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10万円給付は子供に渡さないといけないの?【特別定額給付金】

こんにちは、スマート法律相談です。

【質問】
新型コロナに関連して、国民一人当たり10万円を給付することになりましたが、子供の給付も含めて親が使ってよいものでしょうか?子供に許可を取らないと犯罪になりますか?

最近、このような質問を多く頂きます。
最初は子供の側からの質問だったのですが、逆に親の側から「親が全部使ってもよいものなのか」という質問もくるようになりました。

この点は、簡単そうでいて意外と難しい問題を含むので、少し分析的に説明をしていきたいと思います。

【追記】2020/7/1

解説動画をアップしました。

給付の性質と対象者

そもそも論として、この給付はどのような性質のものなのでしょうか。

総務省の説明には、以下のようにあります。

給付対象者及び受給権者
給付対象者は、基準日(令和2年4月27日)において、住民基本台帳に記録されている者
受給権者は、その者の属する世帯の世帯主

「受給権者」という言葉からすると、世帯主のみに給付を受ける権利があり、世帯主以外の配偶者や子供などには請求権がないようにも考えられます。

しかし、他方で、児童手当の給付対象者は、「中学校卒業まで(15歳の誕生日後の最初の3月31日まで)の児童を養育している方」としており、給付対象者も受給権者も養育者(親など)です。

児童手当は子供に請求権がありませんが、特別定額給付金も児童手当のように親や世帯主に受け取る権利があるのであれば、「給付対象者」も世帯主としているはずです。

また、配偶者からの暴力を理由に避難している方で、事情によって基準日以前に住民票を移すことができない方は、世帯主でなくても、給付金を受け取ることができます。

仮に世帯主にのみ給付を受ける権利があるのであれば、このような取り扱いはできないはずです。
配偶者からの暴力を理由とした取り扱いは、給付を受ける権利が給付対象者(住民基本台帳に記録されている者)にあることを前提に、暴力事案では給付対象者に給付金が渡されない可能性が高いことから、特例を認めていると解釈するのが自然でしょう。

したがって、特別定額給付金を受け取る権利があるのは、給付対象者であり、受給権者は給付対象者の代わりに給付を受け取っているだけと考えるのが自然だと考えます(確定的な見解はありませんが、普通に解釈するとそう考えるべきではないかという個人的な見方と理解してください)。

子供から世帯主への給付金請求は認められるか?

では、仮に、子供から世帯主に対して、自分を対象とする10万円給付を支払うよう請求する裁判をしたとしたらどうなるでしょうか。子供が親を訴える?ということに違和感を感じる方もいるかも知れません。

しかし、例えば相続などで子供が数千万円を保有しており、それを世帯主が勝手に使いこんでしまった場合、返還請求は可能でしょう。

また、子供のお年玉を預かっていた親が子供に無断で費消してしまうと、財産管理権の濫用と評価される場合もあります。

親が、子どものお年玉を自分の生活費や遊興費に使用することは、財産管理権の濫用、親権の濫用にあたります。この場合は、使用したお年玉を返してもらえます

子供はそもそも収入がないから新型コロナの影響を受けていない。なのに、10万円ももらえるなんておかしいという考えもあるでしょう。

また、子供は税金を納めていないのだから受け取る権利はないはず、普段養育している親が家計の足しにするのは当然、という考えもあるかも知れません。

しかし、今回の特別定額給付金は収入が全く減っていない公務員も受給対象ですし、刑務所に収監されている受刑者も対象になっています(受刑者でも刑事矯正施設収容中に税金を払っている方もいるかも知れませんが)。

減収がないから、税金を納めていないという指摘は、減収や納税が受給要件となっていない以上、法的な反論にはならないと思います。

子供が裁判をしたら勝てる?

それでは、例えば、子供が特別定額給付金を渡さない親に対して、不当利得返還請求権(民法703条)に基づく訴訟をした場合、どうなるでしょうか?

民法
第703条(不当利得の返還義務)
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

そもそも10万円を取り返す裁判なんて費用対効果を考えると現実的ではありませんが、その点を差し置いても裁判での解決はおすすめしません。

(理由1)
親がギャンブルで使い込んだなどの事例であれば財産管理権の濫用事例として認められそうですが、新型コロナに伴う自粛でかさんだ生活費に使った場合、そもそも財産管理権の濫用と言えるのか疑問。
(理由2)
不当利得の場合、善意の受益者は「その利益の存する限度において」返還義務を負うにすぎないため、すでに使っていた場合請求が認められません。そのため、善意・悪意の論点もクリアする必要があります。
(理由3)
「受給権者が世帯主」という点をどう解釈するか不透明。
(理由4)
特別定額給付金が、「『新型コロナウイルス感染症緊急経済対策』(令和2年4月20日閣議決定)において(中略)感染拡大防止に留意しつつ、簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計への支援を行う」としている趣旨が考慮される可能性がある。

最終的には裁判官の判断次第ではありますが、私ならお勧めはしません。

じゃあ親が子供の分も無断で使ってよいか

世帯主が全額使ってしまっても裁判で負けることはない、ということであれば、「親が無断で使っても問題ないのでは」という考えをする人もいるかと思います。

しかし、それが「ギャンブル等に使ってもよい」という意味であれば、それはそれでおかしな結論だと考えます。

親が子供の財産を勝手に使っても刑法上の横領罪として起訴されることはありません(刑法第244条、同第255条)が、家計と関係ない用途で、しかも自分が給付対象でない財産まで使うというのは問題があるように思います。

普段から親の扶養を受けているのに、10万円を小遣いとして使いたいという要求は「少し虫が良すぎるのでは」と感じてしまうかも知れませんが、頂いた質問の中には、学費が大変なので特別定額給付金を子供に渡して欲しいのに、親が渡してくれない、という切実なものもありました。

個人的な考えですが、そもそも今回の総務省の特別定額給付金は、給付の性質や必要性、手続きの面で詰めが甘い印象です。
家族の在り方が多様化している中で、あえて世帯主に配るということにそもそも違和感を感じます。

結論としては、「家計への支援」という給付の趣旨を理解して、具体的な使い道については各家庭でよく話し合って決めるしかないのではないかということにならざるを得ないと思います。

確定的な答えが提示できず申し訳ないですが、法的な整理が少しでもお役に立てば幸いです。

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リリース時に朝日新聞にも紹介されました!

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