#エッセイ『まずはお医者さんに行ってみました!』

 今から約四年ほど前の事です。当時僕は単身赴任で仙台に住んでいました。その頃は会社から帰ってテレビを観ながらコンビニの弁当を食べた後に風呂に入って寝るというのが日々の日課で、その日も風呂に入ろうとして脱衣所で裸になると、下腹部の右下当たりで右足の付け根の少し上あたりが腫れていることに気が付いたのです。最初は何だろうかと思いながら手のひらで押して手を離すと元に戻るようにポコッと膨らむのです。何か変だなと思いながらも、特に痛みも無いので放っておいたのです。それからしばらくは風呂に入る度に気にはなっていたのですが、次第にそれも気にならなくなり普通に日常を過ごしていました。
 そして今年の三月ごろの事です。会社で仕事をしている時にお腹の下腹部が痛むような感じがしたのです。その日はどうしても定時までに仕上げたい仕事があり、いつもより集中して作業をしていました。そしてその仕事があと少しで終ろうかという時に右下の下腹部が突然痛み出したのです。そうです。例のところです。その痛さは飛び上がるというほどではないのですが、おなかの中で何かが引っ張られるような鈍い感じでギーンと張るような感じがしたのです。その瞬間に思わず“イテテテー!”と思って、椅子から立ち上がってしまいました。チョツとした恥ずかしさもあったので声こそ挙げなかったのですが、痛さに悶えてしまいました。その時は“あー例の所だわ・・・”と思ったのですが、椅子に腰かけて少し休むと何となく痛みが引いていくのです。それから何日間かは同じ事の繰り返しで、夕方になると一瞬の痛みを感じて直ぐに引くという事の繰り返しでした。そうなるとさすがに心配になるのですね。“やっぱりどこか悪いのかな・・・”と思いつつ、今度は怖いから放置してしまったのです。別の言い方をするなら、痛みが引くと忘れてしまうので、心配する傍ら、あまり深く気にはしていなかったという方が正確な言い方かもしれません。“疲れが出た時だけに傷むからキット大丈夫”と、何の根拠もないままに自己暗示で自分をごまかしてしまったのです。そうするとどうでしょう。不思議な事に四月に入ってからのひと月ちょっと間は痛みが出なくなったのです。そうすると僕も現金なもので、春先に痛かった事なんかえ忘れてしまうのですね。
 それから二カ月半がたった六月の初め頃です。やはり職場で夕方になると痛み始めたのです。そうなると春先の事を思い出してやっぱり心配になり、今度こそは病院に行こうと思ったのです。僕自身は取り立てて病院に行くことは好まない方ですが、自分の体に何か異変を感じるとやはり自ら行こうと思うのですね。そしていざ病院に行くとなると、自分の病名が気になるのです。“もし不治の病だったら・・・、癌だったらどうしよう・・”などそんな事を思いながら、有休を取得して、まずは近所の胃腸科専門の病院に行ったのです。
    待合室で待つこと約ニ十分、ようやく自分の番が来て診察室に入りました。そこにはかなりの歳をしたおじいさんのお医者さんが座っています。その対面に腰かけると、
『今日はどうしたの~』
と、にこやかに問いかけてきました。
『えっと・・、下腹部のここら辺がチョッと痛くてですね・・・』
というと、直ぐに診察台に寝かされました。そして下着のパンツを下げられて、股を広げるように言われると、次の瞬間に、“ブス”っと股の下からお腹の腸の方に人差し指を突っ込んでくるのです。それがあまりにも痛いので、
『アタタタタ・・・』
と、声を上げてしまいました。それと同時にお医者さんは、
『はい、脱腸ね!以上終わり!』
と言って、診察は三十秒で終わりました。これは死に至るようなものではないが、手術をしないと治らないものであると言われました。ちなみに放っていたらどうなるのかと尋ねると、筋肉の間からはみ出した腸が時々神経に触って、今と同じような痛みが出る事がある、という事でした。そして隣町の大きな総合病院の紹介状を出してもらってその日は終わりました。
 痛みの原因が分かったのは良かったのですが、治すためには手術が必要となるとそれはそれで不安になるのですね。僕は今までに外科的な手術を受けた経験はありません。手術といえばせいぜい歯医者さんで親知らずを抜いた程度です。あの時の痛さを思い出すとやはり気持ちは沈んでしまいます。歯医者さんでは全身麻酔は掛けませんが、口の中に何本も痛み止めの局部麻酔を打ってもらいますね。効きがいまいち悪いとやはり激痛がするので、痛みを告げると先生は追加で麻酔を増やしてくれるのですが、その術後の麻酔が切れた痛みまでを思い出すと、どうしても今回の手術を受ける気になれなかったのでした。“何とかして自然治癒とかしないのだろうか・・”なんて虫のいいことを思いながら、家に帰ってから携帯などで調べるのですが、さすがに自然治癒したという記事は一つも出てこないんですね。
 今回、僕がなった病名の脱腸とは別名“鼠径ヘルニア”というそうで、お医者さん曰く、ほとんどが男性しかかからないものだそうです。しかも多くの場合は子供の頃になることが多いらしく、大人では五十代以降に見られる病気だそうです。“脱腸”という言葉の響きから、昔は肛門から直腸が飛び出すようなイメージをしていたのですが、実は違うのですね。下腹部の筋肉の間から腸が飛び出る症状を脱腸というという事を今回初めて知りました。まさか自分がなるとは・・と思ってガッカリしましたが、これもまた人生、次は紹介状を握りしめ大きな病院に行こうと決心をしました。(続く)

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