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リングラン叙事詩 第十章 解放されし大地

(ナレーション)

とある世界

とある時代

私たちが知ることのない場所にリングラン島という島がある。

この島には一つの神話があった。
太古の昔。
二つの神による天界の争いがあった。

光の神ヴィシュ。闇の神デーム。

両者の争いは大地を揺るがし、
互いの従える竜による戦いは、
やがて大地を割き、
大きなうねりは山脈を作り、

吐かれる炎が大地を焦がし砂漠となった。

そして双方の神と双方の戦いが終わり、
大地に堕ちた竜の骸を苗床に、
草原は大きな森となった。

そして伝承は続く。

竜の目から生じ散らばった水晶を、神の台座に捧げしとき、

その地はあるべき姿へ回帰せん。

リングランに伝わりし、神話である。

(本編)

(N)ファーランド草原の戦いは反スレイアール全軍が到着し、さらに数日間続いた。多くの兵が疲弊し、負傷者も時間を追うごとに増えていく。戦いはまたしても、少しずつ劣勢となっていった。

ローレイス このままでは指揮命令系統も乱れ、先陣まで情報が届かない。厳しい状況はこの後も続くだろう・・・ここは私自ら戦地に赴き、中央の陣中で指揮を取るしかないな。

(N)そうローレイスがつぶやいた時のことである。

ザンスロン 全く見てられんな。

ローレイス まさか・・・ザンスロン公。怪我はどうされたのですか。まだ戦場に出るには早すぎます。

ザンスロン メルキアへ戻る途中にモーリスタティアの正教会の何名もの司祭が治癒に当たってくれてな。この通り、何も問題はないわ。それにしてもこれだけの軍勢を相手に、ここまで応戦できるとは、さすがローレイス殿。大したものだ。それにスレイアールの騎士団が投降してきたと聞く。おおかたガルハースより引き離された兵たちであろう。よかろう。俺と話をさせろ。

(N)そういうと投降してきたスレイアールの騎士団の代表と思われる人物と話しはじめた。

ザンスロン 委細承知した。なるほど、スレイアールも一枚岩ではないようだ。どおりでガルハースはリーデランドを一気に攻めてこんわけだ。騎士団どもよ、貴様らはこのまま控えていろ。我が軍として戦えば、反スレイアールとの立場になる。投降してきたものを窮地に立たせるわけにはいかん。その代わり。

(N)ザンスロンは荷物の中から両手持ちの大型の剣を取り出した。

ザンスロン まさかこの剣を使うことになるとはな。

ローレイス その剣は・・・

ザンスロン メルキア公が所持していた剣だ。これで魔獣マンティコアを一網打尽したとされている。俺もそれにならって、この剣で大立ち振舞いしてやるわ。

ローレイス ザンスロン公・・・感謝する。

ザンスロン 言葉はいらんから、金を出せ。ははは。

(N)そして戦場へ飛び出していったザンスロン公から、

ザンスロン 我が名はメルキア公国、盟主ザンスロンなり。わが剣の曇りとなりたいものは目の前に出てこい。存分に相手をしてやる。

(N)天を突くような大きな口上は敵軍の前線にいる妖魔を震えがらせた。ザンスロンの戦場での動きは、眼前の妖魔を一瞬で切り捨て、巨人の妖魔であっても臆することなく懐まで迫り切り捨て、その様はまるで鬼神の如くであった。その戦いぶりを見て、味方の兵たちも勇気付けられ、渾身の力を振り絞って敵と相対(あいたい)し、少しずつではあるが、劣勢から回復していった。

ザンスロン スレイアールの力はこんなものか。取るに足らん連中の相手だが、存分に武功をあげよ。相手方の魔法も恐(おそれ)るな。我らの後方には、リングラン最高のモーリスタティアの司祭と魔術兵団がおるのだからな。

(N)風向きが変わったスレイアールの軍勢から妖魔が一体また一体と後方へ逃亡をはじめた。一旦崩れた軍勢は徐々に隊列が乱れ、動揺は後方に向かって進んでいった。相手からの魔法は少しずつ前進したモーリスタティアの魔導師らによって打ち消され、魔法による戦いもおおよそ大勢が決まりはじめていった。それをさらに畳み掛けるように、リーデランド王国の援軍がスレイアール帝国軍の側面から突入したことで、スレイアール帝国軍は壊滅的な状態となった。
北の砦では、ローレイスが逐一戦場の様子を伝え聴き、リーデランド王国からの援軍とザンスロンの活躍を耳にした。

ローレイス リーデランドからの援軍まで・・・何、女王陛下からの伝令?ガルハースからの停戦並びに撤退だと・・・陛下・・・私めの具申を聞き入れていただけるだけでなく、ご自身の危険も考えられる中での援軍の派遣・・・なんと信に厚いお方なのでしょうか・・・これほど陛下にお仕えして幸せを感じることはありません。

(N)ローレイスは伝書を握りしめながら、頬を伝わる涙を拭い、指令を飛ばした。

ローレイス 皆のもの、全軍前進し残りの敵軍を殲滅せよ。そして負傷兵は速やかに戦場から離れ、砦まで戻れ。我が軍の完全勝利も近いぞ。それにしてもザンスロン公の活躍。あれだけの手だれの傭兵を束ねるだけのとこはある。さすがとしか言いようがない。

(N)そうして、ザンスロンが戦地へ赴き、リーデランド王国からの援軍が到着して約半日。スレイアール帝国軍の大半は討ち死にもしくは逃亡により、軍全体が総崩れとなり大勢に決着がついた。大戦が終結したことを確信し、ザンスロンは戦地より北の砦へ帰還した。

ザンスロン 久しぶりに大勢の敵を相手に大立ち回りをした。やはり、俺は戦場に生きてこそ華が咲くのかもしれんな。

ローレイス ザンスロン公、我が軍の大勝利への貢献。心から感謝する。

ザンスロン なにを言うか。スレイアールの大軍相手にここまでの戦さ(いくさ)の指揮。リングラン最高の戦力の陣頭を担っているだけのことはある。まことに天晴れ。アリエンゼスもさぞ喜んでいることであろう。どうだ、ここはもう大丈夫だ。ローレイス殿もリーデランドへ帰還してはいかがか。

ローレイス ザンスロン公・・・貴公の配慮、心から感謝する。

ザンスロン なに、スレイアールの本体はほぼ壊滅状態。リーデランドの騎士団・戦士団も故郷に帰り、勝利の美酒を酔いしれさせてやれ。まだ動けんものは、モーリスタティアの司祭が治癒に当たるだろうて。それに、回復の折りには、我が軍を護衛に祖国へ帰還する手助けもしよう。動けるものから帰還の準備をさせてやれ。

ローレイス わかった。この恩、このローレイス決して忘れはしない。では、リーデランド王国のものに告ぐ。全軍、祖国へ帰還する。負傷者は後ほどメルキアの兵と共に祖国へ帰還しろ。私は負傷者と共にリーデランドへ帰還する。治癒に当たってくれるモーリスタティアの司祭殿。くれぐれもよろしく頼む。

ザンスロン 我先に帰りたいところだろうに。あの女王とこの臣下。もしやリングランで最高の主従関係かもしれんな。俺もそんな臣下を持ってみたいものだ。ははは。

(N)こうして、ファーランド草原における大戦が終わりをつげた。大戦が終わりを告げた頃、デムニアの王城ではアルフレッド一行が王城の内部にある狭い回廊に辿りついた。

アルフレッド ここなら少数の兵士しか一度に進むことができないな。

カーン そうだな。アルフレッド、先鋒できるか。

アルフレッド ああ、鍛えてくれた成果を出してみせる。

ヴァイス それでは、私はそのすぐ後方に控えます。

ルークス アルフレッド、ヴァイス、よろしくお願いします。

カーン アルフレッド、油断はするなよ。

ギリアム 背後にはワシらがおる。気にせず励めよ。

(N)一行が回廊で待っていると、捜索中の数名のデムニア兵がやったきた。通路は狭く剣を振るのもやっとであるため、1人ずつしか向かってくることができず、それを迎え打つためにアルフレッドはロングソードからショートソードに持ち替え、ヴァイスに声をかけた。

アルフレッド 先頭の兵はどうだ!

ヴァイス 闇の力を感じます。デーム神の信徒で間違いありません。

アルフレッド ここで切り捨てることは難しい。峰打ちする。

(N)アルフレッドはそういうと、迫り来るデムニア兵の剣を払いのけ、剣の柄(つか)の部分をデムニア兵のアゴを目掛けて振り下ろした。アゴに一撃を受けたデムニア兵は脳震盪を起こしたように気を失い、その場に倒れた。

アルフレッド 手加減はしない。次の相手はだれだ!

(N)アルフレッドがそういうと怯(ひる)むデムニア兵を見て、

ヴァイス アルフレッド!残りの兵はヴィシュの加護の力をわずかに感じます。

アルフレッド そうか、わかった。あなた方はこのスレイアールの皇帝に対して、疑念を抱いてはいないのか。もし疑念を抱いているのなら、私たちの話を聞いてくれ。

(N)アルフレッドが静かに語りかけるとデムニア兵の1人が、自分たちはこの国の農家の出身で、無理やり徴兵された身。もし可能なら早く家族の待つ家に戻りたいと語り始めた。

アルフレッド 私たちはこの国の元凶を断ちたい。出来れば私たちを捕らえたふりをして、このまま皇帝の元へ連れて行ってくれないか。頼む。

ヴァイス あなた方がヴィシュ神を信仰していることは、私にもわかります。どうかお願いできませんか。

(N)アルフレッドとヴァイスがそういうと、デムニア兵は困惑しながらも状況を理解しうなづいた。

ルークス このままでは、囚われたようには見えません。あなたの持つ手錠を私たちにはめてください。そうして連れて行っていただかないとあなた方の身が危険です。

(N)デムニア兵は礼をいいながらアルフレッドたちに手錠をかけ、皇帝の間へと連れて行った。

カーン さて、どうなることやら。

ギリアム おい、他人事のようにほざくな。お主が考えたことであろうが。

カーン もちろんだ。早く皇帝とやらのアホヅラを見てやりたいと思ってな。そうカリカリするな。

ギリアム 結局は礼儀も知らんやつだな、お主。

カーン 何とでもいえ。

(N)一方、リーデランド侵攻を停戦したガルハースは兵団を率いて要塞都市バアルを抜け、本国デムニアへと帰還の途にあった。

ガルハース 真の敵・・・そのようなものであれば奴しかおらん。サルーデンめ・・・数々の策謀による陛下への狼藉、絶対に許すわけにはいかん。皆のものすまない、帰還を急ぐ。歩兵は、途中でしっかり休憩を取れ。歩みを止めてもかまわん。騎兵はそのまま急げ。すまんなベルデモート、お前にも負担をかけることを許せ。

(N)そう愛馬に声をかけると、しっかりと手綱を握りしめた。スレイアール帝国軍の騎兵はガルハースの後をしっかりと追いかけ、帰還をより一層早めた。

(N)そしてフシラズの森への侵攻に失敗をしたサルーデンもまた馬を走らせ、デムニアを目指していた。

サルーデン デムニアに戻り、より強大な古代魔法を持ってして、再度フシラズの森を焼き払う。古代の竜の骸が眠りし場所は間違いなくあのエルフどもも分かっているはずだ。何としてでも復活を果たす。そのためにはこのまま引き下がることになろうとは・・・忌々しいエルフどもめ。

(N)同じ頃、フシラズの森を抜けデムニアに向かうフィーナの姿があった。

フィーナ 長老は自ら考えろと仰っていた。であれば、私ができることはデムニアに戻っているはずのあの魔導士を倒すこと。これ以上、上位の精霊の力を借りることはあまりにも辛いこと。でもそれが私の進むべき道。

(N)風の精霊シルフの力を借り、フシラズの森を抜けたフィーナはさらにその歩みを早め、デムニアへ向かった。

(N)様々な思いを持ったものたちがデムニアに向かって進んでいるころ、アルフレッド一行はスレイアール帝国皇帝の間へと連れて行かれていた。

ザジウルハス ほう、貴様たちがモーリスタティアからのネズミどもか。このスレイアール帝国をどうことできると考えるなど、全くもって愉快だ。余を楽しませた貴様たちには、相応の褒美を与える。この帝国の国民にも、娯楽を与える必要がある。貴様たちには、その命を持って民を愉しませる褒美を与える。刑の執行は一週間後。王城の前の広場にて。この者たちの逃亡に手を貸した女ともども、火炙り(ひあぶり)の刑で苦しみ抜く姿をみせよ。余も王城より楽しませてもらうぞ。

(N)そうして、アルフレッド一行は王の側近の衛兵により、再度牢に閉じ込められることとなった。

ギリアム カーンよ。コレでは何も解決するどころかむしろ状況が悪化しているではないか、貴様コレをどうするつもりだ

アルフレッド このままでは、何もできないままむざむざと散ることになる・・・

ルークス カーン。流石ですね。

ギリアム おい!お主も何を言っておる!

カーン コレだから頭の悪いドワーフはタチが悪い。

ギリアム 何だと!

ヴァイス ルークス、どういうことですか。

アルフレッド カーン、ルークス・・・何を考えているんだ・・・

ルークス カーンは私たちを王城から出すことを目的にしているのです。この王城ではスレイアールの者たちに効果を及ぼす十分な広範囲効果のある魔術は使えません。そして、剣術も地の利がなさすぎます。そうですよね、カーン。

カーン ああ、そうだ。この王城の中では、俺たちは何の身動きを取ることができん。だから、まずは王城から外に出ることが必要だ。その時に力の強い魔法が役にたつ。剣術もしかりだ。それが何か。

アルフレッド すべてはここから外に出るためのことだったのか。

カーン ああそうだ。ここまで何も言わなかったのは、人を欺くにはまず味方からというだろうが。

(N)そして、処刑執行の日を迎えた。

ザジウルハス デムニアの民よ。本日は皆のものに余興を用意した。我が帝国に迷い込んだネズミどもに刑を処す。存分に楽しむが良い。

(N)ザジウルハスが側近に目を配らせると、すぐさまその指令は牢の門番のもとに伝わった。門番はアルフレッド一行を蹴り出すように牢から出すと、牢に来た衛兵によって王城の外へ連れ出された。

カーン ようやく外に出られたか。久しぶりの外の空気はスレイアールであっても美味いな。

(N)衛兵はカーンを殴りつけ、黙るように怒鳴りつけた。広場には大きな木製の柱と薪が用意されており、火炙りのための大きな松明(松明)が激しい勢いで燃えていた。一行が広場まで連れ出された時である。

カーン ヴァイス、今だ。

ヴァイス 主たる神ヴィシュに祈ります。この者に我らの解放を!

(N)ヴァイスが詠唱を唱えると、ヴァイスを連れ出している衛兵の顔が苦痛に歪み始めた。そして周囲の衛兵の静止を振り切り、一行の束縛の縄を緩め始めた。

ヴァイス 皆さん、目を閉じてください。主たる神ヴィシユに祈ります。聖なる光をと灯したまえ

(N)詠唱により、ヴァイスの周囲に大きな光の空間が生じ、その光を直接見た衛兵たちがあまりの眩しさに視力を失った。こうして一行は束縛から解放され、晴れて王城から解放された。

(N)この作戦は、昨夜に話し合われたものである。

カーン これで一旦は城の外に出ることができる。さてどうやって衛兵の手から逃げるかだ。

ヴァイス 私から一つ提案があります。

アルフレッド 提案・・・?

ヴァイス 私が使う祈りの魔法に、人へ行動を強制させるものがあります。本来であれば、そのような魔法を使うべきではないのですが、私に触れている衛兵に私たちの縛りを解くよう強制させるのです。

ルークス それは呪詛(じゅそ)の魔法ですか。

(N)呪詛の魔法。それは呪いの魔法ともよばれ、司祭にとっては禁忌とされる魔法である。

ヴァイス はい。このような状況であれば、禁呪といえども使用しなければならないでしょう。

ギリアム 今までもその魔法とやらを使うことはできたのではないか。であれば、探索の兵士どもにかければよかったではないか。

ヴァイス それが今まではできなかったのです。

ギリアム やらなかったの間違いではないのか?

アルフレッド ギリアム、ヴァイスをそう責めるな。

ヴァイス できなかったというのは、その魔法をかけるには、相手に触れなければできません。これまでの戦いで相手に触れることはできませんでした。

カーン 確かにな。

ヴァイス ですが、今回私を連れ出す衛兵に触れることは十分可能です。ですから、相手の隙を見て強制の魔法を。そして縛りを解き始めた際に、強力な光の魔法を唱えます。それすれば、私たちは束縛から解放されます。その際に敵の装備を奪いましょう。

ギリアム なるほどな。きつく当たってすまなかった。しかし、万が一失敗すればお主が最も危険に晒されるぞ。

ヴァイス いえ、お気になさらず。これは私の使命です。

アルフレッド ヴァイス・・・感謝する。それでは頼んだぞ。

ヴァイス はい。

(N)周囲を囲んでいた衛兵の中に回廊で出会った衛兵がおり、彼はこれで私たちを救って欲しいとアルフレッド一行の装備を渡して来た。その中には持ち出した魔法書も携えていることから明らかに体力の限界がきていることを滝のような汗を流す衛兵の姿でルークスは理解した。そしてすがるように手渡すと、それを見た別の衛兵により彼は切り捨てられた。

カーン アルフレッド!多勢に無勢とならんよう、せいぜい頑張れよ。

アルフレッド 鍛錬の成果をここで発揮する。そして恩ある方の仇、しっかりと取らせていただく!

(N)衛兵たちとの戦いが始まると、それを頭上から見ていたザジウルハスが側近を怒鳴りつけた。

ザジウルハス 一体どうなっておるのだ!魔導士たちは何をしておる!衛兵だけではなく、妖魔どもも放て!一人たりとも逃すな!

(N)そうして、妖魔の軍勢が広場に向かってきた時のことである。広場の後方から、アルフレッド一行が、かつて聞いたことのある声が聞こえてきた。

フィーナ 火の精霊エフリート、あなたの力を私に貸して

(N)フィーナがその名を呼ぶと、松明の火が少しずつその大きさを増していった。やがて大きな灼熱の炎の嵐が妖魔の軍勢を巻き込んでいった。炎に焼かれた妖魔の叫びがこだますると、衛兵も戦意を失っていき、一人また一人と剣を手放していった。魔導士たちが精霊力を封じる魔法を用いても、荒れ狂う炎の嵐には意味をなさなかった。

第十章 完

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