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古代史ファンにはタマらん!名作アニメ「火の鳥」

今回は、手塚治虫の名作「火の鳥」について書きたい。
これは言わずと知れた、手塚先生の代表作とされる叙事詩系作品。
この作品の何が凄いかって、それはダークファンタジー要素とSF要素の見事なまでの調和である。
こういうの、並の漫画家ではなかなかうまく調和がとれない。
たとえば手塚先生の愛弟子、藤子不二雄先生。
藤子先生って、1人じゃなく2人でしょ?

・藤子F不二雄⇒SF(ロボットやテクノロジーを主に描く)
・藤子不二雄A⇒ダークファンタジー(オカルトなど厨二要素を主に描く)

ふたりで各々、要素を分担してるんだよね。
このふたつの要素を、仮に「F軸」と「A軸」と名付けるとしよう。
さすがの藤子不二雄でも、ふたつの軸はふたりで分業せざるを得ない。
しかし、手塚先生は彼らの師匠だけあって、F軸、A軸、この両方をひとりで使いこなしてたんだ。
さすが、神様と称されるだけのことはある。
それを証明して見せたのが、この大作「火の鳥」だったわけね。

さて、本題に入ろう。
この原作漫画はあまりにも有名だし、誰しも子供の頃、少しぐらいは読んだことがあるんじゃないだろうか。
内容、だいぶ忘れちゃってるかな?
この作品はたくさんの「○○編」で構成されており、ファンにアンケートをとると、人気1位になるのは毎回「未来編」らしい。
「未来編」は時系列でいうと最も遠い未来を描いた話で、ただその着地点が時系列でいうと最も古い過去を描いた「黎明編」の冒頭部分に繋がるというループ構造になっている。
永遠に終わらない、円環の理ってやつですな。

「未来編」
最も遠い未来だが、最も古い過去(人類誕生以前)にも見えるパラドックス

「未来編」が人気1位になるのは、あくまでも漫画としての「火の鳥」の話である。
これがアニメになると、少し話が変わってくる。
ちなみに、アニメ作品として私がお薦めしたいのは、次の3つ。

・劇場版「鳳凰編」(1986年)監督・りんたろう
・OVA版「宇宙編」(1987年)監督・川尻善昭
・TVアニメ版「黎明編」(2004年)監督・高橋良輔

レジェンド級の監督がズラリ勢揃いで、めっちゃ豪華でしょ。
「黎明編」に至っては作画監督・キャラデザが、あの杉野昭夫さんだからね?
あ、そういや、この高橋良輔+杉野昭夫コンビは今期「ザ・ファブル」でも久しぶりにコンビ組んでるんだけど、「ザ・ファブル」はそんな重要な作品だったっけ・・?
まぁ、いいや。
この中でも私が特に好きなのは、個人的に大ファンである川尻監督の「宇宙編」ですよ。
これはミステリー仕立てになっていて、
牧村は死んだはずなのに、なぜか牧村の乗った宇宙船が動いている・・
というホラーっぽい展開から物語が始まり、牧村の同僚3名が各々に生前の彼に関する不思議エピソードを語っていく、というスタイルだ。
なんか、サスペンスっぽいでしょ?
しかも、密閉空間の宇宙船内でこれをやるもんだから、めっちゃ緊張感あるのよ。

で、ホラー的演出に定評のある川尻監督だけに、オチもめっちゃ怖い感じになっていた。

「宇宙編」
「宇宙編」
子供の頃にこれ見てたら、きっとトラウマになってたと思う・・

で、本命というべきは、やはり「黎明編」か。
これはアニメ化以前に一度、市川崑監督で実写映画化されてて、これがもう酷いのなんのって・・。
ぶっちゃけ、名匠・市川崑の黒歴史かと。

「黎明編」名優・若山富三郎がオオカミを倒すシーン

意味の分からん、実写とアニメの合成(笑)。
しかもこのアニメ部分、手塚先生自ら手掛けてるんだよねぇ・・。

「黎明編」で使用された原画セル

でさ、オオカミが人間たちに襲いかかる前に、↑↑の画みたく直立してダンスするのよ。
きっと当時流行ってただろうピンクレディー「UFO」のイントロが流れて、オオカミ2匹がそれに合わせて「UFO」の振り付けで踊るんだわ。
何なの?
このダサくて寒い展開。
多分、敢えてウケ狙いでこういうギャグシーンを挿入したんだろうが、いやホント、こういうのだけは勘弁してほしい。
手塚先生自身がこのシーンにどういうスタンスだったのかは知らないけど、こういう感じに仕上げたセンスはマジで疑わざるを得ない。
そういや以前、宮崎駿が

手塚先生は漫画家としては天才だが、アニメーターとしてはクソ

みたいなこと言ってて、さすがに当時「酷いこと言うなぁ」と思ったけど、あながちそれも間違いじゃないような気がしてきたよ・・。
その点、TVアニメ版「黎明編」はギャグ要素ゼロで真面目に作ってあるので、こっちは安心してご覧いただけます。

「黎明編」猿田彦(左)とナギ(右)

「黎明編」の猿田彦は、邪馬台国の将軍である。
彼はヒの国(熊襲?)に攻め入ってそこを殲滅。
戦地で孤児のナギを拾って、国に戻ってからはナギを養育することになる。
ナギにしてみれば猿田彦は親の仇、故郷を滅ぼした仇であり、何度も猿田彦を殺そうとするんだが、なかなかうまくいかない。
そのうち不思議と情も湧いてきて、ふたりは疑似親子のような関係になっていく。
このプロット、手塚先生を敬愛する浦沢直樹の「MONSTER」で、全く同じのがあったよね。
多分、あれって「黎明編」のオマージュなんだろうなぁ・・。

「MONSTER」において屈指の神回とされる「老兵と少女」

ところで「猿田彦」って、古事記や日本書紀に出てくる、「天孫降臨の際、天孫を道案内した神様」が元ネタだよね?
だけど、この作品での猿田彦は邪馬台国の将軍という設定。
ここが、手塚先生なりの日本古代史独自解釈である。
「黎明編」に見る、手塚先生の解釈は次の通り。

【卑弥呼】
邪馬台国女王、アマテラス
【卑弥呼の弟】
邪馬台国女王の補佐役、スサノオ(後に国を追放される)
【猿田彦】
邪馬台国将軍
【二ニギ(天孫)】
外国から来た騎馬民族の長、邪馬台国を滅ぼす

「黎明編」この馬上の人物が初代天皇っぽい

この作品は1960年代に描かれたものだけに、当時の古代史解釈で主流とされた「騎馬民族征服王朝説」に基づいているんだと思う。
まぁ、今となってはこの学説も否定されつつあるんだけどさ。
しかし「火の鳥」って、私みたいな古代史ファンにはかなりタマらんものがあるのよ。
こうやって邪馬台国の興亡を描いてくれてるのもそうだし、「ヤマト編」ではヤマトタケルを描いてくれてるし(しかも熊襲の長の娘と禁じられた愛の物語である)、「太陽編」では大海人皇子vs大友皇子を描いてくれてるし、嬉しい限りである。

さて、そもそも「火の鳥」というあの生き物は一体何なのか?についてだが、正直はっきりとしたことはよく分からないんだよね。
ただ、永遠の生命エネルギーという、ふわっとした概念論に終始している。
でも手塚先生は医学部出身で、バリバリの理系の人。
物理科学に精通した彼だけに、この星に生命が誕生したことの奇跡的確率についてはよく知ってるはずなんだ。
計算上、地球上に生命体が誕生したのは(10の40000乗)分の1の確率という、普通に考えれば絶対あり得ないような奇跡的幸運だった、とされてるのね。
そんな自然の流れに任せてて、(10の40000乗)分の1の実現とか、まずないでしょ。
大体、サイコロを投げて100回連続で同じ目を出すこと(6の100乗分の1)ですら無理なんだから。
じゃ、万が一偶然じゃないとしたら、何らかの「」がそこに作用した、ということになる。
だから手塚先生は、その「」を「火の鳥」という形で分かりやすく具現化したんだろうね。
ああいう鳥みたいな形であるかは別として、私も何らかの「」は必ず宇宙のどこかに存在してると思うぞ?
これは「A軸」の話じゃなく、「F軸」の話である。

まぁ何にせよ、我々も日本人に生まれた以上は、「火の鳥」をちゃんと復習しておくのが日本国民としての義務というものだろう。
英国人がシェイクスピアを読むように、米国人がヘミングウェイを読むように、中東人がコーランを読むように、我々の場合はアニメ「火の鳥」を見るべきなんだよ。
あと、この作品はできれば映画「ドラえもん のび太の創世日記」とセットでご覧いただきたい。
おそらく「創世日記」は、藤子F先生が「火の鳥」を意識して描いた作品だと思うから。
やはり手塚先生の正統後継者は、AでなくFである。
まぁクオリティとしては、「火の鳥」の方が圧倒的に上なんだけどね。

映画「ドラえもん のび太の創世日記」(1995年)


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