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どんぐりの中のもみじ

 キッチンの窓辺は、わたしのお気に入りが並ぶギャラリーだ。もらったメッセージカードやミニカーの隣りにあるのは、ガラスの保存容器。蓋は木製で、どんぐりの形をしている。この中に入っているのは、赤と黄色の3枚のもみじ。今年もまた、山が色づき始めた。

 祖母は、わたしが24歳で家を出るまで身の回りの世話をしてくれた。いちいちうるさいクソババアだと思ってたけど、離れて暮らすとありがたみが分かる。花が好きだったので、桜やバラの季節にはちょこちょこドライブに連れ出した。

 ある年、紅葉を見に行こうと車を走らせた。見頃の時期はとんでもなく混み合う紅葉の名所へ。この時は見頃を少し過ぎていて、風に吹かれた暖色の葉がヒラヒラと舞って、足元に敷き詰められていた。
 ふと祖母を見ると、小さい身体を屈ませて色づいた葉を夢中で選んでいる。
「記念に持って帰るわ」と、数枚集めてカバンに仕舞った。「思い出に何か持ち帰るなんて珍しいな」と思いながら、わたしも数枚カバンに仕舞った。パリパリの葉が崩れてしまわないように大事に持ち帰った。

 しばらくして祖母を訪ねると、あのもみじが飾ってあった。胸がポカポカした。今思えば、最後の遠出だった気がする。
 それからずっと、どんぐりの中にある3枚のもみじ。引っ越しの時もなんとなく捨てられなくて、今日も窓辺で西日を浴びている。

 
 

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