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ある意味、理想的な教育?「ようこそ実力至上主義の教室へ」

今回は、「ようこそ実力至上主義の教室へ」について書きたい。
このアニメはただ今絶賛放映中だが、これはとにかく原作の人気が凄いよね。
このライトノベルがすごい!」では、主人公・綾小路清隆が2020~2023年の4年連続で人気投票1位である(なぜか2024年は3位に落ちてたけど)。
いまどきの人気者の基準が分からん。
あんな底の知れないバケモノ相手に、一体どうやって感情移入できるというのか・・。
正統派の物語のセオリーなら、彼は本来悪役サイドのキャラ設定だよね?

綾小路清隆

多分これ、女性票でしょ。
女ってやつは、なぜか知らんがこういう危険な奴に惹かれたりするわけで。
彼は正真正銘のサイコパスですよ。
というと猟奇的な意味と誤解されそうだけど、サイコパスの本来の意味は反社会性パーソナリティ障害。
特に綾小路の場合、共感力を全く持ってないよね。
よって人間の良心に基づく葛藤など一切なく、全て合理的に考えるので人間というよりは高性能のコンピュータに近い。
一説によるとサイコパスは社会で成功する人も結構多いという話だが、それも分からんではない。
実際、「よう実」の中で彼は様々なクセ者たちの信頼を得てるし、モテてるし、人に接する態度も表面だけをなぞればかなり誠実である。
最近のエピソードでは、悩んで闇落ちしてた生徒たちを次々と立ち直らせている。
それを良心のかけらもなくやっちゃうんだから、こいつマジ恐いわ・・。
私は原作を読んだことないけど、おそらくこの物語は綾小路が人間性を獲得するまでの過程を描く、というプロットなんじゃない?
今のところ、全くその兆候は見えてないけどさ。

それにしても、ここは恐ろしい学校だよね。
クラスをA~Dで階級分けをし、思いっきり格差社会を作っている。
カーストの肯定。
おまけに「ポイントで買えないものはない」というルールで、試験の点数を買うことも可能だし、先生を買収することも可能。
というと一見腐敗してるように思えるが、そうではなく、そういうのもまた学校のコンセプトとして認めているものみたい。
敢えて、近代化される前の中世のような不条理な社会を作っている。
ただし、ここには王族も貴族もいない。
「家」が全く関与できないんだよね。
それもあって、家が超貧乏な一ノ瀬ちゃんのような子がカースト上位に君臨してる実例もあるわけさ。
ある意味で、とてもフェアな社会。
階級社会だが、まさに「実力至上主義」。
教師側はほとんど生徒を管理せず、守ってもくれない。
仮に暴力被害があったとしても、その暴力もまた「実力」の一種として学内では極めて有効である。
ある意味、これは異世界ファンタジー的なRPGの構図だね。
教師はギルドで、モンスターは試験、そして生徒たちは冒険者で、パーティ同士が一匹のモンスターを巡って凌ぎを削るという構図。
ちなみに、運営的にはプレーヤーキルもありってことで・・。

社会に法があり、市民個々に人権を認められ、安全に生きられる社会で生活してる我々にとっては、こういう異世界(中世)っぽい学園が好ましい環境であるはずがない。
だけど、そういう法や人権ってもんは我々の祖先がたくさん血を流した末にようやく勝ち取ってきたものであり、もともとあったものではないんだよ。
むしろ生き物の本質としては、とても不自然なものなんだ。
なのに我々は生まれた時からその不自然なものを享受しており、それがあるのが当たり前だとさえ思ってるフシがある。
でもさ、もし明日にでも核戦争か何かが起きて、政府機能・警察機能が麻痺したらどうなる?
たとえば殺人、盗み、強姦、それら違法行為を取り締まる国家が崩壊したら、私が想像するに、そこらじゅうで肩パットをつけたモヒカンの奴らが「ウヒョヒョヒョ~!」と叫びながらボウガンで襲ってくるかもしれないよ。

政治学的には、こういうのを「自然状態」という。
そう、これこそが「自然」、生き物としての人間のもともとの状態なのよ。
だけどそんなの、生まれた時からごく当たり前に法律や人権を与えられてる我々は、↑↑みたいなモヒカンに襲われても「お巡りさん、助けて!」という他力本願の発想ぐらいしかできないでしょ?
だから、お巡りさんなんていない世界なんだってば・・。
いるとすりゃ、ヤクザ的な地元のヌシぐらいだろうし、結局はそういう勢力の庇護に入らなきゃ無力な人間は生きていけないと思う。
で、次代はそのヌシの子が新しいヌシになり、そうやって何代も続いていくうちに、これがやがて貴族、もしくは王族になっていくんだろうね。
いつの間にか社会には階級ができていて、搾取する側とされる側に線引きがされる。
これは世界中のどの地域でも例外はない流れだったことを考えても、人間の本質とはそういうものだということだろう。
そこを絶対に忘れちゃいけない。
おそらく「よう実」の高度育成高等学校というのは、教育方針として生徒を「自然状態」に晒すところにキモがあるんだと思う。
最初は全員フェアなところから始めて、やがては貴族、王族、搾取する側に立てるかどうか。
非常に型破りな教育方針だが、一応の筋は通っている。
ここで勝ち残れた生徒は、間違いなく日本のトップエリートになれるだろう。
学科試験を頑張って東大に入れた奴がトップエリートになれる、という既存の体制よりも、よっぽど国益に繋がるスパルタ教育である。

龍園

多分だが、みんな本能的な部分では今の去勢された社会じゃなく、人間本来の「自然状態」に憧憬を抱いてるんじゃないだろうか?
だってさ、アニメ見てると異世界ファンタジーが多く、それも大体が中世的な弱肉強食社会じゃん?
ゲームなんかも大体がそう。
みんな口先では「暴力はいけません」といいつつも、ヒットする作品の中では常に暴力や残虐行為が横行している。
「歴史上で好きな人物は誰?」というアンケートでは、常に織田信長という大虐殺者が上位にくるという事実もある。
今なお克服できない学校のイジメ問題にしても、これもまた「自然状態」を渇望する人間の本能からきてると思うよ。
だってさ、考えてみて。
人類の長い歴史のうち、ちゃんと法整備されて市民の基本的人権が守られたリベラルな期間ってどれぐらいだと思う?
それこそ0.1%にも満たない微々たるものだろうし、その大半、99.9%以上は「自然状態」だったんだよ。
そして、その記憶はきっちり全ての人々のDNAに刻まれており、法だの人権だのは、それこそ薄皮一枚でぎりぎり「自然状態」を包んでるにすぎない。
そりゃ、戦争やテロがいつまで経ってもおさまらないはずさ。
だって、そっちの方がむしろ本当の人間の歴史なんだから・・。

平田洋介

第10話の平田くん回は、なかなか興味深かったね。
いつも爽やか、クラスの人気者の平田くんにも中学時代に闇があり、当時の学校で横行していた陰湿なイジメを撲滅する為に、彼がやったのは「毒をもって毒を制す」、全体を暴力で支配する恐怖支配をしたというんだ。
え?
平田くんって、実は強かったの?
これを彼は悔いているんだが、実際に学校のイジメは撲滅されたようだし、必ずしも彼が悪いわけじゃないような気がするけど。
あちこちにはびこる悪を、それを上回る圧倒的な一個の悪で封じるという、これも立派にひとつの解決法である。

はびこる悪
小悪を封じる、巨悪・ラオウ

そう、平田くんがやったことは、このラオウと同じなんだ。
政治学的には、これを「暴力の独占」という。
社会秩序を作るのに、必須の過程である。
我々がいる日本だって、警察だけが銃を持ち、国が軍(自衛隊)をもつことで「暴力」を独占してるからこそ、治安が守られてるわけで。
中南米あたりでは警察より民間のマフィアの武装の方が上回ってる国もあるらしく、そういうのは治安がマジ最悪らしいね。
やっぱ、こういうのは一元化すべきなのよ。
と考えると、私は平田くんのとった方法論が間違っていたとは思えん。
ましてや当時、イジメで自殺者が出てる状況だったんだし、それ以上死者が出なかったのは、むしろ平田くんの暴力支配のお陰じゃないか?
そう考えると隣りのクラスの龍園の暴力支配にせよ、必ずしも悪いものではなかったような気もしてきた。
少なくとも、モヒカンがあちこちで「ウヒョヒョヒョ~!」と叫んでる教室よりはマシなんじゃない?

主要キャラの中でも特に闇が深い、櫛田ちゃん

あとは暴力だけじゃなく、櫛田ちゃんみたく世論を操作する力も間違いなく「実力」だと思う。
実際こういう世論、「」というのは、かなりの切り札である。
数は力なり
モブってのも、個々ではザコでも、みんなで束になれば十分に効果的なのよ。

束になったモブ

数としては圧倒的多数派のモブを操れる、櫛田ちゃんみたいな子をナメてはいけない。
彼女って、絶対社会に出たら成功しそうなタイプだわ。
基本、嫌いだけどさ。
綾小路のクラスは、平田くんといい、櫛田ちゃんといい、結構駒が揃ってる気がする。
今のところ綾小路は櫛田ちゃんを退学させる気っぽいけど、逆に味方に引き込めたら、これほど心強い駒もないよな~。
今後、綾小路vs櫛田の関係に要注目。

しかし、あれだね。
昨年のラノベアニメは「陰の実力者になりたくて」が大ヒットしたけど、あっちはあくまでパロディであり、こっちこそがホンモノの「陰実」。
ホンモノは、やっぱ安定感が違うよなぁ・・。
最後まで、視聴を継続しようと思う。

個人的に私は黒タイツ派、もとい、堀北派である


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