィットは2日だったと思う。


話を戻そう。

そして、接地面の形状もポイントになる。二足歩行であれば、静止中の接地面は足の裏ふたつ。 この範囲に分散して、あなたの体重がかかり、足の裏から引力と反対向きの反力をもらっている。


そして、そのつま先同士、かかと同士を結ぶ線を考えて、それらと足裏の外側、外周線がつくる面を考える。これを支持基底面と呼ぶ。


たまに介護のテキスト類を見ると、これを支持基底面積と書いてある。だが面積は物理量の意味なので本来は数値である。ここは形状に意味があるので、支持基底面という言葉を使う。支持基底面の面積=ほにゃららcm2、みたいな関係性ですね。以上、理系っぽいツッコミ終わり。




ようやく材料の仕分けができた。
そして、覚える基本法則はひとつだけ。

「重心位置が支持基底面の内側にあるとき、人は安定している」


これだけである。
逆の言い方をすると、


「重心位置が支持基底面を外れるとき、人は転ぶ」


となる。

この理屈、シンプルすぎて大変に好ましい。イノシシ年生まれの単純な自分が、この仕事を続けられるわけだ。
とりあえず、今日はここまで。でもすごい重要なところですここ。

次回は、むかしの学校の朝礼を例に、その概念の使い方を書く。


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