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産後の運動はいつから?3つの回復段階を客観的に把握しましょう

「出産直後だなんて信じられない!」そんな誉め言葉に憧れて、産後はしっかり運動してできるだけ早く元の体型に戻したい、なんなら元以上に引き締めたいと意気込む妊婦さんも多いのではないでしょうか?

実際、一旦緩んだ骨盤周りが徐々に引き締まってくる産後は、産前より体を引き締めるチャンスでもあります。

しかし、出産は想像以上に体にダメージを与えます。

にもかかわらず、産後は産まれたばかりの赤ちゃんのお世話という慣れない大事業が間髪入れず始まります。

怪我や病気などからの回復には睡眠が欠かせませんが、産まれたばかりの赤ちゃんと一緒の生活はその大事な睡眠を取ることもままなりません。

ゆっくり休んでダメージからの回復を待つ、というわけにはなかなかいかないでしょう。

体型を戻すことはいいこと、という風潮の中、自分が受けたダメージを客観的に把握しないまま「体型を戻さなくちゃ!」と思い付きで無理な運動をすると、ダメージからの回復を遅らせるばかりか将来に影響する痛手を負いかねません。

産後の回復のスピードは人それぞれ。

本人だけでなく、赤ちゃんの性格や発育状況、家族の状況によっても変わってきます。
周りと比べることなく、自分が今どの段階なのかを客観的に知ることが大切です。

ここでは産後の回復段階を

Ⅰ.傷からの回復期
Ⅱ.骨盤底筋群、腹筋群の回復期
Ⅲ.インナーユニットの回復期

の3つに分けて解説します。

Ⅰ.傷からの回復期

出産から、日常生活に戻ってもよいと医師のOKが出るまでを第Ⅰ期とします。

出産方法に関わらず、産後は子宮内側の胎盤や卵膜が剥がれたものが出血を伴い分泌物などと共に体外へ排出されます。この血液交じりの排出物が悪露(おろ)です。

悪露があるうちは子宮の内側は傷ついており、いわば大けがを負った状態であると考えましょう。

子宮の内側だけでなく赤ちゃんが産まれてきた道もダメージを受けています。

経腟分娩は比較的ダメージが少ないと言われますが、会陰切開を行わなかった場合でも多少の自然裂傷が起きていることがあり、まったく損傷がないケースはまれでしょう。

医療介入(会陰切開や吸引分娩、鉗子を使った分娩など)があった場合は間違いなく傷を負った状態であり、さらに感染症の危険があります。

帝王切開は筋肉を切るわけですからさらに大きな傷を負っています。

かわいい赤ちゃんが産まれたことに目がいってしまい、周囲の人にはイメージがわかないかもしれませんが、このように出産とは大小あるものの「外傷を負う」ことなのです。

鮮血を伴う悪露は、子宮の回復と共に2週間ほどでだんだん褐色に変化してきます。

その後、黄色、白色となり量が減り、経腟分娩の場合で4~6週間ぐらいでほぼなくなります。

帝王切開の場合はもう少し長くかかることもあります。

また出産に伴う外傷も、帝王切開の場合も含め、産後1か月程度で回復してきます。

通常、子宮の内側、そして外傷も回復してくる産後1か月後ぐらいに産後検診が行われ母体の回復具合が確認されます。

ここで特に問題がなければ医師から日常生活に戻ってよいとOKが出ます。

出産直後の運動

まずは傷を治すことが最優先です。

できるだけ周囲の手を借り体を休めましょう。傷口が開いてしまうかもしれないので、当然ながら一般的な運動はNGです。

とはいえ、絶対安静にしていればよいかというとそうではなく、ちょっとした意識とストレッチのような軽い動きが回復を早めます。

この時期におすすめの動きは一般的に「産褥体操」として紹介されています。

後日、この「ホリ研マガジン」でも具体的な動きをご紹介したいと思います。


Ⅱ.骨盤底筋群、腹筋群の回復期

外傷が癒えたら

出産による傷が癒え、後述する腹直筋の離開がほぼ気にならなくなる産後6か月ぐらいまでを第Ⅱ期とします。

産後検診で医師のOKが出ればいよいよ軽い運動をしてもよくなります。

ただし、この時期はまだまだ体は産前の状態には戻っていません。

妊娠時は約9ヶ月かけてだんだん大きくなる赤ちゃんや子宮の重みに合わせて体のバランスが変わっていきました。

しかし産後は一気に赤ちゃんや子宮の重みがなくなるにも関わらず、体はすぐには重心の変化には対応できないのです。

赤ちゃんの重みに合わせて、一般的には妊婦さんの姿勢は以下のように変化し、産後しばらくはこの状態が続きます。

・体の前側(おなか)が重くなるため、背骨や骨盤がバランスを崩します

・おなかの重みで背骨の胸から腰にかけてが前に引っ張られたり、逆におなかの重みとバランスを取ろうと背骨の胸から腰にかけてが後ろ側に丸まり骨盤が後ろに倒れた状態になります

一般的に妊婦さん、産後ママさんは「反り腰」(背骨の腰の部分、腰椎が過度に前弯し、骨盤が前に傾いている状態)と言われることが多いですが、実際は骨盤は前ではなく後ろに傾き、バランスを取ろうと腰より少し上、胸椎(背骨の胸の部分)をのけぞらせるようにして、「反り腰に見える」状態になっていることも多いので注意が必要です。

・背骨や骨盤のバランスが悪いと歩くときに必要な腰椎の回旋(腰の骨を回す動き)がうまくできません。

それを補うように胴体の上の方が過剰に動き、お尻の筋肉は充分に働かなくなってしまいます。

・お腹が大きくなるために引っ張られた腹筋や重みを支えていた骨盤底筋群が弱くなっています。

この時期のおすすめの運動

この時期は上で挙げた体の状態を修正し、元に戻すことを念頭においたエクササイズを行うとよいでしょう。

「産後ママのための」「産後リカバリー」などと銘打っているヨガやピラティス、体操などのクラスはこの時期に適したポーズやエクササイズを選んでプログラムが組まれています。

また、自治体主催や公共施設のサークルなどには赤ちゃん連れで参加OKのリカバリーエクササイズのクラスなどもありますので是非探してみてください。

この時期の腹筋

腹筋と一口に言っても、腹斜筋や腹横筋などいくつか種類があります。

そのうちだれもが真っ先に思い浮かべるのがおなかの表面にあり、6つに割れる腹直筋でしょう。

シックスパックの名でも知られる腹直筋は6つのブロックに分かれています。それをつなぐのが白線と呼ばれる繊維質の組織です。

赤ちゃんが大きくなるにしたがって大きくなるおなかですが、おなか表面の腹直筋の筋肉部分にはあまり伸びる余地がありません。

その代わりどこが伸びるかというと白線の部分です。

産後すぐは白線の部分は伸びたままになっており、6つの腹直筋が離れています。

腹直筋離開

この状態を「腹直筋離開」と呼びます。通常は半年ぐらいかけてゆっくり戻っていきます。

注意していただきたいのはこの「腹直筋離開」の状態で腹直筋を使うトレーニングをしないということです。

離開したまま学校でやったような腹筋運動(上体起こし)などを行うと、腹直筋が強化されすぎて短くなったり、腹直筋の端が更に外側に引っ張られて離開がひどくなってしまいます。

こうなってしまうと腹部はさらに弱くなり、ひどい場合は内臓が飛び出すヘルニア状態を引き起こします。

ポッコリお腹を引き締めたい、と真っ先に思い浮かべるのは上体起こしかもしれません。

しかし、産後早い段階での腹筋運動は思いもよらないトラブルを招くかもしれないので十分注意してください。

Ⅲ.インナーユニットの回復期

通常産後6か月ほどで離開していた腹直筋も元に戻り、骨と骨の間をつなぐ靭帯を緩ませていたホルモンの働きも落ち着いてきます。

腹直筋の離開が問題ない程度になってからが第Ⅲ期です。

仰向けでひざを立てた状態から少し上体を起こし、おへその下あたりを指で触れてみましょう。

腹直筋が離開していると指がずぶっと入ってしまいますが、普通に弾力があれば通常問題ありません。

心配な場合は産後の体に理解のあるトレーナーや整体師などにチェックしてもらうとよいでしょう。

この時期になればいよいよ筋トレや有酸素運動など通常の運動をしてもOKとなります。

ただし、一旦は全ての靭帯がホルモンの影響で緩んだ体です。

体全体がばらばらなイメージです。そこで大切になってくるのがインナーユニット(またの名をコア)の意識です。

ここでは敢えてインナーユニットという言葉を使いましたが、ユニットという言葉は「単位」などと訳されます。

この「単位」は一つの要素でできているのではなく、いくつかの要素で構成するものを意味します。

コアを構成する筋肉がまとまって1つのユニットとして働く、いったんばらばらになった体をユニットとして動かす、その感覚を取り戻していくことが大切になってきます。

この時期になったら、コアを意識でき、四肢をダイナミックに動かしてもぶれない体づくりができる運動がお勧めです。

無理をしないよう、少しづつ体を動かしましょう。

ピラティスのエクササイズはどこか特定の筋肉だけを使った時ではなく、ユニットとして動かせた時によりスムーズにできるように考えられています。

産後の女性にはぴったりですので是非試してみてください。

おわりに

産後はその後の長い人生を考えるととても大切な時期です。

「どうにかなる」と無理をしないで、家族に助けてもらう、行政、民間サービスなどをうまく利用するなどして体の回復をはかってください。

赤ちゃんにばかり目が行きがちですが、自分の体も大切にしてくださいね。

産前の運動については以前まとめたこちらをどうぞ。


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