ユニコーン企業は多くなくても良い

政府の資料などでは、ユニコーン企業を生み出すことが目的になっていることがあります。しかしユニコーン企業数を議論するのはそれほど有意義であると思えません。

大事なのは経済成長

PwCの予想では、日本の経済力は2050年には世界7位にまで低下します。
その主な要因は労働人口の減少によるものですが、経済力が落ちていくことには変わりがありません。そのため、サステナブル成長に追加した、何らかの経済成長のブーストが必要なのは自明であり、そのために成長性スタートアップ企業の創出に注目するのは自然です。

企業評価額がその企業の重要さの指標であるならば、評価額が大きな企業が多数、輩出されることは、経済成長のためには重要です。そのため多数の高成長スタートアップ企業が生まれて経済成長を支えることが重要なのは否定する余地がありません。

そもそもユニコーン企業とは

そもそもユニコーン企業とは時価総額10億ドル以上の未上場企業のことを指します。10億ドルの評価額もあれば十分に経済的にインパクトのある企業であるということができます。問題は「未上場企業」という点です。
高成長企業であるならば、同じだけの経済的インパクトがあるのであれば上場していようと、未上場であろうと変わりがないはずです。
そうであるならば、経済政策の目標としてユニコーン企業の数を置くことには本質的には意味がありません。

未上場であり続けることの意味

未上場であるユニコーン企業の排出を目的とするならば、未上場であることの意義について考えなければなりません。
企業が株式市場に上場するメリットとしては、一般に、不特定多数の株主から多額の資金調達をすることが可能になる、という点を挙げることができます。スタートアップ投資ではVCなど少数の株主から調達することになるので、調達可能額に限度があります。それいがいにも知名度や企業信頼度の向上を挙げることもできます。
一方で、企業が株式市場に上場するデメリットとしては、株式の分散化を挙げることができます。不特定多数の株主の意見を聞く必要があります。また上場するに伴い、創業者の持ち分比率も低下します。そのため、経営の自由度が低下することも考えられます。
一方で、未上場で居続けることのメリット、デメリットもあります。未上場のメリットとしては経営の自由度が高いことなどを挙げることが、未上場のデメリットとしては、大規模な資金調達ができないことが挙げられます。

これらを整理すると、企業の経営者は
(未上場企業のメリット-未上場企業のデメリット)-(上場企業のメリット-上場企業のデメリット)
を(もちろんこんな式に書いて考えているわけではないでしょうけど)考えたうえで意思決定をしています。

現在の米国で起きていることは、未上場企業のデメリットの低下ではないかと思われます。以前にも書いた通り、現在では比較的大型の未公開企業に対する投資家が存在します。そのため、未上場であることが居心地が良いと思う企業が増加していると思われます。
さらに情報開示範囲の拡大や、機関投資家との対話など、上場企業のデメリット大きくなっていると考えらえれます。

何を議論するべきか

現在の日本にユニコーン企業が少ないとすれば、上の式の変数のどこに問題があるのかを明確にするべきです。
少なくとも上場・非上場のメリット・デメリットを議論するべきです。特に未上場企業のメリット・デメリットが何なのか、どのようにメリットを伸ばしてデメリットを減らすべきなのか
そして何より重要なのは、それらが本当に経済成長に寄与するのかを議論するべきです。

結局はIPO

ユニコーン企業はVCなどの機関投資家が株主です。それら機関投資家からすれば、流動性の低い資産を保有することになります。そのため経済環境や経営状況の変化に伴い換金をするニーズが発生する可能性があります。そうであれば長期的にはどこかで売却をするオプションを持つことが重要になります。
他の機関投資家に売却をすることができればよいですが、投資額が多いためにその候補先は限定されています。M&Aをするにも事業会社で10億ドル以上の企業を買収できる企業は限定されています。そうなればどうしても不特定多数の株主から資金調達をするIPOを選択することになります。

米国においてもユニコーン企業というのは近年になって多く観測されるようになりました。GoogleもIPO前のラウンドでの評価額は10億ドルに届いていなかったので、ユニコーン企業ではなかったように記憶しています。
20年前の米国のベンチャー投資環境が現在と同じようであれば、Googleも2004年にIPOをしておらず、ユニコーン企業であることを選択していた可能性もあります。
しかしながらユニコーン企業で居続けることができたでしょうか。現在のAlphabetの時価総額は1.7兆ドル(執筆時点)です。この規模になるまでユニコーン企業であり続けることはおおむね困難です。


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