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論文斜め読み:「大学における新しい学習観に基づいたプロジェクト学習のデザイン」

「大学における新しい学習観に基づいたプロジェクト学習のデザイン」
美馬のゆり 工学教育(J.of JSEE)57-1(2009)

初期のプロジェクト学習の取り組みをまとめた実践報告の位置づけ。はこだて未来大学の美馬先生が記したもの。はこだて未来大学はプロジェクト学習でよく聞く大学。

本文を読む前に、この論文出典が「工学教育」となっている。日本工学教育協会発行の論文と思うけれど、この日本工学教育協会は1952年~の組織だから結構古い。「工学教育」は「工学の教育」という意味なのだろうが、プロジェクト学習だと「教育工学」の分野だと思うのだが。「教育工学」は教育を工学的なアプローチで改善していくもので学際的な分野。≒でEdTechと同じような意味で使われることも多い。ちなみに僕が属している学会は「日本教育工学会」。こちらは1984年設立。

といったところが気になりつつ、読み始める。が、pdfにマーカーが引けない。セキュリティ設定しているのか。公開するならマーカーは引けるようにしてほしい。

2.実践の枠組みとしての学習観
このパラグラフでは「知識の習得による学習」と人間の学習は知識の習得ではなく「対話やコミュニケーションから生まれるものであるといった学習」の違いについて触れている。ここから共同体における社会的なかかわりや共同体の中に存在するものを相互作用含めて生じるメンバーになっていくと言ったところを主張している。

3.プロジェクト学習の目的と特色
このセクションでははこだて未来大学にプロジェクト学習を導入した流れが述べられている。はこだて未来大学プロジェクト学習では「あらかじめ設定された課題」に対し「チーム」で活動を通じ自主的に次の4点を身に付けるということを目的としている。
(1)問題の発見
(2)共同作業
(3)問題解決
(4)報告
この辺の考え方は参考になる。

学習時間は年間を通じて週4日といった時間が与えられているということで、4コマ90分× 4x30回とすると、180時間だからなのでかなり長時間プロジェクト学習に当てているということがわかる。

プロジェクト学習の評価についても記載があった。「学生自身の評価」「チーム学生からの評価「担当教員の評価」の3つで評価をしている。360度評価に近い評価を導入していて参考になる。

学習ポートフォリオや発表会のフィードバックをもとに「自己評価」のほか、「同僚評価」によるピア評価と教員対話で最終評価にするとしている。

4.実践の結果
2007年度のプロジェクトのテーマについて一覧が記載されている。プロジェクトのテーマは教材開発や医療現場における情報環境の構築などICTの活用を中心に多岐にわたる。その後学習効果についてのアンケート結果がまとまっている。アンケート結果については全体的にポジティブな受け止めとなっている。

特徴的な点として、チームティーチング(TT)についてのFDAアンケートがあり、複数教員がプロジェクト学習を担当することによる教員間のコラボレーションによる意識の向上など良い評価を得ている。

5.活動を支える仕組み
継続的、円滑にプロジェクト学習の活動を支える仕組みとして
1)教員数名からなるワーキンググループ
2)学生による自主管理
学生間の自主管理のシステムは参考になるが、グループリーダー以外の詳細についてはよく分からなかった。

その他、地域社会・市役所などとの関わりも少し述べられている。外部との関わりはどのようなプロジェクト学習でも重要なものになると思う。

6.考察
考察の部分が面白かった。「共同的メタ認知」を中心に考察が進む。「学習とは、他者との協調活動や議論のプロセスであり、知識はその過程で構築されている」と述べられている。個人から共同体へのシフトをと認識すべきであるという主張で、このプロセスを促進する上でのキーワードとして「共同的メタ認知」を挙げている。

「共同的な活動においては、他者の存在が言語化や身体的表現などのコミニケーションを必然的に生み出し、フレクション(内省)を促進させる」として、「活動の中で共同的に知識が構築され、学習が生起され、推進されていく」としている。

「学習が生起され」のところは重要であると思う。プロジェクト学習により学習が創発的に起こることを示唆している。

プロジェクト学習の「遂行中には、学生のメンバー間や担当教員だけでなく、学外者とのコミニケーション機会も提供され文化や社会の中で価値が形成されていくのである」とある。この部分がプロジェクト学習の大きな目標といえると思う。

考察の後半は「成人の教育学(andragogy)」について述べられている。andragogyの成果として、Knowles(Malcolm S. Knowles)の話しが述べられている。

<学習者の特徴>
1)実利的
2)動機が必要
3)自律的
4)関連性
5)高い目的思考
6)豊富な人生経験

があるとしていて、プロジェクト学習により、学習者の動機付けを促しているとしている。この学習者の特徴は学習をデザインする上で参考になると思う。

また研修成果の測定として、「Kirkpatrick モデル」が紹介されている。研修成果を測定するために、次の4つのレベルを測定することとしている。

レベル1:Reaction反応(アンケート等)
レベル2:Learning学習(学習到達度の評価)
レベル3:Behavior行動(行動変容の評価)
レベル4:Result業績(実際の結果の評価)

「Kirkpatrick モデル」をプロジェクト学習の評価に適用できないか考察しているが、この辺の評価は難しそうである。

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