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小説

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今までにnoteに投稿した短編小説のまとめです。
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記事一覧

洋酒町は今日も晴れている

 洋酒町の駅を降りて、小汚いまちかどや美しい植え込みの脇を通り過ぎた先にその雑居ビルはあ…

ことばや
3か月前
21

不眠症珈琲店

ことばや
8か月前
16

メゾン・山の背骨二〇四号

ことばや
8か月前
12

濡れた歩道、雷の音、火曜日現在

結局のところ、やはり、とアンダーソンは言った。 なるほどねえとわたしは言って、アンダーソ…

ことばや
9か月前
9

当然の選択は、難しすぎる?

 その昔、神さまがエジプトに齎したとされている、十の禍いのお話は知っていますか?  キナ…

ことばや
4年前
15

四十四丁目の星屑たち

 真っ暗な空間。女性の形をした影が言った。  「あなたもわたしも、細かな粒子の集合体なの…

ことばや
4年前
10

暴力的な誕生祝い

 七年前にジミーの二番目の奥様が亡くなった。  そのお葬式の席で挨拶をした私にジミーは  「この世で一番暴力的な誕生祝いって何だと思う?」  と質問をした。  私はわからないわ、と言った。  ジミーは黙って、頭をゆっくりとさげた。  この度は妻の為にわざわざお越しいただき…という紋切り型の文句と共に。  木曜日の朝、部屋でひとりで亡くなっているのをジミーは発見された。  二番目の奥様が亡くなってから私はジミーと週に二回、一緒にお茶を飲んでいた。  火曜日と、金曜日。  だ

三日後にメゾンマルジェラの五十丁目から五十七丁目にかけて、コーヒーを飲みます。そ…

 ミアは家の中でも、職場のショッピングモールの中でも傘を差している。彼女が幼い少女だっ…

ことばや
4年前
8

愛を込めて創った、あの夜の

 君はあの日を覚えているだろうか。  その手紙の冒頭は、そう書き始められていた。  君はあ…

ことばや
4年前
10

空想に要する経費

 A1.  バルナベは誰とも知り合わない。  相手がバルナベを知っていても、バルナベは相手を…

ことばや
4年前
12

虚数と、尊厳

 兎に角、食事をしにいった。  父はいつもの職人姿ではなく、貸衣裳屋で借りたスーツを着て…

ことばや
4年前
12

xxxxをxxxxxさせられるのは、もう

 「お前はフォズミに搾取されているよ、きちんと考えた方がいい」  マロッケロがジェルミに…

ことばや
4年前
6

脂肪と老廃物、小さな廃墟

【0. 指を切ったクロエ】  鋏で指先を切った。紙を切ろうとした鋏の切っ先に、少しだけ指が…

ことばや
4年前
8

イブニング・ドレスは期待する

厚手のドレープカーテンのように、その婦人の顎はたるみ、何層にも重なって、複雑な迷宮を首もとに生み出している。  隣には筋骨隆々としていて、何かを考えている『振り』をするのが得意そうな、明るい笑顔だけがトレードマークの若い脳筋男。  婦人が笑い、筋肉男の肩をそのしなやかな手で叩く。指には大きく輝く石のついた指輪。白粉の匂いと、撲殺された動物の毛皮。  一目見るだけで、裕福なのだとわかる醜い中年女。  エリザベスは嫌悪と軽蔑の念を押し隠して、なるべく微笑みをたたえた無表情を維持