いびつさとゆめとあしをと
今日の世界は深くて昏い
だれもいなくて聲がしないのだ
わたしのいないところで
すべてはうごいていて
わたしは睡氣を抱いて丸くなってゐる
植物の名前を教えてください
七月のひかりを砕いて
葉脈に注ぎ込むやうにして
あなたを愛していたい
石の手触りを指先に感じて
太陽を見つめている夢
窓の外は冷たい雨だというのに
頁の閃く隙間に
やけに薄くなった悲しみ
斃れて空を見てゐました わたし
騒がしい夏が早く来るやうにと
耳元を水音かと思いきや
それは小さな黄金虫の跫で
adagio assaiに耳を澄ませる要領で
聞き惚れてしまうのです
硬い甲殻のなかに
透明で柔らかな翅をしまって
儚いいのちを青空に羽搏かせる
かのじょたちのすがたをみてゐると
泣いてしまう あまりの
生の美しさ 有り難さに
草臥れる現実の外側で
さらに高く純度をあげて
言の葉にゆびを這わせてね
そうしろと 囁くのよ
わたしの靈が
音のない室でこんこんと
睡り続けているあゐだにも
せかいはまわりつづけてゐるのでしゃう
わたしは言葉と極彩色の夢と
植物に囲まれた図書室で
翳の悲しさに床を濡らしてゐました
暮らしには向かない
いびつなおのれを持て余して
それでも ひずみながらも
うつくしく しあわせも味わいながら
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