夜の散歩の文章

傷だらけになって
敵も味方も作って
血を吐くように
花を吐くように
書いた言葉は呪いか祝いか

のろいもいわいも おなじことか

しずかな夜半に
電灯のひかりに陰影を孕まされながら
群生した躑躅つつじが こちらを見て揺れている

しんしんと睡って 起きた日の夜は
すこおし 柔らかくて こわい
どうせ死ぬのに また書いている
膨大に遺して 一体 なにになると?

意味など求めずに 紡ぐ糸は
いずれ 一枚の美しい布を生み出す
肌寒い日に ひとを暖める布を

パリ郊外の町のことを思う
日本の小さな この鄙びた町にも
案外 たくさんのひとが住んでいるものだ

ぼくがいなくなったあとも
このまちは このまちのままだろうか
鳥も植物も寝ている時間に
翳のように 歩く くつぞこをつれて

年々 沈黙が好きになってゆく
数人にだけ 話せればいい
あとは 詩にしてしまえば

いつかはぼくもいなくなるんだよ
たくさん遺しておこうね
こんなもの単なる塵芥かもしれないけれど

のろいか いわいか それともごみか
わからないけれど
静かな椿のぼってりとした花が
項垂れているあいだは
この夜の芳醇な濃密さを吸い込んで
詩にする以外に 口紅代わりのものは
見当たらなくて

夜でも 花は馨るんだね
それもいやになるほど

バイオリンの音 遠くから微かに
鳴っている

のろいもいわいも
塵芥も宝も おなじことか


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