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大好きで苦手なライブハウス


大好きだ、と思える何かがあるってかなり幸せな事なんだと思う
大好きなバンドがいて、大好きな曲があって、自分はそれらに生かされている、と冗談抜きで実感している


ロックバンドはライブハウスが主戦場
地下は地下であり続ければ良い

私は別にそうは思わないけれど、
やっぱり大規模会場でエンターテイメントとして音楽を提供されるのではなく、生きている音を生身でぶつけられるライブハウスに行きたい
暗くて小さな空間からとてつもない熱量が生まれ、人から人へカタチにも言葉にもならない何かが確実に伝わる場所


ライブハウスへの気持ちを強く綴ると、ライブハウスを愛してやまない人間だと思われるだろうが別にそういうわけではないし、むしろ苦手な部分も多い
大好きだと思えるものからしんどさを感じた事、生きる希望をいただいているライブハウスから冷めを感じてしまった事
ここ数年その感情をやけに強く感じてしまったライブを忘れたくないし忘れてはいけないと思うから、ここに書き残そうと思う



2022.12.7
インナージャーニー×ねぐせ。

自分が普段聴くジャンルと全然違う2バンド
それでもライブハウスで彼らの音楽を聴きたいと思ったのにはちゃんとした理由があるが、上手く書ききれる自信はないからやめておく

かなり良い整番、最前でずっと聴きたかった彼らの生の音を真正面から受けようと思っていた

でもそれは無理だった

制服姿に通学バッグで幅広く場所を陣取る女子高生たちの、拳を突き上げるわけでもなく顔に手を当て聴き入る姿
そこは私が知っているライブハウスではなかった 
彼らのファン層はそういう人である事はもちろんわかっているし、制服でライブハウスに来てはいけないというルールもない

サコッシュすら持ち込まず、身一つで立ついつもの私
たぶんあの日のライブハウスでは、私の方が浮いていたんだと思う


ライブハウスがこうあるべきという固定概念はないのかもしれないし、音楽は幅広いからこそ個々の魅力に取り憑かれる人がいるわけで
わかっちゃいるけどいざそれを目の当たりにすると、自分の知らない姿になったライブハウスを見たくなかったと思ってしまった


メンバーによるグッズ販売を行うというアナウンスと共に終演し、ほとんどの人がフロアに居残る
ドリンクだけ受け取り、早々と外気の元へ急ぐ私
すぐ近くにあるコンビニでプルタブを開け、久しぶりにたばこを吸った
数分後、そこには同じ動作をする人が何人かいた
自分と同じ感情を持っているかもしれない人が、あのフロアにいた事が嬉しかった
少し救われた気がした


無意識的に女性ボーカルを聴かない自分でも好きだと感じるバンドと、今じゃ名古屋を誇る若いバンドにまでなった彼らの音楽自体は変わらず好きだ
しかしこの日、バンドは音源より生の方が圧倒的に良いと思っていたが、必ずしもそうではないことを痛感した
たぶん彼らの音楽を生で聴くことはもうないだろう



2023.6.22
SIX LOUNGE×ROTTENGRAFFTY


大好きなラウンジのツアーが大好きなダイホで開催される
扉を抜けるとまず目に入る、照らされたSIXLOUNGEの文字が浮かぶ大きなバックドロップ
それだけで最高の日になると確信していた

ロットンは正直名前しか知らなかったが、このライブが決まり定番曲を少し聴いた
メンバーも年齢層が高いことを知り、新鮮な気持ちでライブに行ける事が楽しみだった

ソワソワしだすフロア、少しずつ前へと人が動く
おそらくラウンジファンだろうという気だるそうな女の子がロットンファンの波に舌打ちをする
ぶつかってきた人に体当たりをし返す


目を疑った


対バンライブで相手のファンにそんな態度を取る人間が存在するのか
好きではなくとも出演バンドを暖かく迎え、音を体感する事が普通ではないのか
ラウンジだけ見たいなら、はじめは後ろの方に下がっていればいいのに

始まる前から嫌なものを見た
気分が一気に落ちた


いざロットンのライブが始まると、メンバーははやくもダイブ
だがフロアにできている人の溝
ロットンを俯瞰でみるラウンジファンの多い事
ダイブしたは良いが、あまり進めないメンバー
若いやつらに俺らオヤジの良さを見せつけてやろうぜ、とメンバーもファンを鼓舞する

なぜかロットンとファンに申し訳なくなった
私が大好きなSIXLOUNGEのファンには、こんな失礼な人が多いのかと落胆した

ダイブするバンドが好きというわけでもないし、好きでないバンドを全力で楽しまないといけないとも思っていない
でもさすがにあの日のフロアは酷かったと思う

そんな中でも全力プレーで音を届けるロットン
それに拳で応えるファン
その姿だけを視界に入れようと、知っている曲はほとんどなかったが私も前へと進む


ロットンの出番が終わり、セットがラウンジのものへと変わる待ちの時間
最前で楽しんでいたロットンファンのお姉さんが、後ろにいた私に場所を譲ってくれた
無言で去るのではなく、私に声をかけてくれた

それだけでさっきの出来事が吹き飛んだ
お姉さんに心から感謝した
ロットンとファンのことは何も知らないけれど、この日で素晴らしいバンドなんだと確信した
優しさと共に得た最前で見たラウンジは、過去一カッコよく見えた


MC中、ロットンメンバーはラウンジへの愛のあるいじりをした
優盛氏はロットンへの愛を語った

彼らのお互いへの想いを全て汲み取る必要はないが、その敬意と尊重はファンにも必要であると痛感した夜だった


2023.7.18
MO'SOME TONEBENDER×w.o.d.

この日は過去最高レベルに不愉快になった気がする
開場から開演までのあの時間すらもうしんどかった


どいてくれません?
私の横に並んできた女の人に言われた一言
驚きすぎて素直に横にズレた私
私が先にいたし別にまだフロアはゆとりがあるのに、と冷静になって考えたが、トゲのある言い方に気が滅入った

私をずらし、入ってきた彼女は目の前にいた女性に声をかける
ああ知り合いがいたのね、
それで済むかと思ったが2人して大きな響く声でおしゃべりを始め、周りの人も2人をちらちら見ている
そして遠くに別の知り合いを見つけたのか、人の頭を跨いでさらに大きな声で話し続ける

図書館でもないし静かにしなければならないわけではないが、常識の範囲ってものがあんだろ、と心でぼやく私
身一つで来ている私はイヤホンも持ち合わせていないから、嫌でも会話が耳に入る

どうも彼女らはツイッターで知り合ったらしい
どうせ今日もあの曲はやるよね
前のライブが過去最高だから、あれを超えてくるわけはないな
あの界隈ではこうだからな

ああ無理
こういう会話を平気で人前でする人が苦手
自分の世界だけが正解だと思っている会話
自分が捻くれているのは重々承知だが、やっぱりきついこういう人
普段なら耳に入れないようにするが、今はその手段がない事にもどかしくなる


でかい声での会話はなんとライブ中にも続いた
私はお前らの声を聴きに来たわけではない
3人のヘビーすぎる重低音
熱量の溢れたサイトウさんの声
それを感じに来たのに、なぜ知らない人の不快な会話を耳に入れなければいけないのか


そしてこの日、過去最高に声が出ない、申し訳ないとサイトウさんがつぶやいた
しんどそうな表情で歌い続けるサイトウさんと、少し心配そうな横目で見るケンさん
心配と無理をしてほしくない気持ちで、こっちも苦しくなる



初めて見るモーサムは不思議なオーラを放っていた
静かなる熱を発していた彼らとそれに沸くファンを一緒に視界に入れたいと思い、後方から見ることにした

名古屋のクアトロは上からステージを見下ろす関係者の袖がなく、フロア後方の一般客のすぐ横に関係者ゾーンがある
そのため後方からステージを見た私の目の前を、w.o.d.が通っていく
モーサムのライブ中、そのゾーンで悔しそうにステージを見つめるサイトウさんのあの表情は忘れられない
僕もモーサムの1ファンです、と笑顔で語っていたからこそ、本当に悔しい感情が滲み出ていた
その瞳の先にいるモーサムは熱く輝いている
私が大好きな音を出す彼が憧れる人を、私も正面から受けたいと思い、ステージを目に焼き付けることにした

フロアの関係者ゾーンからバーカンへ向かうのには、もちろん客の合間を通ることになる
ステージにはモーサムがいるのに、その姿しか目で追っていない人間が何人かいる

吐き気がした


さっきまで私たちを熱くしてくれた人は、今悔しさを噛み締めてステージを見つめてんだぞ
もっと強くなってリベンジさせていただきたいと語りステージを降りた彼は、今も熱い目で憧れを受け止めてんだぞ
ファンである私たちが、彼の憧れる人がいる今のステージを見ないでどうする
関係者ゾーンとバーカンを、野次馬のように着いて回ってどうする

呆れと怒りでよくわかんない気持ちになった
私が心配したりおせっかいを焼く事ではないが、残念でならなかった



帰り道、普段ならその日のライブを事細かに脳内再生し余韻に浸る
この日の思い出される光景にはステージはなかった
不愉快に感じた瞬間ばかりで、そこしか再生できない自分にも腹が立った
強いて言えば、サイトウさんの悔しそうな眼差しは頭から離れなかった




書き終えて思ったけれど、結局苦手なものって音楽じゃなく人なんだ
自分が大好きなものを同じように好きな人はこの世にたくさんいるし、だからこそライブハウスに行ける機会が多いのだけれど、せっかく同じものを好きでいるのにその人らによって自分の気分を害されているという事実が、あの空間ごと嫌いになってしまっている要因なんだろうな


自分が天邪鬼なのはそういう事なんだと思う 
でも別にそれは悪い事ではないし、同じ趣味を持つ人間全員が自分と気の合う人であるわけもない
それはちゃんと理解しているし、だからこそライブハウスが大好きであり苦手であることも間違った感情ではないのだと思う

自分は1人でライブハウスに行くからこそ、この負の感情を持つのだろう
開演までの待ちの時間、ライブ後の余韻
言葉で共有できる人がいないからこそ、いろんな事が目に入ってしまう
趣味の合う人が欲しいと思ったこともたくさんあるし、同じ感情を持つ人と大好きなライブハウスで出会えたら良いなとも思う
でもそういう人を見つけることに労力を使う勇気と気力は持ち合わせていない




今言うことでもない気がするが、大好きなものの嫌いな部分だけを綴ることは、果たして本当に必要なのだろうか
これだけ負の感情を持つ出来事が生まれる場所なのに、それでも大好きだと自信を持って言える事こそが書き残すべきなのではないだろうか

もし気力があったら、今度は生かされていると実感したあの瞬間を、忘れるわけないけど忘れないために書き残そうかな

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