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リングラン叙事詩 第三章 フシラズの森の精霊使い 台本

(ナレーション)
とある世界
とある時代
私たちが知ることのない場所にリングラン島という島がある。
この島には一つの神話があった。

太古の昔。
二つの神による天界の争いがあった。
光の神ヴィシュ。闇の神デーム。
両者の争いは大地を揺るがし、
互いの従える竜による戦いは、やがて大地を割き、
大きなうねりは山脈を作り、
吐かれる炎が大地を焦がし砂漠となった。
そして双方の神と双方の戦いが終わり、
大地に堕ちた竜の骸を苗床に、草原は大きな森となった。

そして伝承は続く。
竜の目から生じ散らばった水晶を、神の台座に捧げしとき、
その地はあるべき姿へ回帰せん。

リングランに伝わりし、神話である。

クルードを出発したアルフレッド一行は、再度フシラズの森へと到着した。

ギリアム   森の入り口近くの妖魔どもを倒したので、しばらくはこのまま森を進めるだろう。
アルフレッド ギリアム、どの程度で森を抜けることができそうかわかりそうか。
ギリアム   わしにもわからん。特に森の深部にはエルフの里があるわけだから、なるべく近寄らずに進んでいく方が良いな。
カーン    エルフの里か。ザスアルの民も何人も行方不明になったわけだし、近寄らずに済ませたいもんだ。
アルフレッド では、先に進むぞ。ん、どうしたルークス。
ルークス   いえ、先ほどから何か気配を感じる気がしただけです。気のせいだと思います。
ギリアム   案外エルフどもに監視されておるかもしれんな。
ヴァイス   まだ、森に入ったばかりですが気をつけた方が良いでしょうね。

アルフレッド一行が数日の宿営を終え、森を先へと進んだ時のことである。

ギリアム   ちょっとまて。この辺りに精霊の力を感じる。結界が近いかしれん。
アルフレッド では、迂回して進ん方がいいな。
ギリアム   いや待て。結界がさらに近づいてきている。
ルークス   もしかすると、結界が広がっているかもしれません。
カーン    それでは身動きが取れないじゃないか。どうする。
アルフレッド 一旦引き返して、様子をみよう。
ギリアム   もう手遅れのようじゃな。もう目の前まで結界が近づいておる。迫る速さから逃れられるとは思えん。
カーン    ならどうすればいいんだ。
ギリアム   向こうから結界が広がっているのならば、一旦歩みを止めればエルフどもの警戒も落ち着くだろう。
カーン    それは確かなのか。
ギリアム   わしにわかるわけがなかろう。わしがわかるのは結界の気配を感じられるだけじゃ。
カーン    なんだ、役に立たんな。
アルフレッド カーンよせ。
ギリアム   一言言いたいところだが、あまり奴らを刺激するようなことはせん方がいい。
ルークス   私にも警戒の気配が感じられます。ギリアムの仰る通りでしょうね。
ヴァイス   では、このままやり過ごした方が良いのでは。

そのときである。森の奥から女性の声が聞こえてきた。

フィーナ   ここはあなた達が立ち入るような場所ではありません。直ちにこの場所から立ち去りなさい。
アルフレッド 大変申し訳ない。すぐに立ち去る。
フィーナ   では今すぐ引き返し、森を出ていきなさい。
アルフレッド それでは森を抜けることができないんだ。あなたたちの結界を避けていくので、どうか先に進ませていただけないか。
フィーナ   なりません。すぐに引き返しなさい。
アルフレッド 無理を承知で頼む。我々は森を抜けてバアルまでいかなければならないんだ。
フィーナ   バアル・・・なぜです。
アルフレッド 我々はモーリスタティア王国より来た。スレイアールを討伐するためにバアルまでいかなければならないんだ。
フィーナ   スレイアール・・・あの無礼なものたちですか。
アルフレッド ああ、奴らはこの森を穢(けが)している。その討伐のためにどうか通していただけないか。
フィーナ   そのまま待っていなさい。
アルフレッド 承知した。
ギリアム   気配が消えたな。やはり高慢なエルフというものは好きになれん。
カーン    気配が消えたのなら先に進んでしまえばいい。
ルークス   いえ、ここは約束どおり待っていましょう。信頼されることが大切です。
カーン    やれやれ。面倒だ。
ヴァイス   待っていなさいということは、このまま通してくれるかもしれないですね。

一行はしばらく待っていたが、いつまでも先ほどの声の主は戻ってこなかった。

カーン    全くいつまで待っていればいいんだ。
ルークス   お気持ちはわかりますが、もう少し待ちましょう。
カーン    そうだとしても遅すぎやしないか。
ギリアム   わしも気が短い方だが、お主はもう少し我慢を覚えた方がいい。
カーン    余計なお世話だ。貴様にとやかく言われる筋合いはないぞ。
ヴァイス   あ、向こうから誰か来ます。

一行がこちらに向かってくる人物に目を向けると、そこには清廉な身なりの女性が歩いてきた。
透き通るような綺麗な髪に、先の尖った耳を持ったその女性が、まさに先ほどの声の持ち主だった。

フィーナ   私の名前はフィーナ。このエルフの里の者です。長老より伝言があります。「案内に従い、速やかに森を出ていくように」とのこと。私としてはあなた方と行動を共にするのは、大変不本意ではありますが、森の出口まで案内します。大人しくついてきなさい。

そういうとフィーナは一行の前を足早に進み始めた。あまりの態度の冷たさにギリアムを除く物は皆、呆気にとられていた。

アルフレッド すまない。教えて欲しいことがあるんだが。
フィーナ   何か。
アルフレッド エルフの里に入ったものはどうなるんだ。
フィーナ   なぜそれに答えなければならないのですか。
アルフレッド 今まで大勢の人が森から帰ってこなかったと聞くが。
フィーナ   私たちのせいとでも。そもそもエルフの里の結界の中にはエルフ以外のものは入ることはできません。それ以上のことは話す必要もないです。それに今はそのような話をしている暇はありません。
カーン    しかし、現に帰ってこないものが大勢いる。なぜだ。
ルークス   カーン、落ち着いてください。きっとそれは本当のことなのだと思います。それに。
カーン    黙ってられるか。自分の部下も何人も帰ってこなかったんだぞ。
ギリアム   なるほど、大体事情は掴めた。
ヴァイス   なにがですか。
ギリアム   おおかたエルフの里の結界に触れることで方向感覚が鈍ってくるのだろう。そして来た道を戻ることができずに森の中を彷徨うことになる。そしてここは妖魔が多く棲みついている。おおかた妖魔どもに襲われたのであろう。それに、そのエルフの小娘が言うように今はそんなことを話している暇はなさそうだ。
ルークス   そうですね。
アルフレッド どうしたんだ。みんな。
フィーナ   静かに。妖魔の足音が聞こえて来ます。おそらく。
ギリアム   うむ。森の巨人オーガーじゃな。何体かいるようだ。
カーン    もしや。そいつらが森に入ったものを。
ギリアム   それはわからんが、足音が近くなってきている。
カーン    だとしたら、許すわけにはいかん!
ギリアム   バカもの!早まるな!貴様一人でなんとかなる奴らではないぞ。えーい、仕方がない。皆も行くぞ。エルフの小娘、お前はどうする。
フィーナ   私には関係のないこと。
ギリアム   声をかけたわしがバカだったわい。

一行がカーンを追いかけていくと、目の前にはゆうに2mは超えるであろう巨人の妖魔オーガーの姿があった。

ルークス   カーン!一旦引いてください。「マナよ、雷の力を解放せよ!」

ルークスが詠唱を唱えるとルークスの前方に生じた稲妻が
オーガーに向けて走った。
一体のオーガーの悲鳴が聞こえたがルークスの2回目の詠唱は間に合わず、もう一体がこちらに向けて進んできた。

カーン    痛手を負ったオーガーは引き受ける。皆はそちらを頼む。
アルフレッド 承知した。
ヴァイス   「主たるヴィシュに祈ります。空間に波動を」

ヴァイスが詠唱を唱えると、もう一体のオーガーに衝撃波が直撃し一瞬の怯(ひる)みの隙をついて、アルフレッドの剣とギリアムの斧がオーガーを切りつけた。オーガーは膝をついて倒れ、加えての攻撃が致命傷を与えた。

カーン    ええい、覚悟しろ。

カーンはそう言いながらオーガーに突撃していった。その時、遥か後方から、

フィーナ   森の妖精お願い。その力を貸して

という声が聞こえた。フィーナが妖精に声をかけると周辺のくさきがオーガーの手足に絡みつき、その動きを止めた。

カーン    何。なんだかわからんがありがたい。これで終わりだ。

カーンが剣を振り下ろすとオーガーに致命傷を与え、オーガーはその場に倒れこみ動かなくなった。

カーン    フィーナと言ったな。感謝する。
フィーナ   これ以上、森の中で暴れて欲しくなかっただけ。別に貴方のためなんかじゃないわ。
アルフレッド 理由はどうあれ助かったよ。ありがとう。

それ以上はフィーナは何も言わずに森を先に進みはじめた。

ギリアム   ふん、これだからエルフの連中はいけ好かん。
ルークス   ギリアム。ああした態度でありながら手を貸してくれたことは確かですよ。
ギリアム   ふん。
ヴァイス   そうですよ。私は精霊魔法を見たのは初めてです。
ルークス   そうですね。滅多に見られるものではありませんから。
アルフレッド 精霊魔法?
ルークス   そう。エルフなどが使える自然の力を借りる魔法です。私は魔力の源であるマナの力を使った古代語魔法、ヴァイスは神の力をお借りする魔法です。
カーン    まぁなんにせよ。そんなに悪い奴ではないようだな。
フィーナ   何か。
カーン    いやなんでもない。
アルフレッド あれだけの力なんとか力を貸して欲しいところだが。
ギリアム   いや、無理じゃろう。全くこちらを気にもかけていないようじゃ。
アルフレッド フィーナさん。もし良かったらその力を俺たちに貸してはくれないだろうか。
フィーナ   力を貸す?
アルフレッド ああ、森を出た後でバアルまでの道のりだけで構わない。俺たちと一緒に行ってはくれないか。
フィーナ   私はあなた方を森から追い出すことを長老に頼まれただけ。森を出ることもあなた達に手を貸すつもりもないわ。
アルフレッド そうか・・・。残念だが仕方ないな。そうだ。もしまた森を抜けることがあったら、その時はまた力を貸してはくれないか。
フィーナ   また森へ?
アルフレッド ああ、バアルに行った後、またこの森を抜けていきたい。
フィーナ   長老がなんとおっしゃるかはわからないけれど、私としては願い下げね。この森にはもう近づかないで。
アルフレッド そうか・・・余計なことを言って申し訳ない。

一行が歩き続けると、その先の眩しい明かりが見えてきた。

カーン    まだそれほど時間が経っていないのにもう森を抜けたのか。
フィーナ   そう。風の精霊シルフの力を借りて、歩みを早くしただけ。これで案内はお終い。さっきも行ったけれど、もうここには近づかないで。
ルークス   さすが、精霊の力を自然に借りる力はとても素晴らしい。私からもお願いしたいくらいだ。
ヴァイス   私からもお願いしたいです。
フィーナ   そのつもりは微塵もないわ。さあ、はやく森から出ていって頂戴。

一行が森を抜けると、フィーナは踵を返し、そのまま森へ消えていった。

アルフレッド 精霊の力を借りることができないのは残念だが、想像以上に早く森を抜けることができた。これでバアルまであと少しだな。
カーン    ああ、久しぶりに故郷に帰ってきた。
ギリアム   わしもじゃ。
カーン    さて、ここからの案内はおれがしてやる。バアルまでの道のりなら一番俺が詳しいだろう。
ギリアム   ずいぶんな自惚れだな。
カーン    なんだ。何が言いたい。
ギリアム   忘れたか。わしもここの出だ。わしも道案内くらいは簡単だが、お主、傭兵の割によく働くな。感心する。
カーン    ならお前がやればよかろう。
ルークス   お二人とも、そのくらいで。案内をいただける方がいるのは本当に嬉しい限りです。
ヴァイス   そうですね。私たちはこの周辺には全く明るくないですから、本当に助かります。
アルフレッド では。カーン、ギリアム頼んだ。

そうして一行がバアルに向けて歩き始めた時、後ろから馬の嘶きが聞こえてきた。

ギリアム   貴様は・・・
ガルハース  貴様らか、モーリスタティアからの偵察者とは。そこにいるのがザスアルの聖騎士団の長か。傭兵になっているとは、随分とおちぶれたものだ。
アルフレッド カーンがザスアルの聖騎士団長だと・・・
カーン    貴様・・・
アルフレッド 貴様、何奴。
ガルハース  貴様ら如きに名乗る価値もないが、礼儀として教えてやろう。我が名はガルハース。スレイアール帝国の騎士だ。
アルフレッド ガルハース・・・あの・・・
カーン    貴様、我が軍の仇!覚悟しろ。
ギリアム   我が仲間を切り捨てた恨み。果たさせてもらう。

そういうとカーンは剣を、ギリアムは斧を手に取り、ガルハースに向けて斬り込んだ。

ガルハース  ほう、刃を向けるか。残念だがその太刀筋では私には届かん。

ガルハースは最も簡単にその両方の切先を払いのけた。

ガルハース  稚拙な。話にもならん。あいにく貴様ら如きに付き合う暇はない。では失礼する。
ギリアム   まて、逃げるのか。
ガルハース  威勢はいいが、私も急ぐのでな。またの機会に少々手合わせでもしてやろう。行くぞ、ベルデモート。

そういうと、ガルハースは一行には目もくれず走り去っていった。

アルフレッド あれがスレイアールの騎士団長・・・強すぎる・・・。カーン、貴方はザスアルの聖騎士団長だったのか。一個師団を任されていたといっていたのは・・・
カーン    くそ、全く歯が立たない。ああ、そうだ。私はザスアル王国聖騎士団長をやっていた。ザスアルの精鋭で構成された一個師団を国王陛下より直々に任されていた。その他の騎士団・戦士団は全て部下に任せていたのでな。そんなこと、とうの昔に捨て去った話だ。
ルークス   思い出しました。ザスアル王国の最強と言われていた部隊があるという話を。
カーン    それ以上は、言うな。思い出したくもない。
ギリアム   わしも、仲間を切り捨てられた恨みを晴らせんかった・・・あの剣捌き、とても太刀打ちすることができなかった・・・なんてことだ・・・
ヴァイス   お二人とも・・・気を落とさず・・・
カーン    貴様に何がわかる
ヴァイス   いえ、私は・・・
アルフレッド カーン、今は仲間で言い争いをしている場合じゃない。頼む、落ち着いてくれ。しかし、あれだけの手練。どうやって戦えばいいんだ・・・。できるだけ隠密にバアルまで行くしかないか・・・
ギリアム   ならばこの平地ではなくザンズム連峰の麓を行くしかあるまい。麓には大きな洞窟がある。そこを抜ければバアルまで行くことは可能じゃ。ただし、問題が一つあるがな。
カーン    そうだ。あの洞窟には、魔獣ミノタウロスが住むと言われている。相当凶暴な化け物だ。遭遇しないことを願うしかない。それにガルハースが先を進んでいるのなら、そう時間がかからず強大なスレイアールの騎士団がここを過ぎていくはずだ。今の俺たちでは多勢に無勢でしかない。
アルフレッド ザンズム連峰の洞窟か・・・しかし、そこしか進む場所がないのかないとなれば仕方がない、ザンズム連峰の麓を目指て進もう。
ギリアム   目の前の森はエルフどもが住む場所ではない。全く安全というわけではないが、そこを抜けるしかあるまい。
ルークス   では、早くここを立ち去りましょう。残された時間はそう多くはありません。

そうして一行は通称ミノタウロスの洞窟と呼ばれる場所を目指して進んでいった。

第三章 完


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