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マロン内藤のルーザー伝説(その16 難航する嫁ぎ先探し)

渡独が決まり、泣く泣く1976年製ポルシェ930ターボ(ター坊)との離別を決意したマロンであったが、その売り先選びは難航を極めた。当初期待した正規代理店ポルシェセンターでは引き取ってもらえず、リフレッシュプログラムを通じ固い信頼関係で結ばれたサービス部門の若きリーダーSさんから特別にご紹介いただいた某ビンテージポルシェ専門店をター坊と共に訪ねた。

後から知ったのであるが、その専門店は知る人ぞ知る空冷ポルシェ専門のプロショップであり、ミツワ自動車(長年日本でポルシェの輸入販売を手がけていたかつての代理店)の整備部門に在籍していた腕利きメカニックも出入りするプロ中のプロによるマニアのための専門店であった。小さな店のガレージには相当手を入れたと思われる新車のような状態の古い空冷ポルシェ達が並んでいる。このお店がなんたるかを物語る光景に「ここならター坊の本当の価値をわかってくれるはず」そんな期待を抱いたマロンは、ここでター坊の「本当の価値」を知ることになる。

「今の状態ではプロショップとしてお客様に販売することはできず、売り物にするためには追加整備に少なく見積もって20万円が必要」というのがショップ側の見解であった。これまでモグラたたき風に数々の部品を交換したものの、ブレーキは相変わらず効かず、乗り心地もスパルタン極まりなく、異臭で窓を閉められず、毎回エンジンを始動する度に「なんとかかかっておくれ」とご祈祷するような状態なのであるから、ある程度覚悟はしていたものの、相当程度くたびれた状態との客観的評価に落ち込まざるを得なかった。

追い証が必要との厳しい現実を突きつけられたマロンの腕には、かつてポルシェセンターのSさんから受け取ったリフレッシュプログラム交換部品リストが握りしめられていた。葵のご紋よろしくショップオーナーにリストをお見せし、然るべきメンテナンスは然るべき正規代理店にて然るべく実施した旨を泣きそうになりながら訴えたのだが、残念ながらプロ中のプロの判断を覆すには力不足であった。まさに「人生楽ありゃ苦もあるさ~♪」格さん助さんどころか風車の弥七すら助けに来てはくれなかったのである。

さて、このショップオーナーも、ますます打ちひしがれるマロンをみて余程気の毒に思われたのであろう。「このクルマを買ったお店に売るのが一番」という考えてみれば当たり前のアドバイスを授けてくれた。思わず「現物渡し・保証は一切なし」「危ないから絶対飛ばしてはならない」と言ってター坊をマロンに売ったあのおじさんの顔が浮かぶ。ポルシェセンターに浮気した出戻りの自分を諸手を挙げて歓迎してはくれまい・・・しかし渡独の時は刻一刻と迫りつつあり、気が進まないなどと言っている余裕はもはや残されていなかった。

エピローグに続く・・・

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