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整体師のキャリアアップ

先日、整体業界の市場調査ということで、大阪十三の街のマッサージ屋さんに飛び込み。大手リラクゼーションサロンのチェーン店の一つだった。そこで少し感じたことを書いてみようと思う。

店の雰囲気

よく見る「〇〇分〇〇〇円」という派手な看板を横目に階段で3階まであがる。足腰の悪い人や老人はこの時点で心が折れるだろう。つまりそれなりに健康な人を対象としているのだろう。

入り口のドアを開けて中に入る。受付カウンターに60歳くらいの男性スタッフ。
「こんにちは、飛び込みだけどいけますか?」と訊くと「ああ、ちょっと待って。コースどうしますか?」と返答。
私が「15分のコースで」と言うと「え?15分でいいんですか?」と返されたので「ええ、15分で」と再度伝える。
「わかりました、こちらに座ってください」と受け付けの隣の小さな待合スペースへ促され、受付票に名前や連絡先を書く。

とにかく挨拶がない。「こんにちは」「はじめてですか」「ようこそ」これらの言葉一つあるかないかで、こちらの気持ちが幾分でも変わるのに。あと少しでもいいから笑顔も欲しい。欲を言えば。

そして施術

受付を済ますとそのまま施術ベッドに案内されて施術開始。案内はスムーズだ。とにかく受付から案内まで無駄なことはしない。毎度同じことを何度も繰り返しているんだろう、というシンプルな接客。

施術は15分。本当に久しぶりに他院での整体を受けた。何年振り?

実は15分という施術時間はなかなかに難しい。さっと流して終わることもできるし、限られた時間の中で相手の要望や状態を見極めてジャストな施術をすること(しようとすること)もできる。しかし後者はかなり高度で、ほとんどの施術者は前者になる。

ただ同時言えるのは。15分で何もできない人は30分でも何もできない。私が15分施術をオーダーしたのもそういう意図だが、この60歳ほどのスタッフはもちろん私の正体は知らないまま揉み続けた。

施術はお世辞に褒められたものではなかった。一点集中で押しつぶすように揉むから痛い。リズムも悪い。言葉の会話もないが、身体への対話も全くないものだった。

施術終了

終わりがけに「次はもっと長い時間で受けてください」と言われた。
確かに横の2人のお客さんは、私より前から開始していて、私が終わってもまだ続けていたから、少なくとも30分以上のコースなんだろう。ここではそういうお客さんが多いのだろう。
私には15分で充分すぎた。「ありがとう」とお礼を言ってベッドから立ち上がった。

隣で施術している若い二人のスタッフは共に20代くらいに見えた。施術を受けながら少し観察したのだが、とにかく元気がない。うつぶせのお客さんから顔は見えないだろうが、死んでいるような顔でずっと施術していた。「静かに集中」という感じではなく、ただ「気持ちが入っていない」という感じで、とにかく黙々とそして淡々と揉んでいたのが印象的だった。

「もったり」一言でその場を表すなら、そんな言葉が思い浮かぶ。60歳くらいのおじさんスタッフと20代ほどの男性スタッフ2人、とくに会話もないこの3人が作り出していた空気感がそれだった。

その後上着を受け取り、お金を払って入り口を出る。なんとも言えない余韻を感じながら、1階までの階段を一歩一歩下った。

感じたこと。「将来設計」

率直に思う一番のことは「彼らの将来設計」についてだった。リラクゼーションサロンで一生懸命に仕事をこなし、指名客なども増えてくれば多少の収入にもなると聞いた。年収で300万、400万くらいになることもあると聞く。(もっと稼ぐ人もいるかもしれない)

しかしそれで何歳までやっていけるのだろう。また結婚して子供ができたりしたらやっていけるのだろうか。大きなお世話かもしれないが少し心配になる。

特に20代とおぼしき男性二人は、これから長い人生が待っている。しっかりと稼ぐためには、キャリアアップしていくことも必要だろう。技術を磨いてキャリアアップしていくのか、独立するなりして経営力でキャリアアップしていくのか。

この日見た感じでは前者の方ではなさそうに見える(もしそうだとしたらこの取り組み方では難しいだろう)。ならばこのように気の抜けた仕事をする時間はもったいないから、少しでも寸暇を惜しんで経営を学び、若いうちに独立開業にチャレンジした方が良いだろう。
60歳くらいの男性はどうすべき?私には分からない。きっと大きなお世話だろう。

そして思ったこと。整体師の本能

整体師のキャリアアップには技術を磨くか経営力を磨くかと書いたが、いち整体師として言うならば、技術のキャリアアップにはどん欲であった方がいい。なぜなら楽しくないからだ。経営に走ってしまうと。

「疲れたなんとかして」と言われて施術して「先生、すっごい楽になりました。お陰様でまた頑張れます!」と目をキラキラさせてお礼を言われる。「ここが痛くて辛いです」と言われて施術して「え、嘘!全然痛くない!どうして?先生すごい!!」と感動される。
こういう一瞬一瞬が単純だけれども何よりも嬉しくて「整体師をしていてよかったなあ」と心底思う瞬間だと私は思う。

逆に言えばこういう瞬間を少しでも増やしたくて整体師は技を磨く。これは昔も今も変わらぬ整体師の本能だと思うのだ。この本能から逃げてはいけない。もっとも美味しい果実を取りに行かないで、経営だけに走ってしまうと単なるビジネスになってしまう。ビジネスがだめだとは言わないが、それなら人の健康を左右する整体でなくてもいいのではないか?

「一瞬一瞬を大事に技術を磨こう。仕事はそのまま学びである。そういう整体師だけが技術でキャリアップできますよ」

そんなことをあの二人に伝えたく思う、そんな市場調査第1弾だった。

三宅弘晃


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