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ベーグルがベージェルやベーゲルにならないわけ

コストコに行くとベーグルかディナーロールを買うことが多く,今回はベーグルを購入した。帰ってふとラベルを見たらベーグルの綴りがbagelなのに気づいて「おや?」となった。私は発音からてっきりbagleだと思っていた。

英和辞典を見ると/béɪɡl/(ジーニアス6)や[béiɡəl](ランダムハウス英和大辞典)と書かれていて,ベーグルと綴られるのは納得いく発音だった。一方他の〜gelで終わる英単語はangelのようにエンジェルとなっている。ちなみにgelはカナでゲルと書かれるが英語としては[dʒél]と発音される。

それなら借用かと思い項目を見ていたら〜gel終わりではドイツ語の人名がいくつか載っていて,のきなみゲルとなっている。ちなみにアメリカの人でも人名ならゲル。

  • Engel [éŋɡəl] エンゲル(経済学者。エンゲル係数で有名)

  • Hegel [héiɡəl] ヘーゲル(哲学者)

  • Vogel [vóuɡəl] ボーゲル(アメリカの社会学者)

他だとオリオン座の右下の星はリゲルRigelと呼び発音は[ráidʒəl]となっている。

ここまで出てきて「グル」となりそうな発音が見当たらない。さてこれはどういうことか。というわけで辞書のbagelを見てみると,イディッシュ語beyglが語源と書かれている。イディッシュ語の解説は以下のリンクを参照。

ではbagelはいつごろ日本に入ったのだろうか。国立国会図書館デジタルコレクションを見てみると,かつてはbagelという綴りに対して「ロールパン」を当てていたようだ。例えば,篠塚久美子(1976)「クローディアからエリノアまで」という論文では次のようにBagelsという野球チームに対して「ロールパン・チーム」と訳を付けている。

Tinker Bell : studies in children's literature in English (6),1976年

ちなみにこの訳に対してはどうも児童文学研究にて批判されているようだった。オンラインでは読めず,図書館に所蔵があるもののGW休暇で開いていないので気が向いたときに見てみたい。

また,ジョン・L・ステュアート(橋口稔訳)「ジョン・クロウ・ランサム」という論文でも訳注と思われる部分で次のようにbagelをロールパンと訳している。

ランサムの手にかかれば,Hegel(ヘーゲル)とbagel(ロールパン)に韻を踏ませて,どんな詩行が生まれたことだろう

この過程でちょっと感動したのは,bagelをベーゲルと書いた人がいることである。『Pain : パンを作る人、パンを楽しむ人のための情報誌』26(2)(302)所収の酒井厚「迷尊百話(72) パンとデリはどう結びつくか」には次のようにbagelをベーゲルと書いている。

また,バーゲルと書いたものもある(『小麦粉からパンへ : パンーいのちのかての物語』)。

なおベイグルと元の発音どおりに表記したものも1970年代にあったことも注記しておく(『小麦:生産と利用』1975年)。

ちなみに明治9年の本にはベーグルを猟犬と書かれているが,おそらくビーグル(beagle)だろう。



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