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海と産み

3年前の8月2日、私は3人目の娘を出産した。
一人目は大きな総合病院で、二人目は赤坂にある助産院で、三人目は自宅で産もうと決めていた。

…のに、それは叶わなかった。
前置胎盤だった。

自宅出産の夢、儚く崩れる


自宅どころか家の近くのクリニックでも産めない、このままなら日赤に転院してくださいと告げられる。
なんとか、胎盤の位置が上にあがってくるようにと、できることはなんでもして、低置胎盤とギリギリ診断を受けたものの、出産予定日当日の診察で、子宮口に胎盤が被っているため、帝王切開になると告げられる。

もはや、切腹か…

女性って、母親って、本当にすごいと思う。
新しい命のために、自ら腹を切る覚悟ができるのだから。
日本ではじめての帝王切開術は、江戸時代に行われた。
そのときは、もちろん麻酔などなく、縫合も、子宮の壁はそのままにして、腹壁だけを縫ったそうだ。
それでも女は痛みに耐え、生まれてきた子を育て、80歳まで生きたというのだから、すごい。

しかしながら私は、「もはや、切腹致し方なし」と腹をくくるかと思いきや、「経膣分娩では、どうしても難しいですか?」と、訊く。
そう、簡単に諦めないのが私の取り柄。
ハイリスク妊婦と診断されていた私は、ドクターのシフトの手厚い日に出産を予定されていた。
その日、埼玉医科大から、院長よりも意見が通る凄腕ドクターが来ている日で、なんと、その先生が…

このお母さん、なんだかいけそうだから、できるところまでやってみようか

と言う。
「ありがとうございます」
「はい!がんばります」
と、満面の笑みで伝え、あとは、いかにスムーズに産むかに集中する。
そう、私は…出産が得意なのだ。

特技は出産

一人目は、分娩室に入って30分、二人目は、助産師さんを呼んで10分で生まれた。

一人目のときは、あと30分で生まれるというのがわかった。
二人目は、朝6時くらいに軽い神通(陣痛)が起こり、生まれるのは、今日の16時だとわかったから、そこに向けて準備した。

三人目も同様で、今日のこのくらいの時間に生まれるよと予告した通りに生まれた。
医師にも助産師さんにも30分前、10分前告知をしたにも関わらず、みな声を揃えて
「まだ生まれないよ」
と言い、取り合ってくれず、やっと5分前告知で
「あ!本当だわ」
と言われ、神通の合間にスタスタと自分で歩いて、急いで分娩室へ。

予告から3分で生まれた。
危ない、危ない…

海と同じ、陣痛には波がある

陣痛には、波がある。
だから、ずっと痛いわけじゃない。
ちょうど波打ち際にいて、波が引いたら、前に進んで、寄せたら、引き返しながら、美しい貝殻を探すように。
陣痛の合間に、どれだけリラックスしたり、例えば分娩台に移動したり、ご飯を食べたりできるかか重要。
海にいると、自然と身体に波のリズムが取り入れられて、ゆったりした気持ちになる。
本当は、私たちの生命にも、呼吸や、脈や、心拍や、内臓の躍動など、自然のリズムがある。

日常、忘れがちなこの自然のリズムを失うと、私たちは病気になるのかもしれない。

出産は、波乗りに似ている

もうすぐ出産という友人がいて、私が伝える「出産は最高のヨガ」について知りたいという。
出産は最高のヨガを一言で言うなら、どんなヨガの体験よりも、娘が生まれながらにして、私のチャクラをひらいてくれたからだ。
この話は、書き出すと専門的になりすぎるから、また今度にする。

出産は、波乗りに似ている。

波乗りをするときに、パドリングをして、たくさんの波を越えていく。
越えた先に、いざ乗れる波がきて、乗ろうとしたら、うまく乗れなくて通りすぎたり、うまく乗れると最高に気持ちよいものだ。

私はサーフィンは上手くないけど、お産サーフィンの選手権があったら、オリンピックには出場できるんじゃないかと思う。

陣痛中にできること

お産がサーフィンだとしたら、やはり、本番のライディングに向けて、いくら練習ができたかで、スムーズにできるかが決まる。
だから、陣痛中は、本番のお産ライディングの予行練習だと思って、波に乗る練習をすべきだ。

ベッドにうずくまって、痛い、痛いと言っていても何も変わらないばかりか、赤ちゃんは苦しい。
お母さんが、呼吸して、産道を開いて行った方が、赤ちゃんは、楽になるのだから。

痛いクライマックスのときに、四股立ちを

それなら、お産ライディングに向けて準備をしたいというあなたには、陣痛ヨガ&サーキットトレーニングをお勧めしたい。
できれば階段を見つけて、陣痛の合間、間欠(痛くないとき)の時間に、階段の登り降りをしましょう。
足元に十分注意して、グラウンディングを意識して、呼吸に合わせて行うと良い。

そこから、いよいよ陣痛の波が大きくなって、痛い!と思ったら、そこで、壁に手を添えて、息を吐きながら四股立ちをする。
吸って足を伸ばして、吐きながらまた四股立ち。
だいたい陣痛発作が30秒〜1分くらいだとすると、そのクライマックスの時間は、長息2呼吸〜3呼吸で、陣痛は引いていく。
つまり、2〜3回、四股立ちをするのだ。

こうして、分娩第一期(子宮口が開大に近づくまで)を過ごせば、あとは、ベッドで横になって、リラックスして、呼吸だけに集中すれば良い。赤ちゃんの頭が、仙骨を力強く押してくるのを感じながら、その時間は、仙骨や肛門付近を力強く押してもらうと楽になる。

充実した予行練習をしていたら、腹も決まり、脳内麻薬様物質もバンバン出ているから痛みも感じにくい。
あとは、気持ちよくいきむだけ。
それがまさに、至高体験なのだ。

いきむのが下手なのは練習不足なだけ

私は、いきむのがうまい。
それは、やはり、身体の機能を知識として知っているのと、出産の流れの原則を知っているからだと思う。
一人目のときは、いきむ度に、助産師さんに、うまい!と褒められ、二人目の出産の後は、端でみていた新米助産師さんに、御膳の上げ下げのたびに、素晴らしい、綺麗なお産を見せていただいて、ありがとうございましたと言われたものだ。

でも、それは、私がそれまで努力したからなだけ。骨盤底筋群のセルフコントロールをする地味な練習をひたすら重ね、苦手な四股立ちを練習し、陣痛中にも四股立ち、椅子のポーズ、蹲踞位をして過ごし、本番に望んだから。

誰でも適切な練習をしたら、できるようになる。
難しい練習ではなく、地味な練習をただひたすらに重ねることができるか…だけ。

自分の痛みより赤ちゃんの痛みを想像する

だいたい、陣痛か痛いという産む側の感覚よりも、全身を強く圧迫されている赤ちゃんの方が痛い。
自分の痛みより、赤ちゃんが楽になるために、できることは何か…に意識をフォーカスした方がよい。
「痛い!」と、身体を硬くして、お母さんの呼吸が止まってしまったら、赤ちゃんには酸素が供給されなくなるから苦しい。
お母さんが痛みの向こう側にいければ、赤ちゃんも楽になる。

トツキトウカ赤ちゃんを包む羊水は、綺麗な海水に似ている

痛みの話は、この辺にして、赤ちゃんが生まれてから、病院だとすぐ産湯に浸からせるところが多いかもしれないけれど、できるなら、タオルで拭う程度にして、せめて2〜3日は、お風呂に入れないくらいが良いと私は思う。
次女は、助産院で産んだので、それが叶った。

生まれたばかりの赤ちゃんは、海のにおいがするんだよ。
小笠原の綺麗な海と同じ香り。
そう、羊水は、海洋深層水と成分が似ているのだというが、まさに、赤ちゃんも、同じ匂いがするのだ。

だから、私は、海にいくと、いつでも生まれたばかりの我が子を胸に抱いた感動が蘇ってくる。
一人目も、二人目も、三人目も…
何度経験したからといって、同じではない。
どのお産も、新しい生命との出会いで、感動する。

海に行きたくなるのは、記憶のなかの小さな、そして宇宙一大きな存在だった娘たちに会いたいからかもしれない。

マタニティヨガのクラスでの出会い

私はもうあの感動には、出会えないかもしれないし、娘たちの孫をとりあげる日が来るかもわからないけど、マタニティの方々とヨガをして過ごす日々は、祈るような、あの日につながるような、かけがえのない時間となる。

亡くなった娘たちは、空から私を見ているだろうか。

長女は、3歳くらいのとき、私に
「ママの仕事は、赤ちゃんとお母さんを幸せにすることだよね」
といった。

次女は、5歳のとき三女が生まれて、私に
「ママに感謝していることは、もう一つあるの。(パパをつくってくれたこと以外に)
ゆうちゃんに、可愛い妹を産んでくれたこと」
といった。


二人の命の分まで、新しく生まれてくる命を守るお母さんたちの役にたてるようにと思います。

最後まで読んでくれて、ありがとう。


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