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(追記)豆の値段

コーヒー豆の値段を「100g600円」にしています(定期便の場合は100g550円)。定番の「いつものブレンド」も、年に4回だけ登場する「季節の豆」も、すべて同じ値段です。

淹れ方や好みにもよりますが、「100g」というのは「7~8杯分」くらいの量です。つまりこれは、「1杯75円~85円」くらいの値付けということです。高くもないし安くもない、中途半端な値段かもしれません。

この値段は、わが家の金銭感覚によるところが大きいです。長い年月で積み上がった、逃れようのない、個人的な「なんとなく」に左右されています。なんとなく、1杯それくらいの値段というのが、自分たちにとっての「日常の心地」だなと思っています。

この感覚はすごく大切していて、たとえば、ふだん宝石を身につけない人間が、頑張って宝石を売るようなことはしたくありません。背伸びをしなければ、と感じながら仕事をするのは、なんとなく不健全で、私たちが求めている「気楽なおいしさ」からは、ずいぶん遠ざかってしまいます。

「高いけど、たしかにおいしい(払う価値がある)」よりも、「おいしいし、わりと買いやすい」を好んでいる。わが家の生活が、だいたいそのような感じというわけです。

また、定番の豆も季節の豆も、横並びで同じ値段にしています。これは、定番こそスペシャルだということ、同時に、限られた季節を愉しむこともまた、日常の一部であるということです。「なんでもない日々の小さな幸せ」や「日常の尊さ」みたいなものを、自分たちなりに、コーヒーの味わいや値段に置き換えてみると、そうするのが一番素直でした。

実は10年前、店を始めた頃には「100g800円~」でお届けしていました。原価は今の方がはるかに高いのですが、豆を焼くことで生活が成り立つ日など想像できない状況だったからか、振り返ってみると、やや背伸びした値段に思えます。そこから少しずつ、豆を求めてくださる人が増えて、これひとつで生活ができるようになって、豆の値段を理想へと下げることができました。

昨今(に限ったことではありませんが)、いろいろなものの値段が変わっています。価値が揺らぎ、何が適正なのか、何が誰のためになるのか、正直よくわかりません。あまりにも広く大きな変動があると、なんだか目の前に「リセットボタン」が出現したような感覚もあります。もし、生まれが10年遅くて、今の状況で店を始めようとしたなら、たしかに違った値段を付けていると思います。

それでも、それはそれ。私たちには私たちの文脈があって、今があります。このご時世で値上げをしないと、かえってご心配をおかけすることもあるので明記しておきますが、今の値段で続けることは、なんとなく自由でうれしいことでもあります。これぞ個人店の醍醐味、私たちがやりたいことです。

もちろん、「おいしい」を一番前に置いた上で、ということは言うまでもありません。変わらぬいつものコーヒーをどうぞ。

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