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音楽好きにこそ聴いてほしいK-POP 25選

私こと雪野のごく個人的好みから選出されたおすすめのK-POPについて音楽的視点を多めにして語る。


K-POPの衝撃

私はK-POPが好きだ。

出会いは2021年の春頃、なんの気なしにSpotifyで再生したこの曲だった。

テレビもSNSもたいして熱心に見ていない私にとって、コロナ禍真っ最中の2020年に日本人のためのK-POPアイドルオーディション番組『Nizi Project』が世間を彩っていることなど知る由もないことだった。

AKBグループや坂道グループをはじめとする日本のアイドルすら聴かず、誰も知らないバンドを知っていることがいちばんカッコいいと思っていた私のK-POP観は幼少期にテレビで観た少女時代やKARAで止まっていた。学生の頃は周りに防弾少年団、BIGBANG、TWICEのファンも多かったが、なんだかファンに熱心さが要求される敷居の高いカルチャーだと勘違いして敬遠していた。

そんな折、突然の『Make you happy』だ。なんだこれは!明らかにテイラー・スウィフト『Shake It Off』の強気なオマージュでありつつ、ドラムの音がめちゃくちゃよく、日本のアイドルソングではありえないくらいバスドラムの音量がでかい!そして、サビの「Ohh Happy Happy」の部分が大胆にもまさかのCセブンスコードまんま使いなのだ。

セブンスのコード(和音)は特にブルースのジャンルで最も特徴的に使われる。強烈なクセがありつつ次のコードへぐいぐいと接続したがる主張の強さで、下手に使うと泥臭さが醸し出されてしまうがこの曲ではその「ちょいクセ」をうまくフックとし、耳に残る仕上がりを実現している。

▲ブルースっぽいコード使いを正直にやるとこういったジャンルになる

「Make you happy」ではGのキーに対してサビでC7(シのフラットを含む)を使いハモるという妙技をやってのけている。私はこの瞬間にNIziU、そして楽曲を作ったJ.Y.Parkに心を撃ち抜かれた。

NIziUの次作『Step and  a step』でもセブンスの香りがより大胆に仕込まれている。Aメロが始まってすぐのリオパート「安心し"て 遅れてないか"ら」の部分はキーであるGの和音そのものにぶつけてくるファの音(G7のコードになる)。鼻にかかって特徴的な歌声のリオにここを歌わせることによって冗長になりがちなミドルテンポのダンスナンバーにほのかなスパイスを加えている。

ここまで聴いて、K-POPは自分が思っている以上に面白い音楽なのだということに気づく。市場規模を広くとらなければ利益が出ない関係で「輸出」を前提とした楽曲の完成度、高品質な音作り、その中でちらりと覗く遊び心の数々。よく知りもせず軟派な音楽だと高を括っていたそれまでの私にとって、かなりのカルチャーショックを与える出来事となった。

それから今まで数年間、私の音楽ライブラリおよびスマートフォンのストレージは今までのバンド音楽を隅に追いやってK-POPの楽曲がほとんどを占めるようになり、もうどっぷりと沼にハマって浸かりきっている。

今回はそんな私のまだ短いK-POP人生を彩ってくれた、特にお気に入りの曲たちを紹介したい。

普段あまりにも音楽的にこのジャンルを聴きすぎているせいで会話の噛み合う友人がほとんどなく(もちろん私もビジュアル面やダンス等も楽しんではいるのだが、トラックメイカーを追ったりサンプリングネタを掘っている友人はいない)鬱憤を晴らすべく小煩い内容になってしまうかもしれないがご了承いただきたい。また「隠れた名曲」を提示して悦に浸る意図はないため誰もが知っている有名な曲も臆せずバンバン出していく。結局、ヒットした音楽は質的にも良いことがほとんどである。


好きなK-POP楽曲の特徴

お気に入りの曲を紹介する前に、私の好みを分析しておきたい。改めて言語化しておくことによって、今後似た曲を探しやすくもなるだろう(私が)。

①チアフルな雰囲気

▲"チア"といえばコレ

私にとって音楽を聴くという行為は「日常の演出」のためにある。今の瞬間を仮に映画だととらえれば、そこに挿入歌を流して気分を盛り上げるような使い方。いわゆるBGM的な聴き方をしていると言っていい(このあたりの「歌詞を聞かない」的なアティチュードを含む内容は次回、日本の楽曲について話す際に詳述する)。

K-POPを聴く目的は主に「気分をあげる」「ノる」ときの時間演出(ライティング等で視覚を彩るのが空間演出なら、その瞬間自体をより効果的に演出することをそう呼んでみたい)だ。重苦しい雰囲気やカッコいい雰囲気、自己肯定感を上げる激しい雰囲気(ジャンルで言えばガールクラッシュなど)もたまにはいいが、基本的には心弾むような雰囲気の方が好み。

特に先ほどの『Make you happy』を筆頭に、チアダンス的フィーリングを携えた楽曲がそれにあたる。

日本ではゴリエの方が有名なToni Basil版の『Mickey』(1982)から脈々と受け継がれる「ドンチャドンドチャ」な8ビートのリズムに、軽いロックンロールの風味、ハンドクラップを添えながら掛け声が響く。疾走感のあるチアリーディングサウンドはいつの時代も色褪せない楽しさを提供してくれる。

このジャンル、K-POPでも少なくはないのだがまだまだ探しきれていない。誰かしらがまとめたプレイリスト等を参照すればよいのかもしれないが、微妙にチアの解釈が違ったりして、やはり地道にいろんな曲を聴いて探るほかないのが現状だ。

②軽いビート感

▲ファン的には人気が高いようだが私はもっと"軽い"方が好みと感じる一曲

それに付随して、なるべく軽やかなビート(ドラム)の楽曲の方が好きだ。歩みの反動で勝手にどんどんと前に進んでいくような、推進力の強いドラムパターンの方が心地よいと感じる。

反対に、たとえば例に挙げたTWICE『Dance The Night Away』はズン、ズン、ズン、と一歩一歩を踏み締めるような重さがありあまり軽やかに感じない。これはつまり、アリーナクラスのEDM的なビートよりもブレイクビーツ系のクラブノリなビートの方が好きだということなのだろう。

③リバイバル音楽、ジャンル音楽

純粋に現代らしいサウンドもよいが、やはり何かしらのリバイバルであったり、特定のジャンルをポップスに落とし込んでいる楽曲は聴いていて面白いと感じる。2019年頃からThe Weekend等の影響を受け発生した80年代ポップスのリバイバルブーム"NEWTRO"はその筆頭だ。

▲NEWTROらしいキラキラシンセ、ペタッとしたドラムサウンド

K-POPがどこもかしこもディスコ風味というか、ギラっとしたMTVな雰囲気に包まれていた時期があった。時代の流れにより今では廃れてしまっているものの、その中ではいくつも名曲が生まれていた。

ブームがひと段落しリスナーが新たなリバイバルを求める中、じわじわと90年代音楽流行の機運が高まってくる。2022年、NewJeansの登場によりK-POP界は一気にチルでルーズなイージーリスニングブームへと移り変わってゆく。

▲小室サウンドやWINKを思わせるガチャガチャピアノ。シンセポップの終焉と90年代への移行をK-POP上で仮想再現しているIVEの『After LIKE』。

▲『After LIKE』はストリングス系のネタまんま使いがコレの感じもある

ある程度「時代感」というテーマが与えられた中で何を見せるか、という観点が加わるのでリバイバルブームは面白い。同じような理由で何かしらのジャンルだったりオマージュ元がはっきりしているほどK-POPの楽曲はサウンドプロデューサーの腕の見せ所になると感じている。俳句と同じで、何かしらの形式や縛り、お題が与えられた状態でいかに差別化を図るかという大喜利感がこれらの楽曲の魅力だ。

④ジェットコースター的メロディ

これに関しては感覚的なもので、言葉として定量化できていないが挙げておきたい。

演出上の理由や物理的な制約により決められたレールの曲がりくねりの中で急上昇、急降下を繰り返すエキサイティングなジェットコースター。まるでその軌道のように「ここを通るしかない」必然性に縛られながらも鮮やかに上下するメロディラインが私は好きだ。その必然性とは分析していけばコードに対するボイシングの上手さだったり、メロディ配列自体の違和感ない並べられ方だったりするのだろうが、未だになんとなくでしか良し悪しを判断できていない。

例えば次の2曲を聴き比べてみよう。

どちらもほとんど同じジャンルとテンポ感で作られている。が、メロディラインのワクワク感は後者fromis_9『DM』の方に軍配が上がらないだろうか。これ以外のメロディはあり得ないようなハマり感。激しく上下し決して歌いやすくはなく、覚えやすいキラーフレーズもないがきちんとキャッチーな魅力があり聴きやすい。

Rocket Punch『CHIQUITA』もかっこいい曲でとても好きだが、ことメロディに関して言えば与えられた小節の中で遊びきれていないような、煮え切らない印象がある。ところどころのキメを掛け声で済ませていたり、空白が多かったりするのが理由だろう。サビもキャッチーさがあるというより、メロディが頑張って曲を引っ張っていこうとしているような、少々の強引さを感じるフレージングになっていると感じる。

ここが上手にできている曲、すなわち激しいフレーズながら違和感なくキャッチーに仕上がっているメロディはとても心地よい。聴き手をガチッとホールドする圧倒的な安心感の中で縦横無尽な忙しさを与えてくれる。よって私はこれをジェットコースター的メロディと呼んでいるのだが、いかがか。

⑤Ⅵ♭→Ⅶ♭→Ⅰのコード進行

▲1:02〜あたりから始まるバッバナナの部分がわかりやすい。

和音の並び方、ひいては曲の雰囲気の話だ。専門的になってしまって申し訳ないが、まずは音楽用語を使って説明させていただきたい。

例に挙げた曲『Power Up』のキーはE♭だ。3まわし目の「バッバナーナ」の時に本来は使わないB、D♭を経由してEに行き着いている進行(順番)がこれにあたる。BとD♭が出現して普段は"E♭マイナー"で使う裏ルートを発見したような新鮮さがあるが、結局は"E♭メジャー"に帰ってくる。ダイナミックな冒険感と安心の交互浴を演出できるのだ。

音楽用語を使わないで説明しよう。普段は普通に一階の入り口から徒歩で入ってるスーパーに、敢えて車で立体駐車場に停めて上階から入店する。エスカレーター乗り場は「なんか人いなくて寂れてるな…」と一瞬不安に思うも、降りてみるといつものスーパーの階でなんだか安心するあの感じだ。

▲1:13あたり「クサラスルヌッキ〜」の部分

コード自体の動き方は同じだがキーに対する位置が違うIV-V-VIと続く進行もかなり好きだ。こちらはVIマイナーに落ち着くかと思いきや、意外や意外にもメジャーに飛んで行ってしまうことで浮遊感だったり解放感を演出できる。

音楽用語を避けるならば「やばい今日の講義これ以上は遅刻数増やせないのにチャイム鳴っちゃった!間に合わない!」と青い顔で走りながら教室に入ったら"休講"だったときの「え…」の感じだ。

⑥ヨジャグル(ガールズグループ)

▲埼玉や群馬を中心に展開するスーパーのベルクでポイントカードを読む時、この曲の冒頭「ティロリロリロリロン♪」に激似な音が流れる

こればかりは私が男だからで正当な理由が全くないのだが、ボーイズグループの曲は聴かない。


わたしの好きなK-POP

というわけでここまで長くなったが、いよいよわたしの好きな歌を紹介する。なるべく絞ったはずだが数えると25曲にもなってしまった。もし気になった曲があれば聴いてみてほしい。順位は特に決めていないので、なんとなく年代順に並べてみた。

1. GFRIEND / Me gustas tu

トップバッターであり、今回紹介する中で最もリリースが早いのがこの曲。

この時期のGFRIENDは日本でいう坂道系アイドルのような清楚さや透明感があり、楽曲はIIIメジャーコード(今回は「トゥットゥール チョアヘヨ」の部分。キーG#に対するC)をふんだんに使った切なさに溢れたものが多く、日本人的歌謡観にも十分に通じる。『Me gustas tu』もその例に漏れず、どキャッチーかつJポッピーなメロディが特徴だ。

2024年の今聴けばドラムのサウンドやストリングスの使い方などやや往年の感じもあるのだが(2015年がもうすぐ10年前ですか!?)、それにしても曲自体の良さが色褪せない輝きを保ち続けている。もし商業音楽家としてこれが書けたのなら喜びに震えるに違いない。それくらいにどの方面から見ても隙のない抜群の完成度を誇る名曲だろう。

2. OH MY GIRL / WINDY DAY

当初オマゴル(OH MY GIRL)を知らなかった私は、ああこれも2010年代中盤の清純派系かと聴き流していたのだが、サビの終わりでびっくら仰天、ひっくり返ることとなる。なんと、それまでの天使の歌声が一変し全力でアラビア〜ンな雰囲気になってしまうのだ。これはやられた。かっこよすぎるでしょ。

個人的に大衆ポップスと攻めた姿勢のせめぎ合いみたいなのが好きで、あくまで商業作品として成功はさせつついかに変なことをやるかのチキンレースが展開されていると胸が熱くなる。この『WINDY DAY』はそれの大成功パターンだろう。もしこれが「♪フンドゥリョ、フンドゥリョ、WINDY DAY〜」のあともそのまま普通な路線だったらただのいい曲で終わっていたし、今では時代に埋もれてしまっていたかもしれない。後にも先にもこんな思い切ったアラビアの風で"WINDY"を表現している曲はないし、私がオマゴルをよく聴くきっかけも与えてくれた素晴らしい一曲だ。

3. TWICE / SIGNAL

ここにきて圧倒的女王集団TWICEが登場。

それにしてもSIGNALとは。こいつただ変な曲が好きな変人なのではないか。はい、変人です。

基本的にTWICEの曲はそのメジャー性を支えるべく極限まで研ぎ澄まされたキャッチーさとちょっぴりの外しがスパイスとなって完成度抜群のポップソングに仕上がっているものが多いのだが、なんですかこれは。『Cheer Up』『TT』などデビューからほとんどのシングル楽曲を手掛けていた2人組プロデューサー・Black Eyed Pilseungの手を離れた瞬間にこれ。誰が作ったのかと言えば、冒頭で高らかに自己紹介する「JYP!」。そう、J.Y.Parkだ。

明らかに既存の売れ線K-POPから外れた、ベースの効いたモータウン的シャッフルビート。一聴して異質さが飛び込んでくるが、サビに向かうにつれてTWICEのキャラクター性がこれを「ポップス」に矯正してしまうという、このバランス感覚がたまらない。

▲リズムはこのあたりのジャンルからの引用だろう

K-POPってこんなに面白くしていいんだと驚嘆したし、中でもJ.Y.Parkは前述した「チキンレース」のプロだと痛感した。

4. TWICE / JALJAYO GOOD NIGHT

TWICE最強のカムバ曲『LIKEY』や最近TikTok経由でリバイバルを果たした『LOOK AT ME』を擁するアルバム『twicetagram』の最後を飾るのがこちらの『JALJAYO GOOD NIGHT』。リアルに一番再生した回数が多いK-POP(なんならK-POPに限らず"音楽のすべて")はこれかもしれない。なぜなら毎晩狂ったように聴いているから。

アコースティックギターの音色にメンバーの優しい歌声が重なり、夜の眠りに誘ってくれるというファン垂涎(よだれをたらして眠りにつくという意味で)の内容となっている。耳が幸せです。

5. Bolbbalgan4(赤頬思春期) / Tell Me You Love Me

アコースティックでチルな曲が来たのでこちらについても語りたい。K-POPヒットチャートは商業的な理由でほとんどがダンスグループによって占められているが、売れている音楽の中にも僅かながらシンガーソングライター的なアーティストが存在する。そのひとつがギター&ボーカルユニット、Bolbbalgan4だ(現在はボーカルのアン・ジヨンによるワンマン体制)。

韓国での大人気に比べ、日本ではTikTok等で曲を聴いたことがあるひとがいる程度で国民的知名度にはまだ遠いと言っていい。しかし一聴してわかる声の良さと曲の良さで誰もが愛せるポテンシャルがあると思うのだがいかがだろうか。

絶賛ファンクラブ会員。ひとりで来日ワンマン行きました

韓国ドラマの最後に流れそうなアクのない清涼感。耳馴染みの良いアコギ主体のポップサウンド。何より永遠の思春期を体現する美しい歌声が本当に魅力的。これからもファンで居続けたいアーティストのひとりだ。

6. IZ*ONE / Airplane

彗星の如く現れたIZ*ONE。私はNiziUブーム以後の人間であり、K-POPにのめり込んだ時にはもう解散していた。革命的な存在感をもたらした伝説的グループのメンバーたちは、それぞれの活動形態へと旅立って行く。その栄華を肌で感じることはもうできないが、残された作品群で当時のムーブメントに想いを馳せることはできる。

AKB48系列のオーディション「PRODUCE 48」出身のグループだけあってシングル曲はどこかAKB流というか日本アイドルらしい雰囲気を残した曲が多い印象だ。高音域をこれでもかとキンキンに攻めるボーカルに、楽器やサンプルを重ねまくった重めのビート。明確に日本と韓国のフュージョンを目指した音楽モデル作りが興味深く、両者のファン層は見事に互いの市場へ取り込まれたことだろう。

そんなIZ*ONEの中ではこの『Airplane』がいちばん好きだ。私好みの8ビートポップで、題材に似合う軽やかな音作りも可愛い。アルバム曲ながら知名度もあるようで、YouTubeの公式音源は執筆時現在380万回再生を獲得している。彼女たちの存在がどれだけ大きかったのか、推して知るべしというところであろうか。

7. Weeekly / Tag Me (@Me)

ここからはコロナ禍以降のリリース。私もリアルタイムで追っている世代となり、音楽的にも一気に時代が進んだ印象になる。まずは当時期待の新星だったWeeeklyのデビュー曲から。

冒頭から掛け声で始まるなど個人的にもろドストライクのチアリーディングなモチーフを取り入れつつ、マイナー調に仕立ててロックっぽいカッコよさを演出しておりこの時点で百点満点だ。そして続く2コーラス目で突然にテンポが半分に落ちるラップパートがカッコよすぎるではないか。サウンドが一辺倒にならないぶつ切り感が非常に斬新で、今っぽさを感じる。

個人的に好きだったジユン(チューバを持っている)が脱退してしまい、最近はコンセプトもなんだか迷走中なのでこの頃の安定感が戻ってきてくれたら嬉しいなと思いつつ、今の感じも新しいファン層にリーチしてそうだからいいか。

8. Cherry Bullet / Love So Sweet

80年代シンセポップリバイバルの流れを汲みつつも、空白をうまく使ったクレバーなサウンドが心地よい。派手派手でアツアツなサビと、そのあとに来る冷たいシンセのパートの寒暖差がえげつないのでK-POP史上最も風邪をひきやすい一曲だ。盛り上がりからの落ち着きぶりは夜神月のコラ画像に匹敵する。

やはり「引く時に引く」というのはスマートさの秘訣なのだと実感する。ガッチャガチャに音を詰め込みまくったパーティサウンドももちろんそれ特有の高揚感があるが、一方で明暗のコントラストをつけ、静寂や休符をうまく使った曲は技ありだなと思う。

9. Rocket Punch / Ring Ring

反対に"詰め込みの妙"を体感できるのがこの『Ring Ring』だ。こちらも上の一曲と同様シンセポップ全開のNEWTROサウンドだが、全体的に忙しない譜割りのメロディで聴いている方はどんどんアクセルを踏み込んでしまいそうなドライブ感に引っ張られていく。

特にドロップの終わり「♪ジャンデン〜ネ モリ、ソゲ、Ring a ring a ring」の部分が顕著。これ恐らく楽曲制作当初の段階ではもう少し遅い状態かシャッフルのリズムで作ってあって、メロディが決まってからテンポを早めたのではないだろうか。

ただ"早い"というだけでこんなにも"気持ちいい"ことに気づかせる展開がコペルニクス的大胆さとでもいうか、数年後にじわじわと流行り始める「Sped Up」ブーム(既存の曲を早回しにして独特のチルさや高揚感、可愛さをねらったリミックス)の先駆けだなんてこじつけてしまうこともできそうだ。

▲実際テンポが遅くハネたリズムの別バージョンも公開。もともとこういう感じの雰囲気で作られていたものをリユースしているのだろうか。私の指摘もあながち間違いじゃなかったのではという気がしてくる。

10. OH MY GIRL / Dun Dun Dance

▲発音がめちゃくちゃ上手なので敢えて日本語版を載せる

いい音楽、いいメロディ、いい歌声、完成されたビジュアル、余裕ある佇まい、メンバーの個性。何も言うことはない、OH MY GIRLがここに来てリリースした『Dun Dun Dance』は数少ないど真ん中ストライクの"完璧"にたどり着いた一曲だ。

メンバー全員がきちんとやりたいことをやっているように見える近年のコンセプトの方が肩身が狭くなく、聴き手としても安心感がある。かっちり世界観が固まった初期オマゴルの天使っぽい雰囲気ももちろんいいが、2020年代を生きる我々には個性を発揮している今の姿の方がより輝いて見えるはずだ。

そんなリスナーのモードを敏感に感じ取った結果として生まれたのが自然体の極みたるNewJeansなのだろうが、彼女たちについてはまた別の話としておく。

11. TWICE / SCIENTIST

話が前後するが、私がOH MY GIRLにハマっていたのはそれまで"かわいい"TWICEが不在だったからという理由が大きくある。NiziUからK-POPにハマり、JYP繋がりで『TT』や『LIKEY』なんかの頃のTWICEにのめり込んでいった私にとってガールズグループといえば自信に満ち溢れてキャピっとして明るく元気でかわいいイメージであったのだが、ちょうどその時点のTWICEはどうなっていたかというと、

ビューティ…

ゴージャス…

ラグジュアリィ…

な感じで、綺麗な大人のお姉さん路線に走ってしまっていたのだった。これももちろん悪くはないのだが、やっぱり"あの頃"の可愛さをリアルタイムで体感できなかった渇望は心の奥底から拭いきれない。代わりに、それを埋めるように直球ポップス路線を攻めてくれたオマゴルやその他ヨジャグルをよくディグって聴いていたのだった。

▲"あの頃"のTWICE

さて、そんな中JYPもとうとう折れたのか2021年秋の『The Feels』で女の子っぽいコンセプトに舞い戻った。ガールズ、ガールクラッシュを経て今は自由型とでも言おうか、聴き馴染みある往年のキャッチーさを携えながらも暗くなりすぎず、若いだけの軽薄さもない見事な「TWICEサウンド」を送り出し続けている。

▲『The Feels』が出た時の衝撃ったらなかった。これこそTWICEだ!

その流れの中でリリースされたのが今回取り上げている『SCIENTIST』。一聴するとモコンモッコンしたベースが鈍重な印象なのだが、上に載っているメロディやパーカッションのハネ感に注目して聴いているとだんだんとその凶暴なグルーヴ感に飲み込まれていく。曲の終盤では盛り上がりが最高潮に達し、謎の腕広げダンスでフィニッシュ。噛めば噛むほど味の出る、アメリカのバブルガムみたいにやみつきの一曲だ。

12. TWICE / Talk that Talk

その流れでもう一曲TWICEから紹介しよう。すでに長々と早口になっていることから分かるように、私はTWICEのオタク・ONCEである。そしてTWICEでいちばん好きな曲はなにか、と聴かれたらこれを挙げる。『Talk that Talk』だ。

一拍目をカットして「ンバババ、ンバババ」と鳴るベースがミドルテンポながら緊迫感を演出。歌は全員の声帯のオイシイところを使いながら、時折「トトット〜」とか「ビビッビ〜」とか可愛いフレーズを挟みつつ、休憩の余地がなく敷き詰められたメロディを掻い潜っていく。たどり着くのは惜しみない爆発力のサビ。いくらなんでもメロディラインが強すぎる。あまりにも情報量が多い。3分間で摂取できる音楽的興奮の上限値をやすやすと超えてくる。

真似しやすいポーズのダンスや、シャーシャーシャー(『Cheer Up』のサナ)みたいに突飛で親しみやすいな要素はむしろこの完成度を邪魔してしまうだろう。すべての一瞬一瞬が、小技、小技、小技の連続だ。ただひたすらに音の気持ちよさの真ん中をミートし続ける曲の作りは職人芸的ですらある。聴き惚れていると3分が終わる。また再生する。その繰り返し。

13. NAYEON(TWICE) / POP!

TWICE関連では最後の一曲。永遠のセンター・ナヨンが2022年の夏にソロデビューした。たいていソロといえば歌声をのびやかに聴かせるのんびりした曲調が多いものだが、JYPはやってくれました。どうしてこうも、顧客が本当に必要だったものをピンポイントで納品してくれるんでしょうか。これですよこれ。いちばん聴きたかったサウンド。

散々持ち上げている『Make you happy』などのチアサウンドに対し現代的な解釈を与えると『POP!』が出来上がるだろう。テンポは速くなり、裏拍のスネアが軽くなる代わりにバスドラムの配置でグルーヴさせていく。クラシカルな元気ガール的印象も見せつつ、きちんとトレンドを押さえたファッショナブルさも抑えてくるという。なんならTWICE本体の名曲陣を超えた良さすらあるのが恐ろしいところだ。

14. LOONA / HULA HOOP

絶対に間違いのない超大手、安心と信頼のTWICEに続いて紹介したいのがLOONAというグループ。2021年に日本デビューを果たした。「今月の少女」という日本での活動名は気になるが、デビュー曲の『HULA HOOP』はガチ。正直その辺のグループなら軽く蹴散らせるくらいの暴力的なキャッチーさで殴りかかってくる。

それもそのはず、楽曲制作には件のOH MY GIRL『Dun Dun Dance』やWeeekly最大のヒット曲『After School』に加えのちのIVEの曲を手がける凄腕Ryan S. Jhunがクレジットされているのだ。バリバリっとした未来的なシンセの中で縦横無尽に歌声が弾け回り、始めに述べた"ジェットコースター感"を最も体現しているのは個人的にこの曲だと感じている。

とにかくメロディがすごい。絶対にカラオケでひとりでは歌えない派手さに加え、掛け声がいいタイミングで挿入されてくる。繰り返されるコード進行には少々クセのあるⅢのコードが登場するが、それも完璧に乗りこなしつつワンパターン化を避け、きちんと楽曲に情緒性を持たせているのがプロの仕事だ。

歌詞もかなり秀逸というか、頭がいい。変に長文の日本語で失速するくらいなら、単語レベルで散りばめる程度にしておいてあとは英語を歌わせる方が確実にカッコよくなる。

日本デビューの曲といえば、本国でお蔵入りになっていたのを掘り起こしてきたんじゃないかと思うほどにやっつけ仕事な仕上がりだったりすることがあるので気が抜けない。加えて日常的に愛すべきクオリティの面白Japanese Ver.が出現するK-POP界において、『HULA HOOP』は日本で戦うに十分違和感のない作品となっている。LOONA、本気だ。

ちなみに両A面のもう一方『StarSeed~カクセイ~』はSILENT SILENからボーカル・すぅが作詞、サウンドプロデュースのクボナオキが作曲を手がけており完璧にJ-POPの風合いに仕上がっている。

▲安心と信頼のTWICE、衝撃の日本1st曲。ダサい愛嬌たっぷりの日本語詞とメロディが逆にクセになる。ま、まぁまだこの頃は若手だしね……。

▲って2023年になったのに「ハレッハレッエッエッエ〜」って何も変わってないじゃないすか!やだー!。

▲『Hare Hare』といえばお疲れナヨンの動画も話題に。

15. Rocket Punch / ドキドキLOVE

先ほど『Ring Ring』でも取り上げたRocket Punch。元AKB48のジュリを擁することもあり、日本語の楽曲も積極的に発表している。中でもこの『ドキドキLOVE』はいい感じに肩の力が抜けて可愛くポップな良曲に仕上がっているので絶賛ヘビロテ中だ。

日本のファンを意識してか、ジュリのパートが特に主役級で楽しい。メロディがよく伸びて気持ちよく、ボーカルの魅力を最大限に引き出している。特にCメロを初めて聴いたときは、こんな綺麗な声だったの!?とびっくりした。今後の注目度も爆上がりになるナイスな歌割りだと感じる。

16. STAYC / Bubble

ミドルテンポの可愛いポップスといえばこちらも超グッド。初期〜中期のTWICEを支えた作曲ユニット・Black Eyed Pilseungが自らプロデュースする神曲連発グループ・STAYCの最新曲だ。

2020年のデビューからガッチリとハイクオリティの曲を引っ提げ登場し、一気に注目株に躍り出た彼女たち。ガールクラッシュ全盛の時代においても安易にそちらへ傾倒せず、一貫してハイセンスな楽曲を武器にしていた。そんな中今回は全てを吹き飛ばす快活明快でスーパーサマーな清涼ソングをリリース。こんなんみんな好きでしょ。

STAYCの中では最年少ながらK-POP史上稀に見るクールな低音ボイスが魅力のメンバー・Jが特に目立つ印象だ。この声を活かすボーカルレンジの広さと、楽曲アレンジの上手さが彼女の魅力を後押ししている。さすが、Black Eyed Pilseungのやることなすことは一筋縄にいかないようだ。

17. NiziU / COCONUT

夏ソングといえばNiziU。『Super Summer』でその爽やかな相性をファンに知らしめ、翌年『ASOBO』ではTWICE『Dance The Night Away』に続くJYPの新たなサマーガール像を打ち出した(私は前述の音楽的好みからどちらかといえば『Super Summer』のハイテンション全開な感じが好きだったが)。

そして2023年はどうかというと、やってくれました。『COCONUT』は最高です。個人的にはのちの韓国デビュー大成功の布石にもなる"良曲マシーン"NiziUの躍進がこのあたりから再燃したような感覚がある。とにかく曲がいい。

NiziUの曲作りはJ-POP市場を明確に意識しつつ、その中でどれだけK-POP的サウンド像が通用するかを試行していくという難しい勝負の連続だ。『COCONUT』ではそのバランスが50:50、いや120:120くらいの魅力度配分を持って実現しているように感じる。音楽だけに注目すれば全体を「チャッカチャッカ」という細かいハネのリズムが串通しにする難曲だが、その中でできうる最大限のキャッチーなメロディが秀逸。結果的に子供から大人までわかりやすくもカッコいいサウンドを構築してみせた。

『君は天然色』のダンダンッダダンダンに始まり、夏ソングで言えばEE JUMPのお〜っととっとっなっつっだっぜっなど、いっせーので鳴らす"キメ"はキャッチーさの秘訣だ。その点に注目して『COCONUT』のサビ前を改めて聴いてみてほしい。

「ダッダッダダッダッダダッダッダ、バーン!」である。

凄まじすぎる。なんならタメにタメすぎてサビの小節頭まで侵食してしまっているのだから、その反動は極限を超えてビっと張られ放たれたスリングショットのように強烈。それ単体では優しさすらある「It's just you and I」のメロディに爆発力を与えている。

そしてこの曲のアツアツはまだ終わらない。最も私のテンションを爆上げしてくれるのはいちばん最後の「ココッコッコ ココナッツ」パート。軽やかに移調したラストサビが終わりを迎え、このまま高揚感のままにアウトロでフィニッシュかと思いきや急にドラムが消える。ベース主体のラテンなノリにぐわっと急降下してグルーヴィなサウンドが牙を剥き、マユカの「Where do you wanna be〜」がキマってノックアウト。ニナの「コッコーゥ!」でまたもや急上昇するという、シリキ・ウトゥンドゥ顔負けのフリーフォール体験で最高潮へ。

これ以上の曲を2024年の夏に用意できるのか、嬉しい不安を抱えてしまうくらいには完成度の高い一曲。夏でも冬でも構わず一日に一回は聴きたい唸らせソングだ。

18. aespa / Hold On Tight

最強カッコ可愛いギャル集団としてお馴染みのaespa。圧倒的ビジュアルと歌唱力に加え、SMエンターテイメントらしい変な個性的な世界観で唯一無二の存在感を放っている。

そんな彼女たちから今回一曲紹介するにあたり、コレ!?となっているファンの方もいるだろう。こちらの『Hold On Tight』はApple TV +限定で配信されている大ヒットゲーム誕生を題材にしたドラマ『テトリス』とのコラボレーションソングとして制作された、言って仕舞えばイロモノ枠の楽曲なのだが、どっこいとてつもなくカッコいいのである。

▲公式の音源がないので懐かしいSEIKINのカバー動画でご容赦ください

落ちものパズルゲームの祖として知らない人はいないであろうテトリス。発表当時あまりの面白さに多くの廃人を産み、これはアメリカを堕落させるためにロシアで開発したのだとか、実際このゲームひとつで世界全体の生産性が下がり経済損失を産んだ分が100兆円を超えたとか、そんな眉唾話が生まれてしまうほどに魅力的で超有名なゲームだ。

BGMにはもとロシア民謡の『コロペイニキ』が流れるが、今回『Hold On Tight』ではそのメロディーを大胆に使ってカバー曲としている。当時の雰囲気を再現するためのサウンドは単純なNEWTROにとどまらない。映画『トロン:レガシー』でDaft Punkが、ドラマ『ストレンジャー・シングス』でKyle & Michaelのコンビが挑戦した80年代シンセサウンドの復活をも彷彿とさせるギラギラのコンピュータ・ミュージックが耳に楽しく、少年心をくすぐるサイバーな一曲に仕上がっているのだ。ギークな皆さん、必聴です。

▲トロンといえばこれのBメロシンセがめちゃDaft Punkだなと思っている

19. YENA / Hate Rodrigo (Feat. YUQI ((G)I-DLE))

元IZ*ONEのイェナはデビュー曲『SMILEY (Feat. BIBI)』から一貫してティーンポップロック的なコンセプトの楽曲を投下し続けてきた。アヴリル・ラヴィーンなんかを想起させるあの頃のアメリカンなサウンドがK-POP界では逆に新鮮で、現在までファン層を拡大し続けている。さまざまな方法論で噴出しているY2K(Year 2000の略)リバイバルカルチャーに対するひとつの回答をイェナが提示し続けていると言い換えてもいい。

そんな彼女の2023年夏カムバはティーンカルチャーへの痛快な参戦表明を携えた『Hate Rodrigo』。そう、これは同じくこのジャンルを牽引するオリヴィア・ロドリゴへのあまのじゃくなラブコールであり、イェナがやんちゃに魅せるリスペクトの表れでもある。この辺のスタンスが一部うまく伝わりきらなかったり、MVに登場したロドリゴ作品に断りが入れられていなかったりしたようで少々世間を騒がせてしまった背景もあるが、個人的にはそれすらもサンプリング的カッコよさの範疇だと思えてしまう。今回はうまくいかなかったが、商業作品ながら強気に流行発信へ切り込んでいくアティチュードは手放しで評価したい。

なんにせよ、音楽自体に注目するとこれが最高にイカす仕上がりなのは間違いない。世界市場ではロックが死んだと言われて久しいが、そんな中で敢えてのリバイバルに挑んだ本作。ギラっとパワーに溢れたギターサウンドを天真爛漫なイェナのスマイルと合わせてパッケージングしてみると、これがもうとんでもなく可愛い相乗効果を生み出してしまう。あの頃10代だったすべての少年少女たちに向け問いかけられたイェナからの緊急コールに胸を躍らせよう。

20. NewJeans / Attention

えん、ケベーケベーでエゥエゥ。エベーエベーでエゥエゥ。

いくらカッコいい曲が多いK-POPといえど、今まではそこにあくまで「商業音楽」の枠に収まっているからこその縛りプレイを楽しむ感覚があったというか、このジャンルをオススメする際の常套句「曲がいい」の前には往々にして「(アイドルなのに)」という隠れた前置詞が潜んでいるケースが至る所で見られたように思う。しかし2022年の夏、世界は一変した。ほならいっちょ本気で本気の音楽やりますかと天上界からミン・ヒジンが降臨し、金字塔的アンセムを地上の天使たちに授けた。その名を『Attention』。彼女たちはNewJeansという。

いや、カッコよすぎるでしょう!!こんな曲出されたらそりゃ業界のブームが塗り変わりますって!!2年経ちましたがまんまとイージーリスニングの時代が来ちゃっとります!!降伏!!!!

NewJeansの曲に関しては、良すぎてもう何も言うことがない。このあとに続く『Hype Boy』『Ditto』『OMG』『Zero』そして『Super Shy』『ETA』…。すべてきちんとY2KなNewJansの世界観だし、それでいてきちんと新たなジャンルを取り入れてもいる。試行錯誤とか成長みたいな言葉すら似合わない。彼女たちは最初から自然体そのままで完成していて、何をやってもちゃんと上手い。恐ろしすぎる。

21. NMIXX / Roller Coaster

そんな大イージーリスニング時代においては音数を抑えてしっとりしたサウンドや頑張らずに自然なメロディが流行し、曲自体もどんどんと短くなっている。これは可聴時間を伸ばして再生数を稼ぐための自然選択が働いた結果といえる。サンプルをごった煮にした大迫力のサウンドだらけだった時代に比べある種の緩やかな革命が起きたとも言って差し支えないだろう。

各グループで独自の浮遊感を研究し、それぞれの形で"心地よさ"を表現しているがその中でも特に光る一曲を紹介したい。NMIXXの『Roller Coaster』だ。

いきなりドラムループのサンプルから始まる90年代感がまず満点。そのあとはオルタナティブなコード使いで流れるような美しいサウンドを構築しつつ、次々とクレバーにチューニングされた楽器たちが折り重なってゆく。そしてCherry Bulletしかり最近流行りの「Shh…」を挟み訪れるサビ。気持ちの良い「Shooting star roller coaster, ri-ri-ride」のメロディの裏で、ボカンボカンとベースが暴れまくる。ヒョーっ!重低音ズシンズシンなシステムで爆音を流したくなる。シンセの音使いに耳を傾けているだけで自然と体が動いてしまう、音楽の楽しさを感じる一曲だ。

そしてもう一点指摘するとすれば、この曲、2コーラス目のメロが極端に短い。明らかにサビが気持ちいいので、前座を2回も長々と聴いてもらう必要はないと言うことか。ストリーミングや縦型動画の普及によってイントロでいきなりサビを歌い出す曲が増えたというが、それに似た現象として「サビの配分が大きい」というのも新時代型の曲作りなのだろう。彗星のように突然やってきては去ってゆき、また何度も聴きたくなる爽やかさに酔いしれたい。

22. Kep1er / Galileo

大人気だった超大規模オーディション番組「Girls Planet 999」出身の日韓中合同グループ、Kep1er(ケプラー)。数字でアルファベットを代用する感じがイマっぽくてかっこいい(カタカナで書くとほのかに文房具っぽい感じがするのは私だけだろうか)。ガールクラッシュに屈せず元気満点な楽曲を連発して楽しませてくれていたが、本曲『Galileo』では一転して大人っぽい世界観を見事に演出している。

ミニマムなビートの上でファンクなギターが踊り、「ルキルキマイハ〜」のメロディが可愛さをプラス。イージーリスニングとラグジュアリーな雰囲気を接続し、見事成功した事例のひとつだ。

オーディション時代から人数の多さを感じさせる分厚い掛け声のパートが彼女たちの楽曲の特徴となっており、基本的にソロの歌を回す歌割りが多いK-POP界ではいいアクセントとして機能している。今回の『Galileo』もラストサビ前にしっかり掛け声パートが入っており、これぞ!と手を叩きたくなるKep1er節が楽しい。

23. NALALA / &ME

オーディション繋がりで言えばこちらも外せないだろう。「日プ女子」の愛称で人気を博した番組「PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS」だ。

Kep1er含めオーディション形式による盛り上がりを経て日本デビューしたアイドルも多くなってきた中で、選考の課題曲に注目が集まるのもお決まりのパターンとなってきた。今回の日プもかなり粒立った名曲揃いで目が離せないのだが、特にこの『&ME』がスゴい。

課題曲は候補生の実力測定も兼ねるため、最終局面に近づくほどかなり攻め攻めで難しいものになっていく傾向があると思う。『&ME』もその例に漏れず、初っ端から超高速のバリバリなトラックに載せてバチっと当てる高音域の「Butterfly〜」。これ、相当に難しいと思うのだが、完璧にモノにしていて気持ち良すぎる。

そしてやってくるサビのあとの「Take me, you and me!」パートではなんと3連譜のリズムにいきなりチェンジ。こういうカンフル剤的な一発芸も大好物なのでこの時点で優勝だ。リズムの切り替わり方が逆LIMBOともいえるか。

▲NMIXX『O.O』、aespa『Next Level』などテンポ自体が変わる例もあるがリズムの取り方だけを変える曲ならやっぱりNATURE『LIMBO!』が最強だと思う。なにこれ。

24. ME:I / Click

さて、そんな日プからデビューを果たしたのがME:I。待望のデビューは流行にきちんとならった爽やかな洗練感がありつつボーカル・ダンスの上手さも発揮できる攻守ともに完璧な『Click』で果たした。

この曲が証明しているのは結局音楽の良さがいちばんの武器になるのだということ。事前の盛り上がりや話題性、ビジュアルがどれだけ優れていてもいいコンセプトと音楽でパッケージングしなければよいものにならない。カルチャーを見据えてきちんといい曲を用意し、最高の演出で飾ればもうそれは無条件で最高のK-POPになり得るのだという当たり前の気づきを与えてくれた。

音楽的に観察すると、明らかにJ-POP市場を狙いに行っていたNiziUと違って言語以外の部分は完璧にK-POPをやっているME:Iという対比も興味深い。これは時代性もあるのだろう、JYPがNizi Projectを通して新たなファン層へK-POPの土壌を広げ、そこにやってきてはファンをトリコにしていくのが今、日本で聴かれている2020年代K-POPグループの数々だ。日韓のアイドル文化がより密接に交わっていく明るい未来が、これからも広がっているに違いない。

25. ILLIT / Magnetic

誰もNewJeansに飽きていないし、むしろ彼女たちは永遠にまーだまだ最強の新入生だと思っていたらもう次の新星が参入してきてしまった。しかもいきなりものすごいクオリティで。なんてこったい。

『Magnetic』はイージーリスニングの系譜上に位置しつつも新しく"ゆめかわ"なジャンルを提示してきた。チルでドリーミーにポロンポロンと鳴るシンセの中である一定の速度を保ちながら歌声が浮遊していく。ストリートに馴染んでオシャレを楽しむNewJeansのファッションリーダー感ともしっかり差別化を図り、よりナイーブで室内的な可愛さを体現している。

ある程度強度のある派手なドラムサウンドながらこの軽さを表現できているのは編曲の妙としか言えない。甘い飲料は飲みたいけど体重が気になるという邪な思いをダイエット・コークが狙い撃ちしたように、ノリノリではいたいけど邪魔にならないサウンドがいいというわがままをILLITが叶えてくれた。安心して今日もヘビロテしよう。きっと次のカムバも最高の一曲をプレゼントしてくれるから……。


終了!

くぅ~疲れましたw これにて完結です!

少し喋りすぎてしまった。それくらいK-POPが好きってことだな。

いかがだっただろうか。有名な曲ばかりで新規性はなかったかもしれないが暇つぶしの一助にでもなっていれば幸いである。

次回、このコーナーでは邦楽を扱いたい。何気に自分の音楽リスナー人生を振り返るいい機会になったのでおすすめ。音楽遍歴を作り上げた十数曲をリストアップして想いを馳せてみるのも、楽しい試みとなるはずだ。

それではまたいつか。ありがとうございました。



▲J.Y.Parkのソロ曲。今回は扱わなかったが、やっぱりもともとの本業は歌手なのでなかなかいいです。なによりMVが自虐的で面白い。


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