殺意の夜のあとに

書きかけた文字の 影が揺れる朝
千切れた 悪夢の 残像
薄く残った アルコールの馨り
移り変わる場面 賽子の面のよう

見違えるように咲く徒花の
ちぐはぐな色合いのはなびら

花芯の 熱 ゆすいだくちもと
与えられたものに 
与えられているものに
視点を 固定している

白く霞んだ 夢の町
あの角を曲がった先の
香木 馨る 日本家屋の軒先で
あのひとが待ってゐますゆゑ

話し聲 くぐもった 壁越し
淫靡な 気怠さ 首を反らして
吐き出した吐息がぽかりと
浮かんで 白熱電灯になる

百合の花の 濃い花粉が
ゆびさきについている
陰影の彫られた あしもと
いのちの練り込まれた真ッ暗昏闇

果たして 果たされるのかも
わからない 航海を
海図もない 小さな舟で
小節数を 数えて

殺すのは簡単なこと
虫でも獣でも ひとでも
でも安易なことッて厭なの
莫迦でも出来ることで得意がらないでね

テキストの染み
閉じた唇の 薄さに滲む
その色香に 惑わされてしまえば
詩情にしか 寄りかかれなくなる

揺れる葉のかたちに
たいようが 透けて
目を細めた あなたの肌の
感触だけを くびにかんじて
じっと手を見る
啄木さん そうだねえ

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