ことばや

矢島です。言葉売りをしております。 音楽や小説や詩などを書きます。 お仕事依頼は wo…

ことばや

矢島です。言葉売りをしております。 音楽や小説や詩などを書きます。 お仕事依頼は wordstore.official@gmail.com まで。

マガジン

  • 詩のようなものもの

    自分で書いたものの中の、詩のような短いものです。シとはいうものの、死的ではなく、ですが私的に近いものではあります。恣意的かどうかは想像にお任せします。

  • よろこびのたね

    ちいさなことばたちです。 詩にも散文にもならない、ちいさなことば。 読む人の喜びの種になることを願って。

  • 小説

    今までにnoteに投稿した短編小説のまとめです。

記事一覧

固定された記事

洋酒町は今日も晴れている

 洋酒町の駅を降りて、小汚いまちかどや美しい植え込みの脇を通り過ぎた先にその雑居ビルはある。建てられてから既に七十年近くが経っているそのビルは洋酒町の中でも特に…

ことばや
3か月前
21

いびつさとゆめとあしをと

今日の世界は深くて昏い だれもいなくて聲がしないのだ わたしのいないところで すべてはうごいていて わたしは睡氣を抱いて丸くなってゐる 植物の名前を教えてください …

ことばや
4日前
15

Xylocopaの翅越しにも世界はあおく

掌にすっかり載るほどの 小さな世界を凝視ていた 鮮やかな色味が構築しては それぞれに離れて また構築されてゆくさま 心の中の宇宙分のいちの揺らぎに fは微笑むやうにし…

ことばや
5日前
13

20240504-05 kyoto

山々の峰の背後に やけに奥深い次縹の空 鳥の聲を聞いたよう氣がする あなたの詩は経口補水液のようだと わたしに継ぐそのくちにうかぶ微笑を 水面に映る木々を見るように…

ことばや
12日前
18

葉擦は本から目を離さない

葉擦は光を透かして揺れる 結び葉のような澱の髪の毛を見ている。 澱はその美しい緑じみた黒い髪を 清流の一部のようにさらさらと風に揺らし 眉間にしわをよせて本を読ん…

ことばや
2週間前
13

ラザーニャ・アル・フォルノは美味しい

玻璃は春琴を見つめる。 愚かなあなた、というわけだ。 それで? 仕事をして稼いで それからそのお金でどうするの? どうもしないさ。 金は安心を買うために存在してる…

ことばや
2週間前
10

それは単に彼が感傷的になりすぎているという

他者を審判する時だけ みんなお得意の調子なんだから。 ひとは宗派が違うひとの考え方を 否定しなければ自己崩壊するって信じ込んでる。 玻璃はうつむきがちに言った。 …

ことばや
2週間前
10

転寝の隙間

めそめそと泣いて泣いている理由なんて ムスカリの花が搖れてたとえ一瞬閒だとしても 世界に殘す薄紫の滲んだ翳を眠たそうに見る ねえ 釣鐘草? 鐘の音を聞かせてよ 森…

ことばや
2週間前
8

休むタイミング

にこにこできなくなってきたら 休むタイミング なのです 自分の機嫌は自分で取るのです

ことばや
3週間前
10

猫背な寒芍薬

銀河の匂いがする漆黒に昏い夜 植物たちは 濃密に ひそひそ話だ。 短歌の母が末期癌の友人の話をしている。 相槌以外の慰め方を知らない短歌は ただ話を聞いている。 …

ことばや
3週間前
8

音階と透明な歌声、それから美しさについて

さても、不思議なことだ。 透明な歌声は、空を見上げてそう言った。身体にあっているのに、不思議と窮屈そうじゃないスーツに身を包んでいる。誰もいないのに跫がするじゃ…

ことばや
3週間前
17

夜の散歩の文章

傷だらけになって 敵も味方も作って 血を吐くように 花を吐くように 書いた言葉は呪いか祝いか のろいもいわいも おなじことか しずかな夜半に 電灯のひかりに陰影を孕…

ことばや
3週間前
14

日記230420

曲を作って 言葉を書いて 本を読んで そして死んでいく 金を稼いだり 稼がなかったり 高級ホテルで寝たり 野宿したり いろんな夜を通り過ぎて ひとは死んでいく 葉っぱ…

ことばや
3週間前
13

さよならの詩

価値がわからないのなら とりあげてしまうこと うしなってから すきだすきだと見苦しい たいせつにできなかったのは あなたのほうじゃない? 大切にできる人にだけ あげ…

ことばや
4週間前
12

おれは

おれは スピってて ヘラってて 超変わってて 独自のルールがあって 面倒くさくて 感度が高くて すぐ泣くし笑うし怒るし 繊細で 社会不適合者で どこのレコード会社にも …

ことばや
1か月前
34

ということ

刮いだ意図の縒った繊維 誰かの天使だったあの人 泣けない朝に 窓越しのひかりを 窓越しのひかりを見ること たぶんだけど 陰影の作り出す図形に 意味ではなく美しさを見…

ことばや
1か月前
14
固定された記事

洋酒町は今日も晴れている

 洋酒町の駅を降りて、小汚いまちかどや美しい植え込みの脇を通り過ぎた先にその雑居ビルはある。建てられてから既に七十年近くが経っているそのビルは洋酒町の中でも特に細くて静かな路地にあり、そのビルの中で《いちばん屋》は営業している。  恩田詩織はビルの入り口に立って、目の前にそびえ立つ古い建物を見上げていた。ビルの入り口には幅の広い階段が数段あり、その先に昔は透明であったであろう観音開きの硝子扉が居眠りするように閉まっている。奥には老い寂れた緑の公衆電話の棲むロビーと、その向かい

いびつさとゆめとあしをと

今日の世界は深くて昏い だれもいなくて聲がしないのだ わたしのいないところで すべてはうごいていて わたしは睡氣を抱いて丸くなってゐる 植物の名前を教えてください 七月のひかりを砕いて 葉脈に注ぎ込むやうにして あなたを愛していたい 石の手触りを指先に感じて 太陽を見つめている夢 窓の外は冷たい雨だというのに 頁の閃く隙間に やけに薄くなった悲しみ 斃れて空を見てゐました わたし 騒がしい夏が早く来るやうにと 耳元を水音かと思いきや それは小さな黄金虫の跫で ad

Xylocopaの翅越しにも世界はあおく

掌にすっかり載るほどの 小さな世界を凝視ていた 鮮やかな色味が構築しては それぞれに離れて また構築されてゆくさま 心の中の宇宙分のいちの揺らぎに fは微笑むやうにして踊っているよ 緑酒に泳ぐ微生のゐのちの ことばを ことばを嗅ぎ分けて 生活を暮らしとして見立てて 収縮しかけた想像力に ミネラルをたっぷりと注いだのは あなたなのです 他ならぬ あなた 直線すぎるのはきらい 動植物の呼吸にあわせて 鬻ぐ文字列の煌めき 睡る睫毛に似てゆるやかに その傾斜をふるわせる 蕺菜

20240504-05 kyoto

山々の峰の背後に やけに奥深い次縹の空 鳥の聲を聞いたよう氣がする あなたの詩は経口補水液のようだと わたしに継ぐそのくちにうかぶ微笑を 水面に映る木々を見るようにみていた 笛の音が燦々と降る 音のない暖かな春の日に 響く祀り囃子は 夜明けの合図よ おどるからだのゆれるすきとほった ひざしのてらす はだのうちうちに うちゅうぎんがと あいをみていた ひとつのちいさな ちりほどのたましひ わたし かわるのですね かわってゆくのですね もうかわったのですね ああ、、、

葉擦は本から目を離さない

葉擦は光を透かして揺れる 結び葉のような澱の髪の毛を見ている。 澱はその美しい緑じみた黒い髪を 清流の一部のようにさらさらと風に揺らし 眉間にしわをよせて本を読んでいる。 窓枠型に切り取られた空に 幾何学模様に滲んだ陽光が薄く。 襯衣の釦の上みっつを外した 澱の胸元は薄く筋肉がついていて それなのに薄っぺたく、少し汗ばんでいる。 澱は本を開いたまま、目を瞑った。 寝ているのかもしれない。 彼は夜更かしが好きで 夜中によく起きていては 何かをごそごそとしているから。

ラザーニャ・アル・フォルノは美味しい

玻璃は春琴を見つめる。 愚かなあなた、というわけだ。 それで? 仕事をして稼いで それからそのお金でどうするの? どうもしないさ。 金は安心を買うために存在してる。 今日はふたりきりだ。 バルコニーには波音と午后の 美しい日差しが勝手に攀じ登ってきていて 春琴と玻璃の目を楽しませようとしている。 ひとびとは見る必要も興味もないものばかり スマートフォンから摂取し続けてるわ 誰かの私生活。 大量にアップロードされては スクロール、消費されてゆく 誰かの加工された私生活

それは単に彼が感傷的になりすぎているという

他者を審判する時だけ みんなお得意の調子なんだから。 ひとは宗派が違うひとの考え方を 否定しなければ自己崩壊するって信じ込んでる。 玻璃はうつむきがちに言った。 その声には何かを恨んでいるような 強く憎んでいるような調子さえ含まれている。 問題はその厳しい戒律を ひとに押し付けたい人だって 角度を変えて見れば 同じようなことをしているってことよ。 人間なんて五十歩百歩じゃない。 まあ、それをアイデンティティとも呼ぶのさ。 春琴は開襟シャツを指でつまんで ぱたぱたと

転寝の隙間

めそめそと泣いて泣いている理由なんて ムスカリの花が搖れてたとえ一瞬閒だとしても 世界に殘す薄紫の滲んだ翳を眠たそうに見る ねえ 釣鐘草? 鐘の音を聞かせてよ 森が霧に包まれていて包まれていて きっと溫度が高すぎるんだ 著莪のやうな優しさがあなたの心の奧に そっと咲ゐてひるそれは ぼくの淚を呼び起こす 主人が餌で飼い犬を呼ぶやうに 蓮華躑躅の美しさはまるで炎のやうヂャなゐか 匂いが濃くなっていく しかし濃くなっても仕方なかろ 誰も嗅ぐ者のいないやうヂャね 生きてみ

休むタイミング

にこにこできなくなってきたら 休むタイミング なのです 自分の機嫌は自分で取るのです

猫背な寒芍薬

銀河の匂いがする漆黒に昏い夜 植物たちは 濃密に ひそひそ話だ。 短歌の母が末期癌の友人の話をしている。 相槌以外の慰め方を知らない短歌は ただ話を聞いている。 短歌の住むのは小さな町だ。 この小さな町に生まれたことにすら 意味があるんだと最近は思う。 小さく 美しい町。 この小さな町は人口一万人に満たない 自然の多い、古ぼけた町で 町自体の小ささに反して空はやけに広い。 短歌は古本をいつもポケットにいれて 時々酔っ払って、時々シラフでこの町を歩く。 昔はこの町が大嫌

音階と透明な歌声、それから美しさについて

さても、不思議なことだ。 透明な歌声は、空を見上げてそう言った。身体にあっているのに、不思議と窮屈そうじゃないスーツに身を包んでいる。誰もいないのに跫がするじゃないか。 ぼくは昏がりに目を凝らした。確かに誰もいない。透明な歌声はそちらをじいっと見て、眉毛を下げて小さな息を吐いた。野良猫がさっと横切って、またどこかの庭に入っていく影。 アスファルトはひどく昏く冷たい。夜の闇に陰影を孕まさせられた躑躅たちがこちらを見て揺れているけれど、同情する時間も余裕もあいにく僕にも透明な歌

夜の散歩の文章

傷だらけになって 敵も味方も作って 血を吐くように 花を吐くように 書いた言葉は呪いか祝いか のろいもいわいも おなじことか しずかな夜半に 電灯のひかりに陰影を孕まされながら 群生した躑躅が こちらを見て揺れている しんしんと睡って 起きた日の夜は すこおし 柔らかくて こわい どうせ死ぬのに また書いている 膨大に遺して 一体 なにになると? 意味など求めずに 紡ぐ糸は いずれ 一枚の美しい布を生み出す 肌寒い日に ひとを暖める布を パリ郊外の町のことを思う 日

日記230420

曲を作って 言葉を書いて 本を読んで そして死んでいく 金を稼いだり 稼がなかったり 高級ホテルで寝たり 野宿したり いろんな夜を通り過ぎて ひとは死んでいく 葉っぱがきれい 陽光に透けて 花萌葱色の 光線 世界は美しくて 目を細めてしまう 眩しい街路から 初夏の白茶けた あわい匂いがする あのひとのつくった曲 とてもいい曲なのだけれど だあれもしらない それが ただ 間違ってるとか正しいではなく さみしいんだ わたしたち だれもしらない美しさが 人知れず朽ちて

さよならの詩

価値がわからないのなら とりあげてしまうこと うしなってから すきだすきだと見苦しい たいせつにできなかったのは あなたのほうじゃない? 大切にできる人にだけ あげる わたしのこころ 泣くくらいなら たいせつにすればよかったのに ほらまた 過去を取り戻そうとして 今を蔑ろにしてる わたしは もうたくさん泣いたから 今になって あなたのためには  一粒だって 泣いてあげない さようなら もうわたしには 指一本もふれられないひと 機会は幾度もあげたのに ばかなひと ほ

おれは

おれは スピってて ヘラってて 超変わってて 独自のルールがあって 面倒くさくて 感度が高くて すぐ泣くし笑うし怒るし 繊細で 社会不適合者で どこのレコード会社にも 作家事務所にも マネジメントにも 所属したことはない そもそも声もかけられない 超無視されてる 超シカトだ グループはみっつやって ぜんぶ最悪に解散したし 音楽でも言葉でもぜんぜん食えない でも天才とはめっちゃ言われる ミュージシャンや尊敬するクリエイターには 天才に見えるらしい まだぜんぜん食えないけど

ということ

刮いだ意図の縒った繊維 誰かの天使だったあの人 泣けない朝に 窓越しのひかりを 窓越しのひかりを見ること たぶんだけど 陰影の作り出す図形に 意味ではなく美しさを見出して お下がりのエムエーワンを着てること 抽象的な曲線を持つウンベラアタ 花の蜜に似たゲヴェルツの話 ユキヤナギをゆびさきで愛でながら ひたひたと温度を飲み続けること この社会は生き辛くて そんなもの ずっと昔からで 今更 死ぬほどのことでもなくて ただ そばにいると あなたのそばにいると いつもよりは息が