そう、僕らは夜を越えてきた。古びたニュータウンが掘り起こす、身近で壮大なアイデンティティ。
映画「すべての夜を思いだす」の余韻がまだ消えない。
映画の舞台となるのは多摩ニュータウン。高齢化が進み、人もまばらな団地の中を、世代の異なる三人の女性たちが闊歩する。三者三様の事情を抱えて団地を彷徨うわけだが、そこで何が起こるわけでもない。いや、起こってはいるのだけれど、取り立てて何か起こったとも言い難い日常の些事が描かれていく。総じてミニマムで静謐なムードを持つ作品だが、その背後には実にダイナミックな想像力が横たわっていたように思う。一言で言えば、人類の営みに対する深い愛