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南十字星の真下で Ⅵ[ウロンゴン 〜 レイクス・エントランス]

沼のようなキングスクロスでの生活から脱出できたのは、ここ、ウロンゴンにナイトクラブがあると聞いたからである。

スリーウェイズモンキーズが六本木の"マハラジャ"だとするとウロンゴンのクラブは横須賀にある場末のナイトクラブといったところか。

「海の歌(song of the sea)」が名前の由来と言われるウロンゴン。しかし、2日目になると、またキングスクロスに戻りたくなってきた。

トライアスロンという目標が無くなった今は朝まで踊るナイトクラブに夢中になっている。しかし、

「行けるところまで南へ進む」

と意を決して、シドニーと逆の方向に向かって走り出した。郊外を自転車で走り抜け、久しぶりに地平線まで広がった草原を目にする。

「今日からまたこの景色の中を走ろう」

吹き抜ける風が心地よかった。ところで僕は、

「1ドルで買った地図」

を持っている。A4サイズにオーストラリアが収まっており、これ1枚で旅をすると無謀さをアピールしているアホであった。

とにかく地図の右下部分は走りきり、進路を南から西へと変えた辺り、レイクス・エントランスという町にやってきた。

そして湖が一望できる、キャラバンパークに宿を決める。そこは旅人が集まり、情報を交換する場所でもあった。そんな中、ある大男が

「お前はどうやって来た?バスか?車か?
 俺はバイクでやって来たぞ」

と大きな声で自慢している。そして隅の方でビールを飲んでいる僕のところにもやってきやがった。

腕や肩にタトゥーを施し、いかにもアメリカンバイクでやって来た男は、

「ヘイ、ジャバーニーズボーイ ハウ ドウ ユー トラベル?」

と聞いてきた。僕は近くの木に立てかけてある自転車を指差して、

「ザット ワン」

と答えた。さっきまで大きな男が、だんだん小さくなって、

「プ、プッシュ バイク、、、フエアー フロム?」

と尋ねた。そして間髪入れずに

「ゴールドコースト!」

とVBのボトルを掲げて微笑んだ。
そうこうしているうちに日が暮れ始め、洗濯や食事の準備をしているとボロボロになったウォルマートのカートを🛒押して1人の東洋人が現れた。

彼は旅慣れた感じで、自分のテントを張り、持ってきた食材で手際よく料理を始める。気になって僕から声を掛けた、

「どこから来たの?」

すると彼は

「ケアンズ」

とさりげなく答えた。そのショッピングカートには、よく見れば"Cairns"と書かれていた。僕の2倍以上の距離をこのカートを押してやってきたのか、、、

「何日ぐらい旅をしてるの?」

カズというその青年も、真っ黒に日焼けしていて、最初はお互いが日本人と思わなかった。彼は遠くを見るように、

「もう2年は経つかな」

と答えた。そして最近までメルボルンで少しの間、働いていたのだと言う。

「ん? ま、まさか左回り?」

なんとカズ君はケアンズを出発してダーウィンを渡り、パースまで来るのに1年かけてやってきた。

ダーウィンからパースまでは、その殆どが砂漠で日影が全くなく、昼間は死ぬほど熱い。なので昼間は道路の側溝を見つけて、その中に潜り込んで眠ったという。さらに彼は、

「たまに大トカゲがいて、寝床の取り合いが大変やった」

とサバイバルな昼寝をし、日が暮れてから、月の明かりでカートを押し続けた。そして毎晩少しずつ、少しずつ歩いたという。

なんという凄まじい経験であろう。彼の体験を聞くと、僕の自転車旅行なんて大したことねーと思えた。



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