てすり屋のひとりごと 橋本 洋一郎(合同会社 湘南改造家)

湘南地域で住まいを身体に合わせる仕事をしています。 これまで20年、2500件の仕事を…

てすり屋のひとりごと 橋本 洋一郎(合同会社 湘南改造家)

湘南地域で住まいを身体に合わせる仕事をしています。 これまで20年、2500件の仕事を通して学んだこと、感じたことをアウトプットしていきます。 皆様が住みたい場所に住み続けるための、暮らしのヒントを転がすことができたなら幸いです。 mail@shonan-kaizoya.com

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最近の記事

ベッドと照明のスイッチ ~ドイツ将校的な、怠け者の真骨頂

ベッドに入って、電気を消そうとするとき、皆さんはこれまでの人生でどんな工夫をしてきただろうか。 たとえば、天井にぶら下がる引き紐付きのペンダント照明なら、布団から出ないで操作できるように、紐をながーく延ばしてガチャガチャやってみたりしたのではないだろうか。輪ゴムをつなげたやつなんかでやると、離したときに勢い余って先端のオモリがサークル蛍光灯にバチーンとあたって肝を冷やしたり。 同意された皆さん、たぶんアラなんとかと呼ばれる世代より上だと思いますが、親近感しかありません。

    • 死刑台のボタンと人々のしごと 〜責任の希薄化のくふう

      たまには毒のあるタイトルと、毒のある内容で。 命を奪う責任の分散 先日のニュースで、大阪拘置所の死刑執行ボタンが5つあることを知った。てっきりそれは3つだと思っていたので調べたら、新しい拘置所だと3つ、古いと5つなのだという。 それ以前は、刑場の横にあるレバー(誰ひとりボタンを押せない状況に備え、今も残されているそうだが)を倒す仕組みだったそうで、その責任の重さから少しでも刑務官を解放するために考えられた装置だと思われる。 その責任とボタンの個数nの関係を考えていたら、

      • 低きスロープの悩み 〜使いどころと介護保険の扱いについて

        前回、支持基底面が最大になる歩行こそ摺り足歩行であるというテーマで、それをあえて増やす方向性をお勧めしてみたのだが、それには、そのための環境を整えることが前提となる。 そんな時によく使われているのが、我々が敷居スロープとか段差スロープとか呼ぶ製品である。要するに斜めの板だ。 それを、段差となる敷居の手前にくっつければ、つま先は引っかからないから転ぶことも減るだろう、そういう思惑である。めでたし、めでたし。 甘い。 これはスロープなのだ。平面ではなく傾斜路、斜めなのだ。と

        • 摺り足はやめてをやめてみる 〜支持基底面と重心位置のはなし ⑤

          「摺り足は転ぶからやめましょうね〜」 介護に携わる皆様、利用者さんにそうお伝えしたことはないだろうか。 だってつまづいて転ぶから、というご意見、もっともなのだ。なのだ、が。 支持基底面と重心位置の概念を知っている勢としては、そこでどう考えるかをやはり大切にしたいのである。 そう、「摺り足の支持基底面」を考えることが必要だと思うのだ。 こちらの利用者さんで、膝関節症の手術の結果がいまいちで痛みが取れず、小幅の摺り足歩行で在宅生活を送られている方がいる。 膝痛など、今も

        ベッドと照明のスイッチ ~ドイツ将校的な、怠け者の真骨頂

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        • 身体に合わせた住環境整備、そのための理論
          26本
        • 身体に合わせた住環境整備、施工のもろもろ
          21本
        • 湘南改造家とその周辺
          11本

        記事

          すべての人の移動を楽しくスマートにする ~近距離モビリティWHILLのはなし

          出会いは、2015年の国際福祉機器展(HCR)だったか。 WHILL Model A https://whill.inc/jp/wp-content/themes/whill-jp/pdf/whill_model_a_catalog.pdf 明らかに他の電動車いすと異なる、ガチのデザイナーが手掛けていることがひと目見てわかるそれを見た時、またデザイン優先のカッコイイ系のものが出来たかな、と一瞬思ったことを告白せざるを得ない。モーターショーにおける、コンセプトカーみたいな

          すべての人の移動を楽しくスマートにする ~近距離モビリティWHILLのはなし

          柔らかくて硬い床、「ころやわ」 〜新しいモノ、試します ①

          この高齢・障害者向け住環境整備の世界、いろいろな新製品が出ては消えていったりしているわけですが、さりとて中には見逃すには惜しい、これはウチの知識の引き出しに入れる可能性あるぞ?みたいなモノも出てきます。 そんな、 キラッと光るものをお取り寄せしてレビューしてみよう! のコーナーです。 記念すべき第一回はこちら。先日介護用の通信機器マガジンをご紹介させていただいた、やおらじボラちゃんさんピックアップの、転倒時の衝撃を緩和しつつ、通常利用時の沈み込み抑制を両立した、とされる

          柔らかくて硬い床、「ころやわ」 〜新しいモノ、試します ①

          原因を掘らない、良い結果の欠片を探す 〜解決志向アプローチ(SFA)の話

          自分が介護の学校で話すときには、医療出身の人と、介護畑の人の価値観の違いについて話すようにしている。 これは、自分が利用者さんの家屋調査の際に、理学療法士さんなどの医療職と異なる意見となることがあるが、その理由がわかっていると、その意見に対する理解度も上がるし、その後の判断にも奥行きが出るよな、と思っているからだ。 そして、彼らが介護職としてプロになったときに同じような経験をしても、この見解の違いは医療と介護の価値観の違いから生まれているのだということが理解できるようにな

          原因を掘らない、良い結果の欠片を探す 〜解決志向アプローチ(SFA)の話

          ヤブからヘビ呼ぶ養生グッズ 〜やらかしの記録 ④

          我が社では手すり付けの際に大活躍するポリマスカーをはじめ、最近は台風の時など、建築業界の外側でも当たり前に使われるようになった養生一族。こう書くと剣豪みたいで格好いい。 パイオランテープ(緑のやつ)やポリマスカー(テープ付きのポリエチレンシート)、ここには写ってないが床養生板などを主戦力とする彼らのおかげで、現場をきれいに保つことが容易になり、施工時間、特に片付けタイムの大幅な短縮につながっている。 生産性という言葉はあまり好きではないが、リフォーム系建築現場のそれを引き上

          ヤブからヘビ呼ぶ養生グッズ 〜やらかしの記録 ④

          炬燵を埋めたらまだやれる ~掘りごたつ改修とベッドまわりのレイアウト

          この仕事をしていると、訪問先でちょっとしたミラクルに出会うことが時折あるが、このケースもそれかもしれない。 ただ、その奇跡が結果的にその後の展開を難しくしていた、そんなときに外からの人間がどう関わるか、という話でもある。 トップ画像、パッと見はベッドとその横の四角いテーブルであり、ベッドの端に座った端座位からの立ち上がりにも良いんじゃないかなこれ、程度の認識だった。しかしよく見ると、 なんということでしょう。テーブルの下には掘り炬燵のやぐらが、誂えたかのようにぴったりと嵌

          炬燵を埋めたらまだやれる ~掘りごたつ改修とベッドまわりのレイアウト

          ココロに効く見守りカメラ 〜ねこ様と人間教育 ②

          元子猫が見つかった。そして確保された。 読んでいただいている皆様、ご心配をおかけ致しました。 実はこちらも待つことをしながらも、打てる手は打ってきた。 これを導入したのだ。 何か動きがあると撮影してくれる、赤外線機能つきのカメラロボが密林からやってきたのだ。だいたい6000円くらい、通信機能はなくてマイクロSDカードに記録する、単三電池4本で稼働するタイプだ。 そして玄関横の台には、かつてあの元子猫が「じぶんのおうちだー」と親しんでいたケージを雨が降らない限り置くこと

          ココロに効く見守りカメラ 〜ねこ様と人間教育 ②

          フリーハンド図の救いの神 ~改造家ツール ピックアップ ①

          こちらが請け負う手すりの工事は、ほとんどが介護保険を利用するものである。 そのための介護保険担当課への申請手続きには、必要な書類が多々あるのだが、その中でも、手間をかけるつもりならいくらでもかけられるのが、その手すり等の位置を示した図面である。 法律では添付を定められているわけではないが、手すり等をどのような理由で付けるかの理由を書かなくてはいけない以上、移動動線を明示するために、図面はほぼ必須となる。 この仕事がまだ軌道に乗る前、他の設計事務所の手伝いなどと兼業でやっ

          フリーハンド図の救いの神 ~改造家ツール ピックアップ ①

          スキマじゃないのよ遊びは 〜材料の公差と施工のくふう

          実は、日本における室内用の木製手すりの材料は、各社ある程度サイズ感が揃っている。太さは直径35mmを中心に、あとは32mmの選択肢があるかどうか。 これは、一般社団法人 ベターリビング協会が優良住宅部品認定基準の中に歩行・動作補助手すりの基準を定めていることと関連している、と聞いたことがある。 以前は直径45mmの丸棒の手すりが、階段にそっけなく付けてあったりしたのだが、あれは金具間の距離を飛ばすのに十分な強度があったので、特に柱間1間(おおよそ畳1枚の縦の長さ)を飛ばさ

          スキマじゃないのよ遊びは 〜材料の公差と施工のくふう

          教授の矜持、山本理顕 〜突撃、例の建築家の手すり ②

          教授について まずは、「教授」について書く。 坂本龍一が、神宮外苑の開発に対して立ち止まれという、遺言を残して旅立たれた時、ああこの方はやはり清志郎の友達だなあ、と思った。 自分がリアルタイムで映像として知っている教授は、ダウンタウンのハマタに仏頂面でシャープペンシルの尻の消しゴムを投げつけたりしている、シニカルかつコミカルな姿なのだが。 彼らの共作である「いけないルージュマジック」は幼い頃に聞いたような記憶はあった。ただ、YMOにはそこまで興味を持たずに生きてきたの

          教授の矜持、山本理顕 〜突撃、例の建築家の手すり ②

          踏み込む前にアゲる 〜車いす転回部と敷居段差の話

          こなれた技術として確立しているかに見える、車いすというデバイスだが、実はいまだに克服できない弱点がある。キャスター、すなわち前輪の操舵である。 これは車軸の前に縦の旋回軸を配置して、操作された方向にトレール(追従)するようになっている。主の行く方向に沿ってなすがままの、忠実な僕(しもべ)であり、普段は自己主張に欠けた奴でもある。 ただし、その性質は平地に限る。そして、勾配で奴は突然牙を剥く。奴は主を裏切り、あっさり地球に従う。重力の僕であることを選ぶからだ。 なので、車

          踏み込む前にアゲる 〜車いす転回部と敷居段差の話

          寂しいシンクロニシティ 〜推しシャワーキャリー話の顛末

          半世紀とすこしも生きていれば、大なり小なり、シンクロニシティと呼ばれるものを体験することはある。 もっとも、そのほとんどは赤い糸に関連した、人生の派手なイベントとして起こるわけではない。残念ながら。 今回のそれは、ここの文章が引き寄せた。 準備期間も含め、文章を書き始めて約2ヶ月。この10年くらいお勧めすることがなかった福祉用具を、なぜかその記事をアップしたら、立て続けに2件使うことになりそうな状況にあるのだ。 文章を書く過程でその適合条件がはっきりしたことで、こちらも迷

          寂しいシンクロニシティ 〜推しシャワーキャリー話の顛末

          第一回 【K林製薬記念】 福祉用具ネーミングセンス杯

          先日たまたま福祉用具デモに同席した際、「その名前、分かりやすいわね」という利用者さんの声から思い付きましたるこの企画。 ダジャレはおっさんの心を震わせるだけではなかった、ちゃんと役に立つのだという学びに至り、手元の福祉用具カタログからイカしたネーミングセンスの用具を勝手に表彰してしまうのである。 評価基準はこちら。 1、一度聞いたら忘れなそう 2、名は体を表しているっぽい 3、オリジナリティが感じられなくもない 現在コウジカビの無限の可能性のために苦境に陥っている、あ

          第一回 【K林製薬記念】 福祉用具ネーミングセンス杯