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押井守監督の実写映画を見たことありますか?

今回は、押井守について少し書いてみたい。
押井守といえば「GHOST IN THE SHELL」というのが皆さんの共通認識だと思うけど、彼を語るにおいて意外と外せないのが「実写映画」である。
というのも、今まで彼はアニメの監督を15本(短編等除く)ほど手掛けてきた一方、実写映画の監督も17本ほど手掛けてきてるわけで。
ぶっちゃけ、アニメ:実写の比率がイーブン。
だからアニメを見てるだけでは、彼をちゃんと理解したとはいえないんだよね。

「紅い眼鏡/The Red Spectacles」(1987年)

これが、押井さんの実写映画デビュー作「紅い眼鏡/The Red Spectacles」。この画像を見て、「あ、これ『人狼』じゃん?」と思った人もいるはず。
その通り。
アニメ「人狼JIN-ROH」(2000年)は「ケルベロスサーガ」シリーズの中の1本となっていて、この「紅い眼鏡」と「人狼」、そして1991年に制作された実写映画「ケルベロス-地獄の番犬-」、以上の3本でワンセットだ。

アニメ「人狼JIN-ROH」(2000年)
実写映画「ケルベロス-地獄の番犬-」(1991年)

実写デビューの「紅い眼鏡」は、押井さんも嬉しくてついついテンションが上がっちゃったんだろうねぇ・・。
節操もなく、とにかく彼が好きなモノをテンコ盛りにした印象のデビュー作である。

・主演は、「うる星やつら」のメガネこと千葉繁

・ヒロインは、「天使のたまご」の少女こと兵藤まこ

・主人公が逃げ惑う、フェリーニ「8 1/2」っぽいプロット

・難解な会話が延々と続く、ゴダールっぽい会話劇

・銃を撃ちまくるハードなミリタリー要素

・終盤は「ビューティフルドリーマー」のセルフパロディ

・・もうね、呆れるほど「映画マニア」押井さんの趣味全開ですわ。
ちょっと興味深かったのは、多分「ビューティフルドリーマー」のパロディなんだろうけど、作中にタクシーのシーンがあるのね。

「ビューティフルドリーマー」
「紅い眼鏡」

で、問題はこの運転手なんだけど、実はこれ、大塚康生さんなんだ。
皆さんに大塚康生といってもピンとこないかもしれんが、彼は宮崎駿や高畑勲の師匠ともいうべき偉大なアニメーター、レジェンドですよ。
どんな経緯で彼がキャスティングされたのか不明にせよ、なんかスゴイなぁと思って・・。
もはや、お祭りである。
しかし真面目な話、「ケルベルスサーガ」というのは意外とバカにできないというか、押井さんの作家性の核なんだよね。
ここで描かれた【警察権力v反権力】の構造が、やがては「パトレイバー」や「GHOST IN THE SHELL」という大きな流れに繋がっていくんだから。
そして、その先陣を切ったのが1987年、この実写映画「紅い眼鏡」からなんですよ。

さて、ここからが本題。
正直、「紅い眼鏡」や「地獄の番犬」なんかはどうでもいいのよ。
ほとんどクソだから。
だけど押井監督の実写映画の中で、
これだけは見といた方がいいんじゃないかな?
というのが例外的にふたつほどある。
それが

・「AVALON」(2001年)
・「GARM WARS」(2015年)

の2本である。
見たことない人も多いと思うので、まずは触りとして予告編をご覧になってください。

・・何となく、雰囲気伝わった?
「紅い眼鏡」や「地獄の番犬」は多少の悪フザケもあって映像研サークル的ノリの作品だったが、「AVALON」「GARM WARS」は悪フザケなしのガチのやつである。

じゃ、まずは「AVALON」について。
これはオール海外ロケ(ポーランド)、言語はポーランド語、役者は全員ポーランド人、はっきり言ってほぼ外国映画です。
だけど内容は紛れもなく押井成分100%無調整で、率直にいえばこれ、「GHOST IN THE SHELL」の実写版だわ。
いや、それ最近ハリウッドがやったじゃん?と思うだろうけど、私から見ると「AVALON」の方がハリウッドのより「GHOST IN THE SHELL」の空気感に近いと思う。
まず主演女優からして、明らかに「AVALON」の方が草薙っぽいし。

「AVALON」
ハリウッド版「GHOST IN THE SHELL」

そりゃスカーレットヨハンソンの方が圧倒的にカワイイけど、基本、押井版の草薙ってカワイイのはダメだと思う。
だから「AVALON」の方がいい。
でさ、押井さんは何より優れた絵コンテを描ける人ゆえ、やっぱそこは実写になってもブレてないのよ。
構図がいい。
先ほど「紅い眼鏡」や「地獄の番犬」をクソと書いたが、そのふたつですら構図だけは凄くいいことを認めましょう。
で、問題は、この映画が面白いかどうかだ。
う~ん、難しいな・・。
たとえば「GHOST IN THE SHELL」の続編「イノセンス」、皆さんはあれを面白いと思った?
あれを「面白かった」と言える人なら、多分「AVALON」も面白いと言えるだろう。
私は、正直面白くなかったけど。
ただ、この「AVALON」は海外でやたら評価高いんだよね。
確かに、制作費6億程度でこの映像美を作れたのは凄いと思う。

じゃ、続けて「GARM WARS」について。
上の動画は、1998年時点で制作された「GARM WARS」のパイロット版アニメである。
つまり「AVALON」を作る前から、既に「GARM WARS」構想があったわけよ。
というより、こっちの方が本命だったらしい。
ジェームズキャメロンがプロデューサーとして動いてたらしいが、脚本段階で「これは売れない」とキャメロンに言われ、急にプロジェクトが頓挫したとやら?
で、この企画を拾ってくださったのが、あの鈴木敏夫プロデューサーですよ。
彼が制作費20億を捻出してくれたらしい。

「GARM WARS」(2015年)

で、完成した「GARM WARS」を見た私の印象としては
これ、『砂の惑星』じゃね?
という感じ。
これも「AVALON」同様、日本人は一切出てこず、ほとんど外国映画にしか見えない。

「DUNE砂の惑星」(1984年)

上の画は、80年代に制作された、デヴィッドリンチ監督版「砂の惑星」である。
最近はドゥニヴィルヌーヴ監督がリメイクして、これがもうリンチ版を遥かに上回る大傑作だったんだが、少なくとも「GARM WARS」の制作時点ではまだヴィルヌーヴ版はなかったから、押井さんはリンチのキモい世界観の方をオマージュした感じ?
いやいや、映画云々以前に、まずは「砂の惑星」という小説そのものがSF界の金字塔なんだよ。
現代のサブカルには礎になったSF小説が2つある、とされていて、それが

①「DUNE砂の惑星」著・フランクハーバート
②「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」著・フィリップKディック

というのが定説。
①が「スターウォーズ」の元ネタ、②が「ブレードランナー」の元ネタだね。
そして①から派生したのが「風の谷のナウシカ」、②から派生したのが「GHOST IN THE SHELL」、ともいわれている。

「ナウシカ」のオームのモデルが、「砂の惑星」のワームであることは間違いないだろう

でさ、「GARM WARS」の世界観ってのは①+②の融合なのよ。
主人公たちは全身義体で、記憶だけを新たな義体に代々継承させて永続的に生きていくという人種。
そういうサイバーパンクな設定でありつつ、その生活環境は「ナウシカ」的なレトロフューチャーで、どちらかというとポストアポカリプスの雰囲気。
押井さんって、実は意外と①をやってこなかったのよ。
しいていうならOVA「DALLOS」がそれなんだが、あれも未完のまま放置になったからねぇ・・。

「GARM WARS」
日本映画では、あまり見たことのない類いの映像美

この作品はプロデューサーが鈴木敏夫ということもあり、私は
ひょっとして鈴木さん、『ナウシカ』実写版を監督・押井守で考えてるのでは?
ということを考えてしまった。
かつて押井さんは宮崎さん宅に居候してたこともあり、ふたりは仲が良いので、あながち有り得ない話でもないんだ。
ましてや、「GARM WARS」は制作費20億ということで、今回鈴木さんには多大な借りを作ってしまった。
だから、もし鈴木さんに
『GARM WARS』の借金、実写版『ナウシカ』で返してよ
と言われれば、押井さん、やっぱ断れないんじゃないの・・?

この作品、キャスト全体がどこか「ナウシカ」っぽいのよ

ところで、この映画の興行収入はどうだったのか?
数値は公表されておらず、正直よく分からない。
ただひとつ確実にいえるのは、公開時、興行収入ランキングに全く顔を出さなかったということ。
噂レベルでは、1億未満だったとも・・。
「AVALON」も同様。
ただ、ある時期に押井守はこういう発言をしていたんだ。

「僕の自慢は、今まで一度も映画で赤字を出していないこと」


・・え、嘘?
私が知る限り、彼の作品はほとんどが【制作費>興行収入】のはずだぞ?
どうやら彼が言ってるのことの意味は、「DVD&Blu-rayなど全部コミコミで回収できたかどうか」ということらしく、そういう長期スパンで見ると、押井さんの映画はなぜか黒字になっているということらしい。
でも、円盤の売上ランキングでも上位で押井作品を見たことはないぞ?
・・いや、彼の円盤売上は【国内<海外】とのこと。
なぜか<MAMORU OSHII>の名は海外ではひとつのブランドになっているらしく、毎回円盤は安定して売れるんだそうだ。
なるほどねぇ。
確かに、ある作品で日本の女優(黒木メイサ)を主演で使ってるのに、作中ずっと彼女が英語で喋ってるのは妙だと思ってたけど、あれは海外で円盤を売る為だったのか?
もはや、押井さんは日本国内市場に期待してないみたい・・(笑)。
彼の作品は、「洋画」の一種として見る方がいいんだろう。
どうりで、作中の語彙を理解しにくいわけだ。

例によって、「GARMWARS」にも犬が出てきます。
これ、どう考えても「天使のたまご」だよね?


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