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アンチ・ガンダム?反骨の傑作「装甲騎兵ボトムズ」

今回は、「装甲騎兵ボトムズ」について書きたい。
これは言わずと知れたサンライズ制作のロボット系アニメなんだが、かなり「ガンダム」とは系統が違うんだよね。
まず、主人公がクールでカッコいいという時点で少しおかしい。
普通、サンライズ系のアニメなら主人公は思春期の少年で、何かにつけ葛藤しちゃうタイプでしょ。
でも「ボトムズ」の主人公・キリコはほぼ葛藤せず、人を殺すことにも何ら躊躇しない。
物語の序盤から、既に完成されたプロフェッショナルの傭兵。
決して、主人公の成長譚じゃないんだよ。
あと、彼が乗る機体も少しおかしいわな。
機体は「アーマードトルーパー」と呼称されるものだけど、これの見た目は「ガンダム」でいうところの量産型ザクに近い。
しかもキリコは特定の機体に固執せず、壊れればすぐ別のものに乗り換えるし、完全に消耗品扱い。
こういうところが、数多くあるロボット系アニメの中でもかなり異質な部類に入ると思う。

とにかく、「ガンダム」みたくカッコいい系の機体が全く出てこないので、スポンサーは玩具メーカーだろうに大丈夫なのか?と思わず心配してしまうよ。
だけど実際のプラモ売上は、さほど悪くなかったとのこと。
ほぉ、私はプラモに興味ない人だからよく分からんけど、こういうズングリしたやつでも意外に売れるということか?
しかし、妙にシブいテイストだよね。
アムロが乗るのは白・青・赤のトリコロールカラーなのに対して、キリコが乗るのはカーキやベージュやグレーなど小汚いアーミーカラーばかりじゃん。
ミリタリー好きは、逆にこういうやつの方がしっくりくる?

なんか、もっさりしてるよな~

そもそも、「ガンダム」とは文脈が違うんだろう。
「ガンダム」は基本スペースオペラだし、やや「スターウォーズ」の影響下にあるのに対し、「ボトムズ」はどっちかというと「ブレードランナー」の方の影響下にある。
主人公が無口なのに、なぜか主人公のモノローグで進行していくスタイルは「ブレードランナー」そのまんまじゃん。
いわゆるハードボイルドってやつだ。
めっちゃ美意識が強い。
だからファンの数では「ガンダム」に及ばないまでも、「ボトムズ」ファンはかなり熱烈な信者が多いとも聞く。
実をいうと、私も嫌いじゃない。
TVシリーズはバニラやココナなど軽妙なキャラがいてまだ救いがあるけど、前日譚のOVA「レッドショルダードキュメント」「ペールゼンファイルズ」は女っ気ゼロの殺伐とした内容で、ただひたすらコンバットなんだ。
「プラトーン」「フルメタルジャケット」「地獄の黙示録」って感じ。

「ガンダム」みたく、スターウォーズ的なビームサーベルはない

この作品の監督・脚本は虫プロのレジェンドのひとり、高橋良輔氏で、これが彼独特の作家性と見るべきだろうか。
この作風、かなり押井守に近いものがあると思う。
この「ボトムズ」とほぼ同時期に押井さんはOVA「DALLOS」を作っており、両作品はなんか雰囲気が似てるんだよね。

あと、後に押井さんが原作・脚本を務めた「人狼JIN-ROH」にも酷似している。
高橋さんと押井さんは、どちらもが「スターウォーズ」の文脈ではなくて「ブレードランナー」の文脈の作家。
「ボトムズ」って、意外と影響力の大きいアニメなんじゃないの?
日本でサバゲーが普及し始めたのも、ちょうど「ボトムズ」放送あたりからだったような気もするし。

「人狼JIN-ROH」

じゃ、ここで某サイトが発表していた
【ガンダム以外の80年代サンライズ制作ロボットアニメ人気ランキング】
TOP10
というのを見ていただこう。

【1位】342票
聖戦士ダンバイン(1983年)富野由悠季
【2位】293票
重戦機エルガイム(1984年)富野由悠季
【3位】277票
装甲騎兵ボトムズ(1983年)高橋良輔
【4位】216票
戦闘メカ ザブングル(1983年)富野由悠季
【5位】207票
伝説巨神イデオン(1980年)富野由悠季
【6位】188票
銀河漂流バイファム(1982年)富野由悠季
【7位】165票
魔神英雄伝ワタル(1988年)井内秀治
【8位】161票
機動警察パトレイバー(1989年)吉永尚之
【9位】150票
蒼き流星SPTレイズナー(1985年)高橋良輔
【10位】111票
太陽の牙ダグラム(1981年)高橋良輔

こうして見ると、やはり「ボトムズ」は人気あるんだね。
「イデオン」や「パトレイバー」よりも上位である。

富野由悠季(左)と高橋良輔(右)

ただ、高橋さん自身は富野由悠季に対する劣等感がかなりあったっぽい。
あの人には勝てん、と。
どうも高橋さんは、虫プロに入るまであまりアニメを見てなかった人らしい。
よって当初、どうしても富野さんのような作家性を持ち得なかったようだ。
ただ、その分ロジックを突き詰めてアニメを作る人だったのよ。
たとえば「ガンダムとカブらんようにしよう」というコンセプトを定めて、敢えて「スポーツカー」のようなモビルスーツの対極として、「ジープ」のようなアーマードトルーパーを作ったり。
敢えて宇宙軍でなく、陸軍の設定にしたり。
敢えて主人公を少年でなく、青年にしたり。
そうやって全て逆張りでいった結果、「ボトムズ」は独自のカラーを得たということか。
ナンバーワンにならなくていい、もともと特別なオンリーワン♫」という流れになり、子供にはウケなかったかもしれんが、少し上の世代からは強い支持を受けたということだろう。

「ボトムズ」主人公キリコ・キュービィー

「ボトムズ」は明確な「リアルロボット」アニメである(スーパーロボットの対極)。
この前提として理解しておくべきことは

【リアルロボット系】
普通の機体+スーパーな操縦者
【スーパーロボット系】
スーパーな機体+普通の操縦者

というロボットアニメの基礎文法である。
一応「ガンダム」もリアルロボット系にカテゴライズされており、その「スーパーな操縦者」の要素として「ニュータイプ」という設定が必須なのよ。
そして、「ボトムズ」の場合は「ニュータイプ」じゃなく、「パーフェクトソルジャー」という設定が付与されている。
どうもキリコはこのパーフェクトソルジャーらしく、どんな過酷な状況でも死なずに生還できる、不死身の男らしい。
だけど俺Tueeeとは少し違っていて、かなりの頻度で怪我してるし、かなりの頻度で拷問されてるし、その過酷な境遇は見てて可哀相である。
しかしキリコは、黙ってそれに耐え続ける。

傷めつけられても、黙って耐えるキリコ
一方、ぶたれたら激しくキレるアムロ

・・ホント、アムロにはキリコの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。
高橋監督いわく、キリコのキャラ設定は高倉健が少し入ってるそうだ。

高倉健
しょっちゅう上半身裸のキリコ

私が思うに、リアルロボット系ではやはり「ボトムズ」が一番「リアル」である。
「ガンダム」もリアルロボットといいつつ、実は特定の機体をかなり神聖視してるし、ホントは「ボトムズ」みたく壊れたらすぐ乗り捨てるぐらいが真のリアルロボットだと思うんだよね。
ロボットは聖剣じゃないんだから、その本質は消耗品でしょ?
弘法筆を選ばず、が正解ですよ。

声優・上坂すみれ

実は声優の上坂すみれさん(ラムちゃんの中の人)は熱烈な「ボトムズ」ファンらしく、彼女はアーマードトルーパーの美点を
当たり所次第では、一発で壊れるところ
と語っていて、この子は分かってるな~、と思ったよ(笑)。
そういや、この人は「ガールズ&パンツァー」でおいしい役やってたよね。
実は、めっちゃミリオタな人らしい。
しかし、こういう女子が「ボトムズ」にハマる例もあるんだな・・。

というわけで、「ボトムズ」をまだ見たことないという人は是非一度トライしてみてほしい。
まあ、さすがに全52話をいきなり見るのはハードル高いだろうから、

・OVAレッドショルダードキュメント(全1話)
・OVAペールゼンファイルズ(全12話)

まずは、以上の計13話をお薦めしたい。
これは本編の前日譚であり、時系列的にもここから入るのがいいだろう。
これ見て面白いと思うなら、本編に入ってください。
そして本編の1話~13話までを見て、そこから

・OVAザ・ラストレッドショルダー(全1話)

を見るべし。
「ザ・ラストレッドショルダー」は、日本アニメ大賞OVA最優秀賞受賞作品なので、せめてここまでは見てほしい。
物語は、ここで一区切りつく。
まだ続きを見たいと思えば、気合いを入れ直して本編14話から52話まで見てください。
「スターウォーズ」より「ブレードランナー」の方が好きだという人なら、きっと完走できると思うぞ。

そうそう、高橋良輔といえば、今期「ザ・ファブル」の監督をやってるんだよね。
これ、現代日本のキリコなのか?

「ザ・ファブル」

正直、81歳の老匠が毎週放送のTVアニメやるのは結構キツいと思うけど、高橋さん、まだまだ現役ということか・・。
こういう昭和のレジェンドには、まだまだこれからも頑張ってもらいたいと思う。


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