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手紙を書く人

単なる雑草とよばれるものの
美しさをじんわりと胸に沁みさせて
いのちをあじわうこのひとときに

わたしは古い傷とあやまちを思い出す

愛した人の面影や 触れた指先のもどかしさ
広すぎる空は 人の手には負えない

深く息を吸えば ひかりが入ってくる
むねのなかに たくさんの ひかり
形のない水を飲むようにして
肺臓のかたちにひかりがおさまり
愛のほのかな甘やかさに
喉元のなんとすっきりすることよ

今日がはじまって また終わる
出会いがあり 別れもまたある
ひとりでいて ひとりでない

ひとりぺそぽそと呟いた言葉
みちしるべにして 山野をゆく
舌先で 水の甘さをたしかめて
夏の空の青さに似たその甘やかさ

胸が締めつけられるよ
生きているというのは
むねがぎゅうとなるほどに
いとおしく うれしい

ありがとうの五文字
下唇をふるわせて 空にうかべた

疲れた肩 張っているふくらはぎ
痛む背中を はげまして
もうひとあるき 汗をかきかき

どこまでもちっぽけな自分を
宇宙のかたすみに置いて
泣いたり笑ったりしている
木の梢にさがった果実は汗をかいて風に揺れた
鳥がはばたいて 黒い影絵になる

あなたはいまどこにいるのだろうか
わたしはいまはここにいて
すぐにまた違う場所へいく

書いている手紙があなたへ届く日を待ち
ただ ただ むねをこがして
このむねをこがして
膨大な愛の喜びに包まれている

群青色のざわめきのこへ
もうすぐ陽がしずむ頃だ
さア もうすぐ 陽のしずむ
しめつけられる胸かかえて
わたしは 味わい尽くす
むねいっぱいの現世うつしよ
わたしという素粒子の集合体
ありきたりで変わり映えのない奇跡

あなたに書いた手紙の一端を
思い出したりしながらも


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