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映画『笑いのカイブツ』~“好き”という情熱に勝るものなし~


少し前に観た映画、『笑いのカイブツ』の感想を書いていきたいと思います。

※若干ネタバレあり


“笑い”に取りつかれた10代の少年が、「伝説のハガキ職人」になり、その後構成作家として、お笑いを本格的に職業にしていく中で感じる悩みや葛藤を描いた作品。岡山天音主演。


ツチヤタカユキの同名小説を映画化した今作品では、表現でお金を稼ぐ世界に身を置く者の心理が上手く描かれていました。

原始的で衝動的で、ドロドロした感情。純粋でコアな生き方。それ自体は正しいのだけれど、「仕事」となるとそう一筋縄ではいきません。
社交性や政治的な考えを求められる主人公を見て、好きな世界で生きることの大変さを身につまされます。

おそらく観客のほとんどは、ツチヤの姿に、「人間関係不得意なりに、もうちょっとやり方あるやろ」「好きな世界で仕事出来てるんやから多少の妥協は必要やろ」と、思うのではないかなと思います。

でも、必死にもがく主人公を前にして、一度好きな世界で生きようとした身からすると、「いや甘いやろ」と、決して一言でぶった切る事の出来ない難しさを感じます。

ツチヤほどではなくとも、やはり理想と現実のギャップを感じることが多い世界。
お笑いに限ったことではないと思いますが、上手いこと行かないことの方が多いです。
お笑いや音楽、演技の世界が競技スポーツではない以上、どうしても他者の評価が不確かなものに見えてきます。

「絶対おもろいのになんでやねん」
この感情が、血となり肉となっているツチヤという男の苦しみを見て、ここまでとはいかなくとも、夢を追う者からしたら、彼と自分を重ねてしまうところはあると思います。

環境に対する“諦め”は、「妥協」と言えるのか。「しぶとさ」と言えるのか。
はたまた「情熱」と言えるのか——。

お笑いを辞めてから観たこの映画は、凄まじいメッセージ性を放っていました。


個人的に印象に残ったシーンは、楽屋や会議室での打ち合わせ風景。
オードリーの若林のことであろうベーコンズの西寺(仲野太賀)に誘われ、専属の作家(きっかけはオールナイトニッポン)になったツチヤでしたが、楽屋の空気がリアルそのもの。
ネタ合わせの時しか会話しないコンビ。売れっ子ならではのスタッフや関係者の多さ。
めっちゃ芸能界っていう空気に妙な感心をしてしまいました。


あと、若手の劇場時代にちょろっと出ていた、たくろうの赤木にびっくりしました。
まあまあいい演技していました。笑


俳優陣がとにかく最高でした。
主演である岡山天音の憑依的な演技は、畏怖の念すら感じる仕上がりっぷり。
“陰キャ”という言葉で片付けられないくらいの社会不適合者でした。
しかも、関西弁がめっちゃ上手い。調べたら東京出身なんですね。
あれ、関西弁のイントネーションが気になったら、もっとこの映画の感想が変わっていたと思います。

仲野太賀は、厳しくも優しい兄貴分を演じていました。
面倒見のいい役柄が似合う似合う。だらしない弟を導く言動が、劇中のオアシスになっていた気がします。
個人的には、きれいめストリートファッションが好みでした。

菅田将暉演じるピンクも導いていましたね。
ミナミの半グレを上手く表現していましたし、やはり大阪出身だけあって、「大阪のそのへんの兄ちゃん感」がすごかったです。

彼の劇中のセリフがめちゃくちゃ刺さりました。
久しぶりに会った居酒屋でのシーン。

「皮肉やな〜。お前をそうさせたのは世間やけど、お前が笑いを届けるのも世間や」

「地獄で生きろよ」

激励もしているけど、しっかり現実もぶつけている。
自分にない生き方をしているツチヤに対してのリスペクトがあふれ出ているシーンでした。



『笑いのカイブツ』をから僕が学んだのは、色々ひっくるめても、「“好き”という情熱に勝るものなし」ということです。
上に行けば行くほど、目標の達成に近づけば近づくほど、いろんな障壁にぶつかりますが、でも、登り詰める奴は、“好き”という気持ちが人一倍強いと思います。

本当に“好き”を貫いた者だけが幸せになってほしいと思いました。



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