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『清朝秘宝 100年の流転』中国関連ドキュメンタリー 鑑賞記録

清朝秘宝 100年の流転
NHK BSプレミアム
初回放送 2022年3月5日
再放送 2023年2月20日

トップ画像 今年の梅 小金井公園
文中の『梅花碗 古月軒』に因んでこの写真にしてみました


今回はいつもと趣を変えて文化教養ドキュメンタリー番組の感想を書いてみようと思います。
たまたま番組表に見つけたので録画して観ましたが、とても興味深く面白い番組でした!
もともと陶磁器などの美術品、書画アート全般は好きですが、美術好きな母が陶芸をやっていたので子供の頃から器を見る機会が多くありました。専門的なことは分かりませんが、美術館や博物館は時間かけてじっくり鑑賞する方なので、とても楽しめました。
景気のいい金額が飛び交いワクワク、おまけに中国ドラマで馴染みのある風景や似た逸話も出てきて興味津々!

歴史文化の専門ではないため、内容の聞き間違いや勘違いがあるかもしれませんがご容赦ください。



番組は2021年5月に北京のホテルで行われたオークションの模様から始まる。
投資目的やコレクターら参加者たちは電話やオンラインで入札に加わる。家具や工芸品、書画、仏像、青銅器などが取引されるが、人気は陶磁器。2日間の総取引額は200億円にも上ったそうだ。
美術品そのものが素晴らしいのはもちろんだが、その会場で競りに掛けられることになったいきさつや落札価格の高額さに、とにかくビックリ仰天!

さらに、番組中に出てくる "本物" の紫禁城や皇帝の玉座、皇帝への贈り物エピソードなど、中国ドラマ好きには「わーっ!ドラマとそっくりー」(いやドラマが本物にそっくりなのだがw)とワクワクな内容が次々と続く。


清朝

清朝(1636-1912)末期以降 海外に流出した歴代王朝の至宝。中華文明四千年の美と権威の象徴であるそれらは、分かっているだけで260万点にもなるらしい。そんなに多いなんて!!

当時、清は世界一の経済大国。全世界のGDPの三分の一を占めていたそうな。これにも驚きだ。
一旦流出してしまったそれらの美術品が今、経済的に豊かになってきたことを背景に、一斉に本国に買い戻す動きになっているとのこと。
それら秘宝の流転の物語だ。


経緯

冒頭紹介された磁器は2億六千万円、衝立も同等の価格。
今の中国、いったいどれだけのお金があるのだろう。

中国から世界に散っていった美術工芸品は、日本はもちろんアメリカやヨーロッパにも流れ着いたが、その仲介をしていた山中商会という美術商が紹介される。
古美術を扱っている京都のこの会社は清朝末期、紫禁城王府の恭親王(溥偉)から数千点という宝物を購入する。直系子孫の方がお話しなさっていたが、莫大な借金をして事業の勝負に賭けたそうだ。一方売り手である恭親王の売却の理由は、清王朝復興の資金集めのため。売り手買い手双方の利益が一致したということだ。

お話によれば、当時の恭王府には古美術の種類ごとに建屋(倉庫)があったらしい。一番奥の建物は長さ2百メートル、100以上の部屋があったとか!
王府」というものは中国ドラマによく登場するが、今回その物理的な立地やどういう人々が住んでいたのかなど、暮らしぶりがよく分かったのも収穫だった。


流転の物語

画面越しに見ているだけでも見とれてしまうような至宝の数々。いくつか逸話と共に例を挙げてみたい。

『青花万寿尊』
清朝康熙(1654-1722)の誕生祝として制作された70cmの壺
同じものが9つ作られたうちの一つが日本の地方の骨董市で見つかる
6つは確認されていてそのうち一つは故宮博物館に展示されている
日本で1億円で落札され、そのわずか3か月後に香港のオークションで11億円で競り落とされた

この壺には千種類の字体で「寿」の文字が1万個書かれている
字体にはオタマジャクシのような科斗文、鳥と虫の形の鳥蟲書などあり非常に興味深い
あるドラマ(恋心は玉の如きだったかな?)で同じように皇帝に千の寿を全て違う書体で刺繍してプレゼントするというエピソードがあったのを思い出して親しみを感じた


粉彩八仙慶壽雲口瓶
清朝乾隆(1711-1799)
日本で発見される
口に花びら型の装飾が付いており、松の木の下で踊ったり笛を吹いたり、蓮の花をもっていたりする人物が鮮やかな色彩で美しく立体的に描かれている
前述の北京のオークションに出品され、2億9千万円で落札


黄地洋彩如意耳壁瓶
清朝乾隆
即位前に詠んだ詩が書かれており移動の折にかごの中に掛けて愛でていた
そのため背面は平になっている
元は英ハートフォードのチャリティーショップでたった150円で売られていたという
噂を聞きつけた中国の古美術商が5900万円で落札した後、北京のオークションに出品
1億8千万円で競り落とされた


紅木嵌百宝群仙祝寿図画屏 一対
清朝中期
高価な石や珊瑚を嵌め込んで立体的に描かれている
2億1200万円で落札


梅花碗 古月軒
清朝乾隆
山中商会を経由して現在は藤井斉成会有隣館
景徳鎮で焼かれた白磁の上に宮廷絵師が粉彩で絵画そのものも描き、印が添えられている
ピンクの色彩と白梅がとても美しい
(トップ画像はこの茶碗に因んで選びました)



通過点

現在中国で美術工芸品を扱う骨董商の方がおっしゃるには「流通させることでより多くの人が楽しめる」とのこと。なるほど確かに!
ただその背後では莫大なお金が動いているということも事実。番組の締めのナレーションは
数々の至宝は富み栄える人と場所を求めて流転を繰り返す
だった。

清王朝末期の恭王 溥偉が私財を売り払ってでも王朝復興を果たしたかったという想いに歴史の悲哀を感じた。
繁栄の象徴として作られた美術品が歴史の流れの中で国外に散っていく。
日本が世界に散った浮世絵を取り戻したい気持ちも、エジプトが大英博物館からピラミッドの遺品を返してほしい気持ちも、経済発展を遂げた中国が歴代王朝の至宝を買い戻したい気持ちも、みな根っこは同じ。至極尤もなことだと思う。

古美術商の方の、価値ある美術工芸品にとって今は長い歴史の一つの通過点に過ぎないのだという言葉が、深く腑に落ちた。





中国の長い長い歴史や文化の背景とそこに生きた人々の想い、そしてそれを今に伝える様々な出来事を知ることができました。
美術品そのものの素晴らしさも、大好きなドラマとの関連性も、いろいろな観点から観てよかったなーと思うドキュメンタリーでした。

この番組は人気があるらしく、わたしが観たのは多分再々放送で、現在はNHKオンデマンドや他の配信サービスでも視聴可能なようです。

今回書くにあたって資料を調べたのですが、山中商会4代目の当主さん、画面に映った時になんとなーく見覚えがあるなと思っていたら、過去に某所で接点があったことが分かってびっくり。微かなご縁も感じて、楽しい番組でした。

NHKさんこういう番組を、もっと制作、PRしてほしいです。
お読みいただきありがとうございました。

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