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森に檜葉の馨りのすることに

空を見ている
はじめてきたのに
やけになつかしい町で

狂人の熱心さで
よいみらいだけ 想像していた

水の流れのように思考は流れ
微睡まどろむ海辺うみねこのことばの響く

太陽がちかちかっと光って
汗が過去のように流れていった
さっきまでは 夜だったのに

生まれたばかりの子供が走って
ふわりと消えた
そのまま単なる色彩のかたまりになり
走り抜ける雨の影に 足音がまじる

この町の夜は深くて暗くて
けれどきちんと人の気配がする

波の音に泣きたくなるのは
なぜだろうか
居心地がいいのにやけに寂しいのは
なぜなんだろうか

漆黒に飲まれぬように
ことばをかぎにして正氣に捕まっていた
それなのにそれなのにいつもいつでも
宇宙の大きさに圧倒されるばかり

まア まともぶってまって
お前たちのその胸の骨のそのうち
わたしが狂っていると言えるほどの
狂氣と闇があるのか と乾いた笑いです

狂うている者たちかさつく唇で
沈黙し ゆらゆらと立ち尽くす
自らより余程狂うている社会を見て

はなびらがおちて
闇のなか 色が灯る
悲しげな女が貌色かをいろの悪さを隠そうと
そっとさした頬紅のようだと
言った声が やけに反響して

あれは あれは
あれは誰の声だったか?

山々の峰が あがりつさがりつ
宵に溶けて 暗闇にその輪郭を映す
どこからきてどこへゆくか
来ては去ってゆくひとびとのせなかを見送って

わたしも移動しながら
思いを馳せている
とおゐかこ もしくはみらい

意識と無意識のまざりあった
濁っているくらやみを
反響音が ちかちかとまたたく
ざわざわと人々のうごく音
どこからきてどこへゆくか
ひかりもあれば やみもまたしかり

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